えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。
甲冑職人の技でできたイセエビ
つあお:まずは、このイセエビに注目ですね!
まいこ:食べたいです!
つあお:ハハハ。まずは食い気から。銀製なので、食べるのは難しそう。でも、すごいリアリズムですよね。とにかく作りが細かい。まさしく「超絶技巧」の作品だ。
まいこ:まるで本物のエビみたい。パーツがものすごく細かく分かれていますね。
つあお:足のつき方や胴体の構造が本当に絶妙。たわくし(=「私」を意味するつあお語)は、この2本のしゅるっと伸びた触覚が素敵だなと思いました。
まいこ:この触覚はほんとに立派ですね。これも食べたら美味しそう!
つあお:イセエビの触覚って食べられるんですかね。
まいこ:揚げればパリパリして美味しく食べられるのではないでしょうか?
つあお:食べられる部位を残さずに食べてしまおうというまいこさんの姿勢は、実に素晴らしい。この作品を魚たちにも見せて、反応を確かめてみたいですね。
まいこ:本物と間違えて逃げるのか? それとも近づいてくるのか?
つあお:イセエビの天敵と言われるタコが食べたら、さすがにびっくりするだろうなぁ。
まいこ:タコに歯があったら欠けちゃいそうですね(笑)。赤くなくて、金属の色のままというのは面白いですね。
つあお:強そうな感じがします。そもそもエビは甲殻類(こうかくるい)。イセエビは特に立派だから、本当に鎧(よろい)を着てるみたいに見える。2本の触覚のおかげで兜(かぶと)を被っているようでもある。だから、金属であることにも大いに納得が行く!
まいこ:わーお!
つあお:そもそも、江戸時代に甲冑(かっちゅう)を作っていた職人の技術が、このイセエビの工芸品にも生きているらしいんです。作った職人にとっては同じようなものだったのかも!
まいこ:作品名に「自在置物」という言葉がありますが、動く部分がある工芸品のことでしたっけ?
つあお:そうです。関節や胴体の蛇腹状の部分が「自在」に動くらしいですよ。
まいこ:一般的な彫刻とは違って形が固定されていないのは、逆に面白いですね。動くということは、それだけ本物に近いということにもなりますよね。
つあお:そうなんです。そこにも、甲冑職人の技術が生きているらしい。甲冑にはたくさん動く部分がありますからね。そして、こうした工芸品が輸出された欧米では、ものすごく評判が高かったらしい。
まいこ:すごいですね! こんなに緻密な作品は、日本ならではという感じがします。
つあお:そもそも、こうしたものを金属で作ろうという発想が、なかなかないような気がします。
まいこ:実用的な技術から遊び心のある作品が生まれるのっていいですね!
つあお:遊び心万歳!
円山応挙の絵から学んだ五感全開の手法
つあお:海辺に鶴の群れがいるこの屏風は、見ていてなかなか清々しいですね!
まいこ:見ている私たちにも水しぶきがかかってきそうなくらい海が近い!
つあお:波の描き方が変化に富んでいる。なかなか素敵ですよね。
まいこ:うねりがたくさん感じられて、こちらに向かって来ているようです
つあお:「磯の香りがする作品」という説明がありましたね。
まいこ:五感の中の嗅覚(きゅうかく)で感じる作品ということですね。
つあお:海辺だから、波の音や風も感じられる。
まいこ:波がたくさん立っているので、風は結構強そう。涼しさも感じます。
つあお:これはかなりの荒波ですね。サーフィンができそうだな。
まいこ:へぇ、そんな感想が出てくるということは、つあおさんはサーファーだったんですか?
つあお:昔サーフボードを持っていて、1回だけボードの上に立つことができました。まぁ、全然才能がなかったわけですが。
まいこ:1回だけでも立てたこと自体がすごいですね! この波でも行けますか?
つあお:やってみないとわからないけど、きっと気持ちいいだろうなぁ。
まいこ:鶴たちが観客ですね!
