【ヴェネチア・ビエンナーレの期間中に開催されたブチェラッティの回顧展「The Prince of Goldsmith」については、こちらからご覧ください】
ひらめきを与え続けてくれる街で
マドモアゼル・ユリア(以下、ユリア):ヴェネチアでのエキシビション「The Prince of Goldsmith」を拝見して、とても素晴らしい作品の数々に感動しました。なぜヴェネチアを開催地に選んだのでしょうか?
アンドレア・ブチェラッティ(以下、アンドレア):エキシビションをご覧頂き、ありがとうございます。ヴェネチアはとても美しい街で、昔から私たち家族にインスピレーションを与えてくれる「アートシティ」でした。
街を歩けば、ふとした街角や建造物のちょっとしたディテールにも、芸術的な雰囲気が感じられます。また、私たちはヴェネチアの職人たちをリスペクトし、その仕事にも影響を受けてきました。建物を形づくっている石、街を行き交う人々……。すべてのものからインスピレーションを得ることができる場所、それがヴェネチアなのです。だからこそ、今回の企画展はヴェネチアでぜひ開催したいと考えました。
メゾンに継承されてきた技と哲学
ユリア:世界中から芸術に造詣の深い人々が集まるビエンナーレの会期中にエキシビションを開催することで、ブチェラッティの高い芸術性をあらためて世界に示したように思います。特に蝶をモチーフにした4代にわたる作品は、代々受け継がれている技とともに、それぞれの個性の違いもわかり、非常に興味深かったです。
アンドレア:そうですね、祖父の代から始まったブチェラッティは、当然ですがそれぞれの世代で生きてきた時代の影響を受けてきました。
たとえば、初代のマリオは1930年代のアールデコのスタイルです。彼の息子のジャンマリアはバロックのスタイルを好み、特に花のデザインを得意としていました。そして、私はジオメトリックなデザインを好むミニマリスト。さらに私の娘のルクレツィアのスタイルは、私以上にシンプルを追求しています。
このように私たちデザイナーにはそれぞれ個性がありますが、メゾンに継承されてきた技巧と哲学は一切変わっていません。エングレービング(彫金)の技術一つとっても、それは祖父が使っていた最も古典的な技法のひとつであり、私や娘の世代までしっかり受け継がれています。だからこそ、デザインは異なっても、すべての作品の根底に「ブチェラッティらしさ」が存在するのです。
日本の美意識にも通じる「こだわり」
ユリア:「ブチェラッティらしさ」とは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
アンドレア:ほかのメゾンとの一番の違いを挙げるとすれば、ひとつのファミリーが変わらずものづくりを行っているところではないでしょうか。近代化し過ぎずに次の世代にバトンを渡していくこと。それが、未来を失わないことにつながると思っています。
とはいえ、祖父や父は、私を含むアトリエの職人たちに何か特別な言葉を使って技法や哲学を伝えてくれたわけではありません。デザイン画はモノクロでしたし、今でもそれは変わっていません。祖父や父をはじめとする熟練の手仕事を間近に見て学ぶことで、技術や哲学は受け継がれてきたのです。
たとえばポリッシュの工程一つとっても、私たちのアトリエでは、通常1回の磨きを2回行っています。あまりに形状が複雑で細かいため、彫金を施す前に一度ポリッシュを行わなければならないのです。こうしたことも、代々受け継がれてきたことの一つです。
ユリア:妥協することなく、細部までこだわるところは、日本人の美意識にも通じる気がします。日本を訪れたことはありますか?
アンドレア:もちろんです!
ユリア:何かインスピレーションを受けたものはありますか?
アンドレア:とにかくすべてがインスピレーションの連続でした。私は、何かをデザインするとき、あるいは何かを創作するとき、あらゆるものからインスピレーションを受けるのです。美しい石を見て、美しいジュエリーを想像することはもちろん、美しい建築物を見ても、それをどうジュエリーに反映させるかを想像したりします。あらゆる事柄が私にとってはインスピレーションの源泉なのです。
この記事は『和樂』8・9月号でもご覧になれます。
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