大阪・中之島エリアは、歴史的建築物や古くからの歴史を持つレトロな意匠の橋が集まり、美しい景観に満ちています。今回はこの中之島エリアにある、大阪府立中之島図書館へのお出かけに同行しました。オフにふさわしいリラックスした出で立ちは、舞台の肩衣と袴姿とは印象が変わります!
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レトロモダンな佇まいに惚れ惚れ
大阪府立中之島図書館の正面に立つと、ギリシア神殿を思わせる荘厳な造りに圧倒されます。ここが図書館として利用できるのが、嘘のようです。中之島図書館は、明治37(1904)年に第15代住友吉左衛門の寄付によってつくられました。大正11(1922)年には住友家の寄付で左右の両翼が増築されて、ほぼ現在の建物が完成したそうです。昭和49(1974)年には、本館および左右の両翼の2棟が国の重要文化財に指定されています。

外観はルネッサンス様式を、内部空間はバロック様式を基本とした格調の高さで、見学するだけでも価値のある建物。入り口を入ると、すぐにおしゃれなシャンデリアがあり、舞踏会が始まる!? そんな妄想も楽しめそうです!!

館内にある織太夫さんおすすめ絶品グルメ
中之島図書館のなかには、おしゃれなカフェがあり、食事を楽しむことができます。「ここの看板メニューは、デンマークの伝統的なオープンサンド・スモーブローなんですよ」と、織太夫さんに教えていただきました。グルメの織太夫さんは、こちらのお料理にぞっこんなのだとか。

季節のフルーツを使ったスイーツメニューもあり、モーニングやランチ、カフェに利用できるのが嬉しいですね。趣のある窓からは緑が見えて、大阪の町に、こんな隠れ家的なスポットがあったとは驚きです。図書館を利用した前後に、このシックでおしゃれな空間でお料理をいただくのは、いかがでしょう。

お気に入りの中之島エリアで過ごすオフタイム
織太夫さんは同じ中之島エリアにある大阪市中央公会堂※1で、毎年「中之島文楽」※2に出演をされており、ご縁が深い場所でもあります。また土佐堀川と堂島川に囲まれた中之島公園には、約4000ものバラが園内を彩り、見頃の時期には、多くの人で賑わいます。大阪の市役所を中心とした行政の顔もありながら、緑豊かな環境と水辺の景観が楽しめる、大阪人の憩いのスポットです。
つかの間の休息にふさわしい今回のファッションは、お気に入りで、ヘビロテした組み合わせなのだそう。いつも織太夫さんのファッションに興味津々の、和樂web・鈴木 深編集長の反応は、さていかに!?
(※2)「人形浄瑠璃文楽」を初心者や外国人にも楽しめるように、工夫を凝らして上演されるイベント。

ファッション解説・鈴木 深
今回も、もちろんやります「編集長の、勝手にファッション解説」。今日の織さま、一見すると“昭和初期のぼんぼん小学生の夏休み”、といった風情です。
ノーテンキでハッピーな半ズボン姿に見えながら、それでもどこかほんのり凄みが漂ってしまう秘密は、織さまの着用しているアイテムの裏に潜むストーリーにあります。
ポイントは、ずっしり重いものを軽々と背負う「織スタイル」、と言ったところでしょうか。
それでは解説していきましょう。今回、注目すべきはなんと言っても、ひざ上丈のハーフパンツ「グルカパンツ」です。色はもちろんオリ(織)―ブカラー。

