日本文化の入り口マガジン和樂web
5月12日(水)
Love the life you live. Live the life you love. (ボブ・マーリー) 映画「HOKUSAI」公式サイトはこちら
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
5月11日(火)

Love the life you live. Live the life you love. (ボブ・マーリー) 映画「HOKUSAI」公式サイトはこちら

読み物
Culture
2020.05.29

「よしよし、お姉ちゃんが助けてあげるよ」妹から悪夢を買った、北条政子の腹黒〜い思惑

この記事を書いた人

よく「他人が見た夢の話はつまらない」って言われますけど、変わった夢を見たら、誰かに話したくなりませんか?

私も変な夢を見たら「この夢の意味ってなんだろう」と考えて、ネットで夢診断サイトを検索します。

昔の人もそれは同じで、変わった夢を見たら夢占いができる人に相談していました。

そして、ただ診断するだけではなく、その夢を売ってその幸運を分けたり、あるいは厄災を引き受けてもらっていたらしいのです。

かの北条政子も、妹の「悪夢」を買って身代わりとなったと言うエピソードがあります。

「お姉ちゃん、変な夢見たよ」

源平合戦が始まる前、源頼朝の父が謀反を起こし、頼朝は謀反人の息子として伊豆半島へ流罪となっていました。

そこで頼朝の監視役となっていたのが、政子の家「北条氏」です。

政子は先妻の子で、兄弟の中でも一番上の長女。20歳前には結婚して子どもがいることが普通だった時代、21歳になってもまだ独身でした。兄弟たちとの関係は良好で、みんなのお姉ちゃんとして頼られていたようです。

父の正妻の娘である19歳の母違いの妹に、「おかしな夢を見た」と相談されました。

「どことも知らない高い山に登って、太陽と月を掴んで左右の袖に入れたの。夢占いでは天下を取るぐらいの良い意味らしいんだけど、私は女だし……男だとしても、ウチは罪人の監視役がせいぜいで、そんな大それた家じゃないでしょ? 神様はなんで私にこんな夢を見せたのかしら」。

夢辞典の内容にしっくりいかずに、詳しい人に聞いてみたい……これ、よくありますよね。

私も、「夢の中で親と喧嘩したけど、夢の中で親と認識していただけで実際は知らない人だし……?」と解釈にかなり悩む事が多いです。

ましてや当時の人は「夢は神様からのメッセージ」と認識していたので、その内容を正確に知りたいと思うのも当然でしょう。

政子は妹の夢を聞き、ごくりと唾を飲んで真剣な表情で言いました。

「それ、めっちゃくちゃ恐ろしい夢だよ。おまえに大きな災いが起きる前触れだ」

妹はそれを聞いてすっかり怯えてしまいました。そこに政子が優しく慰めます。

「夢を売るとね、買った人に報いを移すことができるんだ。だから私にその夢を売ってちょうだい。そうすればお前は助かるよ」

「でもそんな事をしたら、今度はお姉ちゃんに災いが起きちゃうでしょ?」

「大丈夫! 夢を売るって本来は良い夢でやる行為だから、転じて良い夢ってことになるかもしれないし! ね? お姉ちゃんに任せなさい! お姉ちゃんは強いから、何が起きても平気よ!」

と、なんとか怖がる妹を安心させ、妹が欲しがっていた鏡や着物と夢を交換しました。

妹想いのお姉ちゃん! と、思ったら……

北条政子はなんて妹想いなんだ!
……と思いますが、実はこれには裏があります。

政子が妹からこの話を聞いた時、本当はこう思っていました。

「うわ……なにそれ超おめでたい夢じゃん。太陽と月……どちらも橘(ミカンのような柑橘類)に似ている。橘といえば、大昔の天皇が奥さんに食べさせて世継ぎが生まれたって話があったな……これ、この子の息子が天下取るってことじゃん。羨ましい。買い取って私の夢にしちゃえ」

そう、政子は妹をだまして最強の吉夢を買い取ったのです。

そしてそれからほどなくして、源頼朝は政子と交際を始めて結婚し、その後政子は「頼家」と「実朝」という2人の将軍を産みました。

政子って「ズルい女」だったの?

ちなみにこのエピソードが描かれているのは『曽我物語』……物語です。
妹に嘘をついてだます、ちょっとズルい政子像はなぜ描かれたかというと……『曽我物語』の作者のバイアスが掛かってるのかな? と思っています。

以下は完全に私の推測ですが、『曽我物語』の発祥は伊豆半島の伊東と言われています。伊東は、実は頼朝が北条に来る前にいた場所です。伊東氏の娘「八重姫」と恋仲となっていました。

つまり、頼朝の元カノ寄りの視点で描かれている可能性があります。

その後「亀の前事件」などもあり、当時の記録からもなにかと北条と伊東の確執めいたものが見え隠れしています。

もしかしたら伊東の人たちから見たら「北条のポジションはウチだったのかもしれないのに!」という思いがあったのかもしれません。


「この泥棒猫!」

実際は頼朝と八重姫の仲を引き裂いたのは、政子ではなく八重姫のお父さんなのですが(曽我物語では八重姫が意地悪な継母に嫉妬されたため、意地悪く伝えられて父が激怒したという形で描かれています)。

政子をちょっと強かな女の子として描くエピソードは「政子じゃなくて他の女の子が、頼朝の妻になる可能性があったんだよ! 政子はただ運が良かっただけだよ!」という元カノ(の取り巻き)の遠吠えなのかもしれませんね。

「夢の売買」ってちょっと面白そう

さて、話は戻りますが、この「夢の売買」って発想、ちょっとおもしろいですよね。

現在、「夢」はスピリチュアルな分野だけでなく、心理学や神経生理学という科学でも研究されていて、「寝ている間に脳の記憶が整理されていく状態」と言われています。

明晰夢や金縛りも、現在では科学的に解明されているとはいえ、怖い夢を見たらやはり心配になりますし、嫌な夢ばかりみるので眠るのが怖いという人も見かけます。

そんな時に誰かに「私がその悪夢を引き受けるよ」と言ってもらうだけで、少し安心できるのではないでしょうか。

夢の内容は、寝具の寝心地や外の物音などの外的要因の他、ストレスなどの内的要因もあるので、「悪夢を見ること自体がストレス」と感じたら、誰かに話して引き受けてもらうのも一考の価値がありそうな気もします。

そういえば今は亡き私の祖母も「悪い夢をみたら、すぐに誰かに話しなさい。そうしたら正夢にならないから」とよく言っていました。

というわけで誰かが夢の話をした時に「他人の夢の話はつまらない」と一蹴する前に、たまには他人の夢の話をじっくり聞くのも良いかもしれませんね。

もちろん、その時は相手を怖がらせて良い夢を奪ってはダメですよ!

書いた人

神奈川県横浜市出身。地元の歴史をなんとなく調べていたら、知らぬ間にドップリと沼に漬かっていた。一見ニッチに見えても魅力的な鎌倉の歴史と文化を広めたい。