つあお:ちなみにこの屏風絵の作者は、幕末〜明治維新の時期に三井総領家の当主だった三井高福(みつい・たかよし)。どうも元になる絵を、江戸時代中期の名絵師として知られる円山応挙(まるやま・おうきょ)が描いているようです。
まいこ:へー、三井家の人が描いたとは! それにしても構図が素晴らしいですね。そういえば、三井記念美術館さんには応挙さんの名作がありましたよね!
つあお:そうそう、毎冬展示している『雪松図屏風』は三井記念美術館の宝物ですもんね。この展覧会に出ている『滝に亀図』も素晴らしい。
まいこ:うわぁ、涼しい絵ですね!手前に 亀さんがいるのがまたいい。
つあお:ということは…この展覧会では、三井高福と円山応挙の作品を通じて鶴と亀が出会ったことになる!
まいこ:めちゃめちゃ縁起がいいですね!
つあお:三井家に幸あれ! この美術館は、約350年に及ぶ三井家のなかで収集され、伝えられた文化遺産なのですよね。
まいこ:(笑) そういえば鶴の絵柄のお椀も展示されてましたね。解説を読むと、鶴を食べることが書かれていて衝撃を受けました。
つあお:お正月に食べる、まさにおめでたい料理だったんですね。鶴を食べると、きっと千年生きられますよ。
まいこ:千年も生きたくはありませんが(笑)、この風習を知った後で改めて『海辺群鶴図屏風』の鶴を見ると、結構肉付きがよくて脂が乗っているように見え、ぜひ食べてみたいなと思いました!
つあお:食い気で始まり食い気で終わりましたね(笑)。
まいこセレクト
今回、「五感であじわう」がテーマだったので、文字に頼らず五感全開で鑑賞してみました。すると、ピピっときたのがこの作品です。4枚の襖全面に板が斜めに貼り詰めてあってオシャレ。その斜めの線を活かして秋の情景が描かれた、襖の非凡なたたずまいに惹かれました。この斜めの線が、強い風の効果を出していて、描かれたススキやクズの葉が激しくたなびいています。ビュービューと吹く風の音、そしてその圧力が感じられてきました。ふと気がつくと、右上にぼんやりと月がかかり、そこに、野分(のわき=台風などの暴風)をものともせずに元気な白ウサギがぴょんと出てきました。
私はこのウサギを丸焼きにして食べたときの味を想像してお腹が空くなどなど、五感を総動員して楽しむことができました。五感の中の「味覚」を意識すると、作品に登場する動物が、みな食べ物に見えてきたのは私だけでしょうか……(笑)。ちょっと変わった、新しい鑑賞の境地が開けた気がしました!
つあおセレクト
「雨雲」という銘が見事な茶碗。銘はたまたまできた模様に対して後でつけられたものと思われますが、この銘を知って鑑賞すると、碗の側面にまさに厚い雨雲がかかった中で雨が降っている風景が見えてくるのですよね。
それにしても、さすが、江戸初期の才人、本阿弥光悦の作品だと思います。千利休らによって茶道が勢いを得た直後の時期の作品であることを考えると、さらに味わいが増します。かつて三井家の茶席では、この茶碗を実際に使っていたこともあったのだろうと想像すると、うらやましく、そして心地よい気分になります。茶道をほとんどたしなんでいないたわくしのような者でも、茶碗を手で持ったときの感覚、茶の香りや味、温もりやのど越し、さらにはその場に流れる静謐(せいひつ)な空気などが脳内を占めるのです。
つあおのラクガキ
浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。
五感を開けば、絵や彫刻は美味しく見えるし、犬や猫などの動物はたとえ触っていなくても、もふもふと愛でることができます。文明が発達し、画面を通してものを見ることが激的に増えている現代、多くの感覚が閉ざされているのが現実なのではないでしょうか。五感を開くことは、本来の人間の能力を取り戻すことでもあるのです。
Let’s open your five senses!
展覧会基本情報
展覧会名:美術の遊びとこころⅧ 五感であじわう日本の美術
会場:三井記念美術館(東京・三越前)
会期:2024年7月2日~9月1日
公式ウェブサイト:https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html