Culture

2026.05.26

新たに発見された織田信長からの60通目の書状を、細川護熙さんが作家・和田竜さんに解説【後編】

和田竜(わだりょう)さんのベストセラー小説『最後の一色(いっしき)』で描かれたのは一色五郎と細川忠興(ほそかわただおき)の、丹後(たんご)を舞台にした戦いでした。和田さんと、表紙の美しき武将を描いたオザワミカさん、戦いのシーンに武士の血が騒いだという護熙(もりひろ)さんの長女・さと子さんと共に、最近発見されたという織田信長(おだのぶなが)からの60通目の書状を拝見するべく細川護熙さんの待つ東京・目白台(めじろだい)にある永青文庫(えいせいぶんこ)を訪ねました。

信長の書状と小説『最後の一色』を通して戦国の世へ思いを馳せ、護熙さんの近況と次の計画へと会話は盛り上がった

永青文庫の会議室にて。右・奥/細川護熙さん、右・手前/細川護熙さんの長女・三井さと子さん。左・奥/作家・和田竜さん、左・手前/イラストレーター・オザワミカさん。ちなみに、この机はヴェルサイユ条約が締結された際に使われたものだという。

「新たな信長像を見るようで、すごく面白い書状だと思います」和田竜

――新たに発見された、織田信長から細川家への60通目の書状は、細川藤孝(ふじたか =幽斎〈ゆうさい〉)にあてたもの。興味深いお話しが【前編】より続きます。

細川 本当に信長の危機だったんだと思いますね。藤孝にとってもそうでしょうけれど。

和田 幽斎にとっても、一大決心の、直前の時代ですよねえ。

細川 足利義昭(あしかがよしあき)に対してはほんとに、いろんなことで助けてきたけれど、この男はだめな男だなあという感じを強くもっていたでしょうね(笑)。

和田 ただ信長に付くときには、義昭のためにいろいろやってきたので、断腸の思いだったんじゃないのかなと僕は思いますけど。できれば仲よくやってほしかったというのは、やっぱりあると思いますね。

細川 しかしまあ、やるだけはやったっていう思いもあるでしょうね。

和田 そうかも。ほんとに藤孝が主導していろいろやっていたわけですからねえ。

細川 光秀(みつひで)にしてもそういう思いがかなりあったんじゃないでしょうかね。将軍に対してはね。

和田 そうでしょうねえ。

細川 そういう意味では60通目も貴重なものが出てきちゃったもんですから。

和田 ええ。これは面白いですね。

和田竜さんを案内して永青文庫の階段を上がる細川氏。熊本県知事、内閣総理大臣を経て、60歳できっぱり政界を引退したのち、1から作陶、書画を極めた細川氏に、ひたすら驚く和田さん。京都に点在する細川家ゆかりの寺に描いた襖絵の見学や、目黒川沿いにあるアトリエの見学も約束した。

「敵をどう斬るか…戦うシーンは私の中でいちばん盛り上がりました」三井さと子

オザワ 私、忠興の最後のほうはほんとに黒のイメージがあります。

細川 あ、甲冑(かっちゅう)ですか。

三井 和田さんのご著書の中での馬揃えの黒のお装束のイメージがあったからか、私も忠興には黒のイメージがあります。

和田 忠興はわからないけど、幽斎は黒の甲冑を好んで着たと書いてあるんですよね。だからそれも受け継がれてたってつもりで、大馬揃えのときに忠興は全身真っ黒ということにしたんだけれども、まさにそれに通ずるようなデザインですね。
三井 なんだか渋かっこいい感じがします。

オザワ うん。そうですよね。

三井 忠興の甲冑にしても着物にしても、ちょっとおしゃれだけれども華美ではない。自ら工夫して機能性も極めている。

細川忠興が関ヶ原の合戦で着用したと伝わる黒糸威横矧二枚胴具足(くろいとおどしよこはぎにまいどうぐそく)細川忠興所用。兜(かぶと)の上に山鳥の尾を立てるスタイルは、「御吉例」の具足として代々受け継がれた。永青文庫蔵(熊本県立美術館寄託)

オザワ そういえば、さと子さん、武術をされているんですよね。

三井 ええ、合気道と剣術。袈裟斬(けさぎ)りをしているときがいちばん幸せ(笑)。

和田 それは俵(たわら)を斬るんですか?

三井 いやいや、もう素振りです。色々と形はあるのですがひたすら袈裟を斬っているときが楽しくて。

オザワ すごい。

三井 夏に両親と軽井沢に行くときも、熊が出るというので、長閑(のどか)な農道を散歩する際は父と母が後ろを歩いて、私はそこらへんに落ちている丁度よい長さの枝を拾って袈裟斬りしながら護衛のように歩きます(笑)。

オザワ その気迫に熊もこの人には絶対勝てないとわかる気がする。絶対大丈夫!

