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2021.04.09

オンライン鑑賞のメリットは?特別展『百花繚乱』開催中の山種美術館、館長にリモートインタビューで直撃!

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東京、広尾にある「山種美術館」で、花々を描いた日本画で美術館を満開にする『百花繚乱』展が、開館55周年記念特別展として2021(令和3)年4月10日(土)~6月27日(日)に開催されます。

「行きたい!展覧会レポートをしてみたい!でも地方に住んでいるし、今はコロナ渦で、ますます観に行けないなぁ……」と諦めかけていた、日本画好きライターの私。

無理を承知で、「リモートで展覧会について教えていただけませんか」とお願いしたところ、なんと山種美術館の山﨑妙子(やまざきたえこ)館長が、快くインタビューに応じてくださいました!

貴重なリモートインタビュー!

山種美術館 外観

展示作品の横山大観の桜、速水御舟の椿、川端龍子の牡丹などを例に、その見どころのほか、オンラインで鑑賞する日本画の魅力や、楽しみ方を教えていただきました。

今の時代だからこそできる、日本美術の楽しみ方! 気になります〜。


リモートで『百花繚乱』展の魅力を聞く

1966(昭和41)年に、日本初の日本画専門の美術館として誕生した山種美術館は、今年で55周年を迎えます。春には、隔年で「桜」と「四季の花」の展覧会を交互に開催してきました。

山種美術館 展示室

今年は四季の花をテーマとした『百花繚乱』展が開館55周年記念特別展として開催され、近代日本画を中心に、画壇を牽引した画家たちの描いた花々の絵画を一堂に観ることができます。

花の絵画が持つ力

–まずは今回の展覧会について教えていただけますでしょうか。

山﨑:今回は、横山大観、速水御舟など、明治時代以降の画家の作品を中心に、四季の花々をご覧いただく展覧会です。

日本人は、花々、あるいは草木や月といった自然を通じて、季節感をとても大切にしてきました。それを画家たちは近代、明治以降も、伝統的な技法を駆使しながらも個性を発揮して描いてきたといえます。

荒木十畝 『四季花鳥』 1917(大正6)年 絹本・彩色 各183.5×85.0cm 山種美術館
荒木十畝(あらきじっぽ)は長崎出身、明治から昭和を駆け抜けた日本画家。

山﨑:また、観るほうの私たちも、ただ眺めるだけでなく、花の絵を目にすることによって、四季を感じたり、気持ちが豊かになったり、楽しかったり、あるいは落ち込んでいる時に癒されたり。そういう力を持っているのが花の絵の魅力だと思います。

–2011(平成23)年の、東日本大震災の年に同様の展覧会を開催された際にも、「日本の色とりどりの花々の絵に癒された」、「気持ちが明るくなった」という声が多かったとお聞きしました。

山﨑:そうですね。現在もコロナウイルスの影響により非常に厳しい状況が続いていますが、華やかで多彩な花々の絵を観ることによって、心を癒され、和やかなひと時をお過ごしいただければと思っております。花とは、人間にとってそういった存在ではないでしょうか。

田能村直入 『百花』(部分) 1869(明治2)年 絹本・彩色 32.0×375.0cm[全図]山種美術館
田能村直入(たのむらちょくにゅう)は大分出身、幕末に活躍した日本画家。日本最後期の文人画家としても知られています。

オンライン鑑賞の利点

–展覧会は、直接、足を運んで鑑賞するものだと思いますが、私のように遠方に住んでいたり、コロナ禍で外出しにくいといった状況の中、オンライン等で美術品を観る機会が増えているのではないかと思います。

山﨑:オンラインで鑑賞する良さは、やはり遠隔でもすぐ目の前で作品を楽しむことができることだと思います。そして、じっくりと自分のペースで鑑賞できるということですよね。

–どうしても「実際に観ないとわからない」、あるいは「魅力が伝わらない」と思ってしまうのですが。

山﨑:当館では、SNSで拡大した画像とともに作品を紹介しておりますが、展示室で鑑賞する場合には気づかないような細かな部分、ディテールといったものを、むしろオンラインであればじっくり鑑賞できるという利点もあるのではないでしょうか。

–そうなんですね!

山﨑:展示室では、ケース越しなど少し離れて観なければいけないこともありますが、画家の描いた細かい描写や工夫を、拡大した画像でご覧いただけるのはオンラインならではですね。

そして、オンラインで鑑賞された後に、実物を鑑賞しに足を運んでみるといった楽しみ方もできると思います。

–たしかに、ますます実物を観てみたいという気持ちになってしまいます!