こちらはウエスト部分にダブルストラップがあり、股上が深く、ツータックのプリーツで非常に動きやすく、暑い季節でもストレスなく着られる逸品。
「グルカパンツ」の起源は、ネパールの山奥に暮らす複数の民族(通称グルカ族)で構成されたプロフェッショナルな傭兵集団「グルカ兵」の戦闘スタイルにあります。「グルカ兵」はその勇猛果敢ぶりが伝説のように語られている一方、ネパールという国家の歴史の中で、その存在の仕方は複雑です。
「臆病と言われるなら死を」とも伝わる彼らのモットーの通り、「グルカ兵」の勇敢さと身体能力の高さはまさしく世界最強で、1814年に始まった「グルカ戦争」ではイギリスの東インド会社との戦いでイギリス軍に大きな打撃を与え、世界中に存在が知られました。
その戦闘能力の高さは、戦勝国イギリスから特に高く評価され、その後イギリス軍の部隊として活躍することになったことは有名。その信頼の厚さは絶大で、イギリス女王にはふたりの専属グルカ将校がつき、全ての国務に出席していたほど。
そのほか第一次世界大戦、第二次世界大戦、近年ではフォークランド紛争やイラク戦争にもプロフェッショナルな傭兵として参加し、国連の平和維持軍としてもネパールから各所に派遣されています。
かつて「グルカ兵」を構成したネパールの山岳民族の若者たちにとっては、「生きること=戦うこと」だと言えるでしょう。そして彼らの心意気を象徴するアイテムが、独特の形状の「ククリナイフ」であり、つばひろの帽子「スローチ・ハット」であり、我らが織さまの愛する「グルカパンツ」なのです。“小学生の夏休み”な風情でありながら、そこはかとなく迫力が漂ってしまうのは、そういうわけなんです。
この「グルカパンツ」に合わせるのは、我らが太夫の大好物「パナマシャツ」です。
こちらも、こだわりのド変態シャツであることは、言うまでもありません。
「パナマシャツ」については「竹本織太夫 着こなしの美学4」で詳しく語っているので、こちらをご参照ください。
https://intojapanwaraku.com/fashion-kimono/250203/
以前の記事で紹介した「パナマシャツ」は半袖で首周りがゆったりめで、フルレングスのパンツに合わせていましたが、今回のようなハーフパンツに合わせる場合、シャツは長袖であることが「織さま流」の絶対条件。
首元にチラ見えする、下に来たTシャツは、海兵隊に支給されていたアンダーウェアのUNDERSHIRT,COTTON,SUMMERですね。
シャツのそでのまくり方がクルクル細めにまくられているのも「織さま流」。
この首元と手元の繊細なバランスが重要で、コンパクトな首周りの清潔感はあくまでも「私は“ちょい悪”な輩とは違うので!」とのことw。
「戦うこと=生きること」を地でいくような太夫の美意識のなかでは、「ちょっとだけ悪い」といった中途半端さは許容されないわけです。

そして足元には、まさかのADIDAS! なんとスニーカーですよ!! 2008年製のADIZERO ADIOSは、生成色のメッシュで、パナマシャツとの相性抜群です。
靴紐は平織りにラメ入り。靴紐までの細部に至るこだわりは、いつもながらさすがです。
斜めがけのバッグ(サコッシュ)は、リアルに戦場を駆け回るための赤十字バッグ。
戦場で命懸けで、怪我人を手当して駆け巡る医療スタッフ御用達の銘品です。
こちらについては、以下の記事をご覧ください。
https://intojapanwaraku.com/fashion-kimono/269952/

この凄まじいまでの決意を込めて使用されているサコッシュ。大戦時には一般市民が既製品の生地でパジャマやポーチなどを作り、それをレッドクロスへ寄付することがあったという。今回我らが太夫のバックはホワイトヘリンボーンツイルレッドクロスエプロンバッグ! よくよく目を凝らしてみると小さな缶バッジが付いています。
「この缶バッジは、一体どんな心意気の表れなのですか?」と織さまに聞くと「ああコレ? 大好きな日本橋弁松総本店(つまりお弁当やさん)の缶バッジです。ここのお赤飯がうまいんですよ」との答えが!
えええっ? マジですか? 命懸けで装着するアイテムにお弁当やさんの缶バッジですか?
この意外すぎる答えに絶句しつつも、「そうか、前のめりに生きる織さまを支えるファクターとして、口にする物へのリスペクトは惜しまないのであろうな」と半ば強引に納得してみました。
しかしな〜、この着こなしでイチジクのパフェを前にして満面笑みの織さまの写真を見るとな〜、やはり「昭和初期のぼんぼん小学生の夏休み」であることは否めません!
取材・文/瓦谷登貴子
取材協力/ 大阪府立中之島図書館、スモーブローキッチン中之島

