Culture
2020.04.26

どっちが強い?狐火で惑わすキツネVS汽車に化けるタヌキ、本気で調べてみた!

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「キツネとタヌキの化かし合い」という言葉があります。そういえば、イラストレーター・漫画家のアタモトさんによる『タヌキとキツネ』という作品でも、ドジなタヌキとイジワルなキツネが対照的に描かれ、ゆる~い対決が繰り広げられていました。さて、勝つのはどっち? 

神の使いとして神聖視されるキツネ

まずキツネ。キツネといえば、お稲荷さん。稲荷神社の神の使いとして知られますが、稲荷神社の神様の名前をご存じですか。宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)などと書き、俗称は御食津神(みけつかみ)。それがいつか間違って、御狐神(みけつかみ)となり、キツネ信仰が生まれたという説があります。

お狐様は食や農業のご利益があるとされる一方で、人に取り憑いて悪さをするともいわれ、「キツネが道のないところに狐火を灯して人を惑わせた」などという昔話が日本各地に。9世紀はじめに編集された『日本霊異記(にほんりょういき)』に、「キツネが女性に化けて人間の男性と結婚した」という話があるほど、キツネに関する不思議な話は古くからあります。

井の頭自然文化園のキツネ(筆者撮影)

のんきそうに見えてしっかり化けるタヌキ

次にタヌキ。狡猾・シャープに描かれがちなキツネとは違い、丸顔・おっとりとしたイメージ。昔話では、頭に木の葉を乗せて妖術を使う様子が描かれますね。

写真提供:株式会社自然教育研究センター

手元の民話集には、「汽車を走らせていると、反対側からも汽車が走って来る。正面衝突するかに思われたが、向こうの汽車は消えてしまった」という運転士の手記が載っていました。化けるスケールが大きすぎ!

化かす能力はタヌキの方が上!?

ずる賢い者同士が騙し合うことを、「狐と狸の化かし合い」といいますが、この戦いは「狐七化け狸八化け」ということわざがある通り、化かす能力ではタヌキの方が一枚上とか。狐と狸が化かし合う昔話が京都や徳島などに残っており、結果は引き分けもありますが、おおむねタヌキの勝ち! でも、『ぶんぶく茶釜』では見事に茶釜に化けたのに茶釜から戻れなくなったり、人を化かすつもりで見破られたりと、妖術が上手でもどこか憎めないエピソードが満載なのがタヌキの愛されぶりかも。

習性対決!狸寝入りVS死肉を狙うキツネ

ではなぜ、キツネやタヌキにまつわる「化ける」伝説が生まれたのでしょう。彼らの生態に秘密がありそうです。「東京都立奥多摩湖畔公園 山のふるさと村ビジターセンター」のガイドさんにお話をうかがいました。

「『狸寝入り』という言葉がある通り、タヌキは突然人に会うなどして驚いたときに死んだふりをすることがあるといわれています。『寝入り』とはいうものの、本当に眠るわけではなく、相手のスキをついて逃げるための行動と思われます。こうしたことから『化かす』などといわれるようになったのでしょう」

自然の中でタヌキと出会うとお互いにじっと見つめあってしまう……

さて、キツネ。日本にはかつて野ざらしという埋葬方法があり、雑食性のキツネは死肉を狙って墓地にやってきます。遺体に含まれるリンが燃える「狐火」という現象が報告されていますが、墓地に集まるキツネが狐火を発生させていたと思われたのかもしれません。

キツネの子ども。日中にキツネと出会うことは稀

2種の違いについて、先述のガイドさんは「キツネは警戒心が強く、タヌキは日向ぼっこが好きでのんびりした印象です」と分析。こうした見た目や動きの違いから、キツネは神秘的な感じに、タヌキはややどんくさいイメージで描かれるのでしょうね。

意外と知らないキツネとタヌキの生物学

さて、ここからはキツネとタヌキの生物としての違いを考えましょう。まず、生息地域については、北海道ではキツネ、本州・四国・九州ではタヌキが多いようです。

それから、キツネ、タヌキといっても、さまざまな「亜種」(住む地域が異なる、姿形や遺伝子が異なるグループ)がいくつかあります。キツネは北海道のキタキツネ、本州以南のホンドギツネなど、タヌキは北海道のエゾタヌキ、本州以南のニホンタヌキなどです。

キタキツネとホンドギツネは、アカギツネと呼ばれる北半球のほとんどの地域に生息する生き物の亜種。タヌキの方は、日本にしかいない固有種。東アジアにごく近い種類のタヌキがいますが、近年別の種類であることが明らかになりました。つまり、タヌキは日本以外で見られないレア動物なのです。ということは、欧米にキツネの逸話はあってもタヌキはないはずだ!

タヌキに似た動物としてアライグマがおり、英語ではラクーン(Raccoon)です。一方、タヌキはラクーンドッグ(Raccoon dog)。タヌキを指す単語がなかったので、それらしい名前をつけたのかもしれませんね。

ややこしいタヌキとムジナ。そしてアライグマ

タヌキと間違えられやすいアライグマの話が出てきたので、ついでにムジナの話も。

タヌキのことを「むじな」と呼ぶことがあります。また、タヌキとは別の動物であるアナグマに対して「むじな」を使う地域も。では、タヌキをむじなと呼ぶ地域で、タヌキは何を指すかというと「アナグマ」!

井の頭自然文化園のアナグマ(筆者撮影)

整理すると、

1 タヌキを「たぬき」と呼び、アナグマを「むじな」と呼ぶ地域
2 タヌキを「むじな」と呼び、アナグマを「たぬき」と呼ぶ地域

があったということです。この呼び分けには混乱や混同、同一視などが生じており、しばしば論争が起きていたようです。タヌキもアナグマも同じぐらいの大きさで足が短く、夜行性の動物です。もしも暗がりで遭遇したら、「たぬき」なのか「むじな」なのか、もとい、タヌキなのかアナグマなのか区別するのは難しそう。

何だかタヌキに化かされているような、キツネにつままれているような感じです。そういえば、最近ではタヌキに似ているのに性格はタヌキに似ず狂暴なアライグマも野生化しています。

アライグマの剥製(筆者撮影)

かわいい見た目なのに、自分より大きな動物に襲いかかるほどの狂暴性。現代は、タヌキよりキツネより、アライグマが強いかも……。

◆取材協力=東京都立奥多摩湖畔公園 山のふるさと村ビジターセンター
◆執筆協力=岩間創作室