Culture

2026.05.21

新たに発見された織田信長からの60通目の書状を、細川護熙さんが作家・和田竜さんに解説【前編】

和田竜さんのベストセラー小説『最後の一色(いっしき)』で描かれたのは一色五郎と細川忠興(ほそかわただおき)の、丹後(たんご)を舞台にした戦いでした。和田さんと、表紙の美しき武将を描いたオザワミカさん、戦いのシーンに武士の血が騒いだという護熙の長女・さと子さんと共に、最近発見されたという織田信長(おだのぶなが)からの60通目の書状を拝見するべく細川護熙さんの待つ東京・目白台(めじろだい)にある永青文庫(えいせいぶんこ)を訪ねました。

信長から細川藤孝(幽斎)にあてた書状と、小説『最後の一色』についてのお話しは尽きることなく


写真左:細川護熙(ほそかわ もりひろ)さん
1938年生まれ。戦国武将細川忠興の直系子孫、旧肥後熊本藩細川家の第18代当主。熊本県知事、内閣総理大臣を経て60歳を迎えたことを区切りに政界を引退し、以降は、作陶、書画などの創作に勤しむ日々。2013年に京都・建仁寺(けんにんじ)の塔頭(たっちゅう)寺院で細川家の菩提寺(ぼだいじ)・正伝永源院(しょうでんえいげんいん)の襖絵(ふすまえ)「瀟湘八景図(しょうしょうはっけいず)」24面を手がけ奉納。2019年に奈良・薬師寺慈恩殿(やくしじじおんでん)に66面、2022年には京都・龍安寺(りょうあんじ)本堂の襖絵「雲龍図」全92面、2024年には高野山の總持院(そうじいん)の襖絵32面などを奉納した。
左から2番目:三井さと子(みつい さとこ)さん
1974年生まれ。細川護熙氏の長女で、三井家に嫁いだ。今年2月に「オザワミカ『最後の一色』新聞連載挿画展」を訪れ、交流が生まれた。
左から3番目:和田竜(わだ りょう)さん
1969年大阪府生まれ。脚本家、小説家。2003年、映画脚本『忍ぶの城』で城戸賞を受賞。2007年、同作を小説化した『のぼうの城』(小学館)で直木賞候補に。映画化もされ200万部のベストセラーとなる。2017年に『忍びの国』を映画化。自身で脚本も書いた。2014年『村上海賊の娘』で本屋大賞、吉川英治新人文学賞などを受賞し、累計300万部を突破。2025年11月、『最後の一色』を出版。
右:オザワミカさん
1970年愛知県生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍、演劇関連の絵の仕事を手がけている。1年半にわたる新聞連載『最後の一色』の挿絵を担当。単行本化にあたり、表紙も描いた。

「細川家には信長からの手紙が59通ありますが、最近60通目が発見されました」細川護熙

三井さと子(以下、三井) そもそも、わたくし、和田さんがお書きになった『最後の一色』を読ませていただいて大興奮したんです。私の勉強不足ですが、実は細川家の歴史で一番知らなかった丹後攻略について、ピンポイントで和田さんが小説をお書きになっていたので。丹後攻略にいかに苦戦を強いられ、一色家と対峙したのか、私の中でほぼ初めて知ったことでした。しかも、一色五郎が主人公であるにもかかわらず、敵対する細川家を悪者に描いておられない。

オザワミカ(以下、オザワ) 愛おしいキャラクターですよね。

三井 どちらかというと忠興(ただおき =三斎〈さんさい〉)の成長物語のような感じで描かれていて、私も一緒に忠興の気持ちになって一色五郎に対峙(たいじ)しているような感じがしたんです。読んだ後に小学館のホームページを調べると、和田さんとミカさんとのトークイベントがあるというので、即応募しました。

オザワ そうだったんですね。

三井 私は嫁いでいるので細川姓ではないし、普通に一般客として応募しました。そのトークイベントがとても面白くて、本の内容についてもいろいろお話しいただいて、忠興が、藤孝(ふじたか =幽斎〈ゆうさい〉)が、と身内の会話みたいな感じで皆様がお話されるのがとても新鮮でした。最後の和田さんへの質問コーナーで、いちばん前の席におかけになっていた女性が「この本を読んで細川忠興の大ファンになりました」と。で、細川家の歴史について書いてある家記『綿考輯録(めんこうしゅうろく)』を全巻古本屋で買って今読んでいますという、そんな方でしたよね?

