Culture
2024.12.15

お年玉もかるた遊びもルーツは平安? お正月文化とともに『光る君へ』を振り返る

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お正月は日本文化がぐっと身近になるとき。受け継がれてきた風習のなかには、平安時代までルーツをたどることのできるものが、いくつもあります。平安時代が舞台の大河ドラマ『光る君へ』を振り返りながら、正月文化の中に藤原道長や紫式部が生きていた時代のなごりを探してみましょう。

羽根突きのルーツは貴公子のスポーツ?

『光る君へ』の序盤で貴公子たちがさっそうと馬に乗り、得点を競い合っていたスポーツが打球(だきゅう)。イギリスのポロによく似ていましたね。
日本ではこの打球がやがて「ぶりぶり毬杖(ぎっちょう)」という、紐に木槌をぶら下げて振り回し球を打ち合う子どもの遊びへと変化して、羽根突き遊びの元になったという説があります。

『打毬合戦双六』一登斎芳綱 出典:国立国会図書館デジタルコレクション

『破魔弓とぶりぶり毬杖』柳々居辰斎 出典:メトロポリタン美術館

魔を退ける破魔弓・破魔矢

男の子の初正月に飾る破魔弓、神社でいただく破魔矢は、いずれも平安時代に宮中で行われていた正月の行事「射礼(じゃらい)」がルーツといわれています。
子どもたちが弓矢で的を射て占いをする行事へと変化し、その的をハマと呼んだことから、破魔という文字を当てて、魔を退ける縁起物へとなっていきました。

古来、弓矢は魔を退けるといわれ、弦打(つるうち)や鳴弦(めいげん)といって、皇子が誕生するときや誕生後の沐浴の儀式のときに、弓の弦を打ち鳴らす習慣がありました。

一条天皇の中宮・彰子の出産を描いた『栄華物語図屏風』にも、弓を持っている男性が描かれています。

『栄花物語図屏風』より、一部をトリミング ※アイキャッチ画像も 出典:ColBase

『光る君へ』でも、皇后・定子の出産シーンで弟の伊周と隆家が弓を手に寝ずの番をしていました。彰子が出産するシーンでは、公達がずらりと並んで弦打をしていましたが、怨霊が大暴れしていましたね。ドラマでは実直な人物として描かれた道長ですが、それだけ怨まれていたということは……。

かるた遊びのルーツは「貝合わせ」

「百人一首かるた」、「犬棒かるた」、「郷土かるた」など今では様々な種類があるかるたも、お正月遊びの定番です。
かるたのルーツは、平安時代の貴族の遊び「貝覆い」がルーツ。はまぐりなどの二枚貝をバラバラにして、貝の模様や大きさなどからぴったりと対になる貝を見つける遊びで、「貝合わせ」ともいいます*。
やがて貝の内側にそろいの花鳥画や源氏絵、和歌の上下を書くようになり、現在のかるた遊びへと変化していきました。

*「貝合わせ」はもともと貝の大きさや美しさを競う遊びでしたが、のちにぴったりと合う貝を探す「貝覆い」のことも「貝合わせ」というようになりました。

『Box with Cards for the Poem Card Game』柳々居辰斎 出典:メトロポリタン美術館

『光る君へ』では、一条天皇のもとに入内したばかりの幼い彰子が、さみしげに貝で遊ぶシーンがありました。
2人の間に皇子が生まれた後には、和泉式部ら彰子に仕える女房たちと貴公子たちが庭に華やかな貝を並べて遊ぶのを、笑顔で眺めていましたね。

『桜と貝殻』柳々居辰斎 出典:メトロポリタン美術館

「お年玉」は年神さまのおすそわけ

『光る君へ』の舞台は、天皇の外戚(母方の親族)が摂政・関白となって政治の実権をにぎった摂関政治の真っ只中。一条天皇が7歳で即位したのも、彰子が12歳で入内したのも、摂関家が権力を握り続けるためでした。昔は、生まれた年を1歳としてお正月に1つずつ年を重ねていく数え年でしたから、今の年齢の数え方だとさらに1~2歳幼かったことになります。

『New Year Decoration and a Set of Bed-Clothing』蜂房 秋艃 出典:メトロポリタン美術館

お正月に新しい1年の命(魂)を授けてくださるのは、年神さまです。「お年玉」は年神様からいただく贈りもので、命の象徴。かつては年神様にお供えしたのち、家族で分けあっていただくお餅のことを「お年玉」と呼んでいたそう。今、お正月に子どもがもらえるお小遣いはそのなごりです。

「松」は永遠の象徴

冬でも緑色の葉を落とさない松は、永遠の命や若さを象徴しています。平安時代から、お正月には年神様を迎えるための目印として松を飾っていたのだそう。

『Man and Woman in Court Dress Looking at Young Pines for New Year Ceremony』長山孔寅 出典:メトロポリタン美術館

宮中の儀式が、民間の行事となり、子どもの遊びとなって……。
かたちは様々に変わっても、家族の無事や子どもの健やかな成長を願う心は、今も昔も同じです。

おなじみの正月文化が、平安時代から今へと受け継がれてきたのだと思うと、なんだか時空を超えて紫式部に会えたような気がします。

参考書籍:
『王朝のかたち』猪熊兼樹・文 林美木子・有職彩色(淡交社)
『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)
『国史大辞典』(吉川弘文館)
『改訂新版 世界大百科事典』(平凡社)
『日本古典文学全集 栄花物語』(小学館)

書いた人

岩手生まれ、埼玉在住。書店アルバイト、足袋靴下メーカー営業事務、小学校の通知表ソフトのユーザー対応などを経て、Web編集&ライター業へ。趣味は茶の湯と少女マンガ、好きな言葉は「くう ねる あそぶ」。30代は子育てに身も心も捧げたが、40代はもう捧げきれないと自分自身へIターンを計画中。