450年余の歴史を有する「香十」とは?

香の老舗「香十」は、正親町(おおぎまち)天皇の御代、天正年間の1575年に京都で創業。初代・安田又右衛門源光弘が、香の有用性や優れた特性を漢字四字十項で書き表した「香十徳」にちなんで「香十」と命名しました。この頃より御所御用を務めていたとされ、第二代 政清は豊臣秀吉に、第四代 政長は徳川家康に召されたとされます。
江戸時代には、第八代 十右衛門が名人として、光格天皇へ「千歳」を献上。表千家へ「九重」、茶道薮内に「若草」の銘香を納め、「香十」練香(ねりこう)の名声が一気に高まりました。以後、代々の「香十」主人は十右衛門を継承。
幕末には、西欧の香りや本草学を研究した高井十右衛門芳正が活躍しました。明治以降も伝統を守り続け、その後東京では「銀座 香十」が現代に生きる香専門企業として香文化活動を発信、2016年には創業の地・京都の二寧坂へ里帰り出店しています。
1400余年の和の香文化を継承しながら新しい創造を生み出し、伝統の「香十」練香「黒方(くろぼう)」や名人 十右衛門の名を冠したお香を通じて、日本ならではの豊かな暮らしを提案しています。
「聞香コース」を体験。まず、集中力を試される「灰手前」にトライ

右/「灰手前」の道具。

石井美保(以下、石井):お香はもともと大好き。「香道」は気になっていましたが少し敷居が高くて、経験したことがないのです。
馬越正子さん(以下、馬越):「香道って何?」と、興味をもってくださるお客様のためにもおすすめしたいのが、「聞香コース」です。予備知識がなくても、気軽に試していただけるので人気です。
石井:体験する前の、心構えなどは何かありますか?
馬越:貴重な香木の一木(いちぼく)を楽しんでいただくのがいちばんです。
石井:香木はそんなに貴重なのですね?
馬越:実は香木は、木そのものが香るわけではありません。枯死やバクテリアで朽ちた木の樹脂が、何百年もかけて土中で木質に沈着したもの。これを熱すると香りを発するのですが、この香りを聞きわけることが、香道の第一歩です。香木の産地はマレーシアやインドネシア、ベトナムなどの東南アジアやインドで、もうすでに掘り尽くしたとも言われています。
通常、香りは「嗅ぐ」ですが、香木は「聞く」と言います。諸説ありますが、貴重な天からの恵みである香木と自分との対話、という意味です。
石井:なるほど、貴重な香木と自分との対話……。心して挑みます。
馬越:「聞香コース」では、香道に興味をもっていただきたいとの思いから、「灰手前(はいでまえ)」から体験していただきます。「灰手前」は、香木を聞くための聞香炉の灰を美しく整えるための作法・工程のこと。香木に直接火をつけるのではなく、香炉の灰の中に埋めた炭の熱を伝えることで、香りを立ち上がらせます。正式な香席である「組香」(香りを当てる遊び)などでは、香りを繰り出す亭主役が客の前で「灰手前」を行うのですが、ここではそのいくつかの工程を体験していただきます。
石井:こんなにたくさんのお道具を使うのですね。なんだか難しそうです。
馬越:では、さっそく始めましょう。まず、香炉を回しながら灰を円錐形に整え、次に山の斜面をきれいに整えます。
石井:緊張しますが、集中するのがいい感じです。
馬越:さらに、金属製の箸(はし)で美しい箸目を入れます。石井さん、とてもお上手でしかも手早いですね。
石井:こんなに集中力が必要な作業ってふだんあまり行うことがないので、逆に新鮮で面白いです。これ、きれいに箸目がつくとうれしいですね。


心を穏やかにして“香りを聞く”。自分の心と向き合う貴重な時間
馬越:とても美しい箸目が灰につきましたね。では、仕上げに銀葉(ぎんよう)という四角い薄い板を置き、その上に小さな香木を載せて香りを聞きます。
石井:香木は本当に小さいのですね。貴重なものだと実感できます。
馬越:「聞香コース」体験での香木は、日本の和文化を発信、日本の木も大切にしたいとの思いから、ふだん香道では使わない和香木、楠(くすのき)や檜(ひのき)も用いています。香りを聞く際には、香炉を左手に載せて、右手で香炉を囲うようにし、右手の親指と人差し指の隙間に鼻を近づけて、香りを聞きます。
石井:香りを吸い込んだ後は、顔を右や左に背けて息を吐くとか、いろいろなお作法がありますね。でも、繊細な動作のひとつひとつに意味があって、貴重な香りを楽しむという、特別な体験だと思います。
馬越:次に沈香(じんこう)。最後に伽羅(きゃら)を聞いていただきます。
石井:日本の楠は本当にほのかな香りで心が洗われる感じでしたが、沈香は落ち着きのある感じで深みがあると思いました。伽羅は少し甘みがある?でも濃厚ですね。
馬越:香木は産地や木が育った環境や樹脂の沈着度合いによっても異なりますし、一片の香木でもどの部分を使うかで違います。
香木の代表格は沈香で、最上品が伽羅。香道で使う香木はほぼ沈香で、「六国五味(りっこくごみ)」という基準に照らして分類。香木の種類によって6つのタイプに分け、さらに香りの特色を5つの味覚「甘(あみ)、苦(くみ)、辛(しん)、酸(さんみ)、鹹(かんみ)」に分類しています。
石井:なるほど。香木は、もとはほぼ沈香なのですね。香りの分類も繊細で、驚きます。でも、本当にこんなに小さな香木に熱を加えて香りを楽しむ、という遊びを思いつくなんて、素敵。その日本文化が1400年以上も継承されてきたことにも驚きます。
馬越:どんなに小さな香木でも、ひとつとして同じ香木はありませんし、香りを聞くその日の気候によっても、また聞く方の体調や気分によっても感じ方が違います。香木との出会いは一期一会。貴重な和文化を今後もぜひ楽しんでください。
石井:香りを聞くということは、神経を研ぎ澄まして香りに集中すること。邪念などあっては、心から香りを聞くことはできない、と思いました。今度はぜひ、本格的な「組香」を体験したいです。本日は体験ありがとうございました。



「香十」銀座本店 概要
住所:中央区銀座4-9-1 日本香堂ビル B1
営業時間:11:00〜19:00
休業日:年末年始
電話番号: 03-6264-2450
公式ウェブサイトhttps://www.koju.co.jp/
「聞香コース」問い合わせ先
TEL:03-3541-3355(9:00~12:00、13:00~17:00)
土・日曜、祝日休