オザワ いらっしゃいましたね。

三井 私もうびっくりして。私も読んだことがないのに、すごい方がいると思って…もうその方にもお礼を言いたいぐらいでしたけど(笑)。私も名乗るべきかどうしようかと迷いながらも、もうこんな機会はないし、ひと言お礼を申し上げたいと思い、恐る恐る手を上げて「実はわたくし忠興の直系の子孫です」という話をしたんです。

オザワ 名乗り上げてくださったとき、お客様もスタッフも場内は大騒然でした。

60通目の書状の内容を和田竜さんに解説する細川護熙氏。

和田竜(以下、和田) 我々のトークショーより、いちばん盛り上がったよね(笑)。「忠興の直系の者で」って、最初、とっさにわからなくて、どういうことですか?で、お父上は?と尋ねたら「護熙です」って。

オザワ みんな、ええー!って。一番の盛り上がりでしょう。

三井 護熙の長女ですと言わないと、たぶん混乱されるなと思って。でも、あのイベントがあったからこそ、こうしてまたご縁をつないでいただいたんです。

和田 一般的に言えば、一色家に関わる史実は細川家にとっては負の歴史なんです。ですから、トークイベントにさと子さんが来てくださって「ありがとうございます」みたいなことを言われるとは思ってもいませんでした。むしろ、なぜ書くんだというようなことになるのではと。僕は、永青文庫さんからも無視されるだろうと思っていたので、これほど懐(ふところ)深く迎えてくださるとは本当に意外でした。

三井 いえいえ、絶対に幽斎公も三斎公も喜んでいると思います(笑)。

オザワ 和田さん、よかったですね。

和田 本当に。ましてや最近発見されたという織田信長の書状を、ガラス越しじゃなく、細川さん直々の解説付きで拝見できるとは嬉しいです、こんなことないです。

これが新たに発見された信長からの60通目の書状!

元亀3年8月15日付の「織田信長書状」(永青文庫所蔵)

細川護熙(以下、細川) これまで細川家に織田信長からの手紙が59通伝来していることは知られていましたが、最近になって、60通目が発見されました。室町幕府末期に信長包囲網が形成され、対立勢力に包囲されて、その勢力を組織していた足利義昭(あしかがよしあき)との交渉の最終段階の様子と、藤孝の役割を示すものとして注目されています。

和田 信長がたいへんなときですよね?

細川 そうですね。「今年は義昭奉公衆(京衆)のうち音信してくるのは藤孝だけだ。山城・摂津・河内方面(南方辺)の領主たちの組織化を頼む」「今こそ大事なときです。あなたの働きこそ重要なのです」というようなことが書いてあるようです。

和田 『綿考輯録』にも、義昭の面前で上野某という側近と藤孝が口論するくだりが、

細川 ありましたね。

和田 その前の年に比叡山を焼き討ちにして、信長はけしからん、もう罰したほうがいいということを上野某(うえのなにがし)は義昭の前で言って、で、義昭の前で藤孝はそれに反対するんですよ。そんなことしたら自滅するぞっていうような意味のことを言う。その上野さんはたぶん義昭の意向を受けて言っているんだと思うんですよね。藤孝は、義昭の前なのにそれに反対してみせるという強さがあった。信長に賭けるしかないというような考えで言ったんでしょうね。その流れを汲んだ書状ですよね。

細川 もう完全に腹を決めてやってますよね。ほかは全部義昭のほうに行っているわけですから。

和田 しかもこの信長は、藤孝に対してものすごく頼っています。

細川 そうですね。

和田 だから、我々がもっているような、単独でトップダウンでなんでもするという信長のイメージとはだいぶ違う態度で。

細川 へりくだるまではいかないけど、かなり気を使っていますよね。

和田 そういうところが新たな信長像を見るようで、すごく面白い書状だと思います。

――――続きは【後編】へ

戦国時代の怪物、17歳の一色五郎を描く『最後の一色』

数々の名作を生み出してきたベストセラー作家・和田竜氏の12年ぶりの新刊。17歳で戦場に立ち、織田信長の前に突如現れた“怪物”は戦国時代の若き武将・一色五郎。織田信長に丹後を支配するように命じられた智将・長岡(細川)藤孝、猛将・忠興親子は、決死の覚悟で一色五郎と戦う。戦国時代でも最も混沌とした天正7年からの3年間における、戦場の迫力、人間の情熱と野望、そのすべてが本書につまっている。上巻2,100円(税込)、下巻1,900円(税込)小学館 https://www.shogakukan.co.jp/pr/isshiki/

「熊本城 -守り継がれた名400年の軌跡」永青文庫で開催中(~6/7)


700年の歴史をもつ熊本藩主細川家伝来の美術品や歴史資料、そして設立者である16代細川護立(ほそかわもりたつ 1883~1970)の蒐集品を所蔵する永青文庫。2026年の春季展(4月11日~6月7日)は「熊本城」。加藤清正によって築かれ、熊本に入国した細川家が約240年にわたり居城とした名城。2026年4月で熊本地震から10年を迎える「いま、むかし」を知る。
住所:東京都文京区目白台1-1-1
電話:03-3941-0850
開館時間:10時~16時30分
休み:月曜
公式サイト:https://www.eiseibunko.com/

展示作品より、赤星閑意『熊本城之図』 明治時代(19世紀) 永青文庫蔵(熊本大学附属図書館寄託)
※本記事は雑誌『和樂(2026年4・5月号)』の転載です。
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和樂web編集部


撮影/三浦憲治 ヘア&メーク/白川いくみ 構成/新居典子、高橋木綿子 協力/永青文庫
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