上方落語の世界でファンからも演者からも愛される情報誌があります。それが上方演芸情報紙「よせぴっ」です。「よせぴっ」は上方落語定席「天満天神繁昌亭」が開館した2006年9月に創刊した月刊フリーペーパー。落語を中心に浪曲、講談の情報を掲載して、毎月7千部を発行しています。東京にも演芸専門誌の「東京かわら版」がありますが、「東京かわら版」が企業で発行する有料の雑誌であるのに対して、「よせぴっ」はボランティアで作るフリーペーパーです。約10人のスタッフがそれぞれの本業を持ちながら、「よせぴっ」の活動に参加しています。人手もお金も決して余裕のない中でいかにして創刊して、継続してきたのか、演芸ライターであり「よせぴっ」編集長の日高美恵さんにお話をお伺いしました。そこには落語と読者のことを第一に考える日高さんの純粋な姿勢と、それに感謝して応援する演者や読者の存在がありました。
「よせぴっ」創刊の経緯
日高さんが「よせぴっ」を創刊したきっかけは繁昌亭のオープンに合わせて「東京かわら版」のような雑誌を関西でも作ってほしいと当時の上方落語協会の事務局長から相談されたことでした。最初は予算のことなども考えて難しいと考えていたそうです。ところが、東京の大銀座落語祭に行った帰りの新幹線で一緒に観に行っていたイラストレーターの中西らつ子さんと話が盛り上がり、その場で「よせぴっ」という名前やフリーペーパーとして創刊することを決定。それは繁昌亭オープンのわずか2カ月前のことでした。それから日高さんは印刷屋さんを探し周り、落語家さんに落語会のスケジュールを送ってもらい、大急ぎで編集。繁昌亭オープンの約2週間前に開催された上方落語のお祭り「彦八まつり」に間に合わせて創刊号を発行したのです。その「彦八まつり」では予定の2千部がすべて配布され、大盛況でのスタートになりました。
わずか2カ月で創刊するってすごい行動力ですね。モチベーションはなんだったのでしょうか。日高さんに伺いました。
「落語愛と、あると便利やからとりあえず作ろうという気持ちですね。お金のことも何も考えずに最初は作ってました」(日高)
当時の関西では落語会の情報源は落語家さん個人のDMやチラシが主流だったこともあり、落語ファンの中には自分の行きたい落語会のチラシを束にして持ち歩いている人もいたそうです。インターネットが普及してきても、落語ファンにとって紙媒体は無くてはならない情報源であると、長年関西の情報誌で演芸担当をしてきた日高さんは身を持って感じていたのでしょう。