山﨑:今は観に来られるのが難しいという方も、オンラインで鑑賞された作品を、後から実物を観て新たな発見をされるのも、これからの鑑賞の仕方なのかもしれません。

川端龍子 『八ツ橋』 1945(昭和20)年 絹本金地・彩色 各159.2×353.2cm 山種美術館
川端龍子(かわばたりゅうし)は和歌山出身、明治から昭和を駆け抜けました。日本画家であり俳人でもあります。

これだけは見逃せない!ぜひ会場で観たい作品を事前解説

1.横山大観の「桜」

–先ほどオンラインでの鑑賞にも利点があることを伺いましたが、反対に、今回の展示作品の中で「ぜひ会場で観るべき」という作品はありますか?
「これだけは見逃せない」という作品があれば、ご紹介と解説をいただけないでしょうか。

山﨑:はい。まずはこちらの横山大観の『春朝(しゅんちょう)』という作品です。

横山大観『春朝』1939(昭和14)年頃 絹本・彩色 62.0×84.1cm 山種美術館
横山大観(よこやまたいかん)は、水戸出身、明治から昭和にかけて生きた日本画家です。近代日本画と聞いて、真っ先に思い浮かべる方も多いのでは?

山﨑:1939(昭和14)年頃、日本が戦争に向かう時期の作品で、作品としては写実的ですが、山桜と太陽という取り合わせは当時の日本の象徴であり、愛国主義的な気持ちを持っていた大観が好んで描いたものでした。

当時、大観は、山桜と太陽が詠まれた本居宣長の和歌を念頭にいくつか制作しており、その中の一点です。

金泥、つまり金のパウダーをにかわで溶いたものを霞として使い、淡い紅色、そして茶色っぽい若葉が朝日に輝く様子を描いています。一見、地味なようですが、山桜は日本に昔からある桜で、花がそれほど満開ではなくて、薄いピンク色の楚々とした雰囲気が素晴らしいですね。

–はい。花の控えめな感じがまた素敵です。

山﨑:この絵の左下には、たんぽぽも描かれています。これも派手さはありませんが、春らしさや日本らしさを象徴しています。

Zoomを使ったリモートでの作品解説の様子。横山大観『春朝』の左下、たんぽぽの部分を拡大して解説していただく。

山﨑:ところで、この絵は絹に描かれているのですが、そういうところが、オンラインだと少しわかりにくいかもしれません。
実際に鑑賞すると、薄塗りで、楚々とした桜の様子が、本当に美しく描かれています。

–わぁ、それはぜひ実物を鑑賞してみたいです!

山﨑:絹とか和紙の素材感は、実物を観てみないとわかりにくいことがあるかもしれません。この絵でいえば、絹独特の薄塗りの感じですね。

戦後に多く見られる、和紙に厚塗りをする技法があるのですが、それに対してこの作品は絹に、非常に薄く描かれています。

Webの画面を通じてでも、それが少しでも伝われば嬉しいのですが。

2.速水御舟の「椿」

速水御舟『椿ノ花』1933(昭和8)年 紙本・彩色 43.1×57.9cm 山種美術館
近代日本画のイノベーター、速水御舟(はやみぎょしゅう)。東京出身、大正から昭和にかけて活躍した日本画家です。

山﨑:次の作品は、速水御舟の『椿ノ花』です。これは御舟が目黒に住んでいた時に、庭に咲いていた八重の椿を描いたものです。

これより前、御舟は大きな「屏風」という形式の中で画面構成を意識した作品を何点か描いていたのですが、この作品もそのバリエーションの一つです。

大きな作品ではないのですが、構図が面白いですね。右のほうへ枝が延びていく意識的な画面構成が感じられます。

–何か理由があるのでしょうか?

御舟は、若い頃から琳派の作品を模写などして勉強していました。
その琳派の画面構成を意識したものと思われ、スケッチを欠かさない御舟でしたが、スケッチしたものをそのままを描くのでなく、琳派に通じる画面構成の面白さを狙った作品だと思います。

–なるほど、そうなのですね!

葉っぱの部分ですが、「掘り塗り(ほりぬり)」という、最初に輪郭線を描き、その線を塗りつぶさないように色を塗る技法を使っています。

葉の裏側は緑青(ろくしょう)という岩絵具で描かれ、表側はもうちょっと濃い緑青、そしてその上に群青(ぐんじょう)という濃い色を塗り、椿独特の厚みのある葉の質感をとらえています。

–さまざまな工夫を凝らしているんですね。

山﨑:椿の花の色に関しては、先ほどの大観の山桜と違い、とても鮮やかな発色です。朱色(しゅいろ)の絵具を使っていますが、この色はオンラインでもよくわかるのではないでしょうか。

–はい、画面からも鮮やかな色使いが伝わってきます!