細川 武家の血が騒ぐんじゃないですか?

三井 騒ぎますね!(笑) 和田先生の『最後の一色』には、敵をどう斬るかが詳しく書かれているので、私も頭の中でイメージをふくらませながら読みました。戦うシーンは私の中でいちばん盛り上がりました。

和田 そうなんですか(笑)。

元々は細川護熙さんの祖父である護立(もりたつ)氏の家政所であった洋館が、今は細川家の家宝を所蔵する永青文庫に。4階フロアのアンティークなソファに腰掛け、オザワミカさんと三井さと子さんの女子トークは弾む。

三井 次回作も楽しみです。もし細川家の誰かを主人公にした物語を和田先生に書いてもらえるとしたらだれを書いてほしい?

細川 だれでしょうねえ。

三井 私(わたくし)、とか言わないでね(笑)。

オザワ あ、いいかもしれません。

三井 実は凄く面白い(笑)。

細川 いろいろしてますからね(笑)。

オザワ ほんとに、龍安寺の龍の襖絵とか素晴らしすぎて。ああ、こういう視点を持ち合わせた方が総理大臣をなさっていたんだと思って、すごく感動しました。

和田 そうですね。

「次の集合場所は龍安寺、秋の京都ですね!」オザワミカ

三井 父はもう好き勝手に生きているので、私たちは振り回されっぱなしの人生ですけど。60歳で政治家を辞めるというのは昔から公言していましたが、まさか本当に辞めるとは‥。で、その後いきなり陶芸等を始めたので、びっくりですよ。

和田 え、どういうことですか? 30代ごろから陶芸の心得があったのでは?

三井 びっくりですよね。違うんですよ。いきなり陶芸家の辻村史朗(つじむらしろう)先生のところに行って1年ぐらい帰ってこなかった。

細川 1年半住み込みで教わったんです。

和田 そんなことが60歳からできるんだというね。びっくりだよ、ほんとに。

オザワ でも、目利きというか、もともと見る目があるのか才能があるのか、普通ちょっとやり始めたからといって、あんなにすごいものはできないので。

三井 だからね、なにかが降りてきてるとしか思えなくて(笑)。

オザワ いや、ほんとにすごい。

細川 ただ凝り性なだけですよ。

三井 あ、それは間違いないです。とにかく凝り性で集中力が半端ないんです。

和田 絵も60歳からですか?

細川 絵は70近くなってからですね。

オザワ 信じられない。70歳を過ぎて新たなことをやって、それであんなすごいものを描くとは…普通の人はできないですよ。

和田 できない、できないです。

三井 龍安寺に龍の襖絵をお納めしたのは3年前? あのとき40面をお納めして、さらに52面をお納めして。それら92面の襖絵は今秋、一般公開されます。

オザワ 次の集合場所は秋の京都ですね!

戦国時代の怪物、17歳の一色五郎を描く『最後の一色』

数々の名作を生み出してきたベストセラー作家・和田竜氏の12年ぶりの新刊。17歳で戦場に立ち、織田信長の前に突如現れた“怪物”は戦国時代の若き武将・一色五郎。織田信長に丹後を支配するように命じられた智将・長岡(細川)藤孝、猛将・忠興親子は、決死の覚悟で一色五郎と戦う。戦国時代でも最も混沌とした天正7年からの3年間における、戦場の迫力、人間の情熱と野望、そのすべてが本書につまっている。上巻2,100円(税込)、下巻1,900円(税込)小学館 https://www.shogakukan.co.jp/pr/isshiki/

「熊本城 -守り継がれた名城400年の軌跡」永青文庫で開催中(~6/7)


700年の歴史をもつ熊本藩主細川家伝来の美術品や歴史資料、そして設立者である16代細川護立(1883~1970)の蒐集品を所蔵する永青文庫。春季展4月11日~6月7日は「熊本城」。加藤清正によって築かれ、熊本に入国した細川家が約240年にわたり居城とした名城。2026年4月で熊本地震から10年を迎える「いま、むかし」を知る。
住所:東京都文京区目白台1-1-1
電話:03-3941-0850
開館時間:10時~16時30分
休み:月曜
公式サイト:https://www.eiseibunko.com/

※本記事は雑誌『和樂(2026年4・5月号)』の転載です。
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和樂web編集部


撮影/三浦憲治 ヘア&メーク/白川いくみ 構成/新居典子、高橋木綿子 協力/永青文庫
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