屏風のような大きな作品のみならず、このように小さな絵においても画面構成を重視したという意味でも優れた作品ですし、この葉っぱの堅さ、つぼみの堅さなど、椿独特の感じがよく出ているのをぜひ観ていただきたいと思います。

3.川端龍子の「牡丹」

川端龍子『牡丹』1961(昭和36)年 絹本・彩色 67.3×88.7cm 山種美術館

山﨑:次は、川端龍子の『牡丹』という作品です。この作品は、1961(昭和36)年に日本橋三越で開催された、第8回「薫風会(くんぷうかい)」という会で、安田靫彦、鏑木清方、小杉放菴など、他の著名な日本画家とともに発表した作品のうちの一点です。

これも絹に描かれていて、輪郭線をまったく用いずに、非常に淡い色彩です。「百花の王」と呼ばれる牡丹の、ふっくらとした花びらの質感を描き出していますね。

–ほんとに花びらが美しくて、見入ってしまいます!

龍子はもともと洋画家で、途中から日本画家に転向しました。デッサン力があって、花を描くときも、その特徴をよくとらえていると思います。

–そうだったんですね。

色についても、花のピンク色の、濃い部分と薄い部分があり、成分分析をしたわけではありませんが、今ではあまり使わなくなった「綿臙脂(わたえんじ)」という絵具を、白色である胡粉(ごふん)と混ぜて作られた色ではないかと思います。とても品の良いピンク色です。

牡丹を描く画家は数多いですが、もともと油絵を描いていた龍子ならではの、非常に存在感のある牡丹の絵になっているのではないかと思います。

–丁寧な解説をいただきありがとうございました。どの作品も素晴らしかったです!
オンラインで拡大しながらしっかり確認できるところもあれば、実際に目にしないとわからない点があることもよくわかりました。

山﨑:花や、あるいは自然を描いた絵というのは、画家のそれぞれの目を通して描かれたものが、自分では気づかなかったり、自分とは違った見方をしていてとても興味深いものです。そういった発見もぜひ楽しんでいただけたらと思います。

「山種美術館」のオンライン鑑賞への取り組み

オンライン「講演会」や「ギャラリートーク」

–今回の『百花繚乱』展では、オンラインでの「講演会」や「ギャラリートーク(=展示室で作品解説を行うイベント)」を予定されているでしょうか?

山﨑:オンライン講演会はすでに2021(令和3)年4月24日(土)14時から15時に日程が決まっております。オンラインギャラリートークも開催予定で、Webサイト上で無料配信するほか、YouTubeでも配信する予定です。

–実は私も講演会に申し込ませていただきました。地方に住みながら参加できるのはとてもありがたいです。

山﨑:ありがとうございます。講演会はZoomを利用していますが、皆さまからの質問をお受けできるような参加型のものは、大変ご好評いただいております。

今回は、講師の西田俊英(にしだしゅんえい)先生のアトリエから生中継し、制作の秘話をまじえながら、花の絵画の魅力を解説いただける講演会ですので、私自身もとても楽しみにしています。

ホームページやSNS

–「山種美術館」のWebサイトを拝見すると、「おうちで日本画」というコンテンツがあるのですね。
オンラインギャラリートークのほか、「Google Arts&Culture」で作品を鑑賞できたり、自宅で日本画を楽しめるさまざまなコンテンツをありがたく思っているのですが、今後もこういった形で作品を見せていただけるのでしょうか?

山﨑:そうですね。今後はオンラインコンテンツをさらに増やし、最新のデジタル技術を活用した取り組みも視野に入れて、より高画質な画像で、臨場感を持っていつでも鑑賞していただけるよう整備していきたいと考えています。
ご自宅にいながら日本画をお楽しみいただけるコンテンツ作りには、さらに力を注いでいきたいと思います。

–先ほどSNSのお話も出ましたが、「山種美術館」ではオンライン鑑賞の視点からもSNSを活用なさっているのでしょうか?

山﨑:当館のお客様はかなり前からSNSをフォローしてくださり、Twitterに関しては15万人の方にフォローいただいています。
昨年、クラウドファンディングを行った際も、SNSから参加してくださった方が多く、常に当館を応援していただいていることを感じました。
今後は当館のファンの方々との結びつきもより重視していきたいと思っています。

–館長がご自身で配信をしていらっしゃるとお聞きしたのですが。

山﨑:もちろんスタッフの協力のもとチームで行っていますが、ゼロから始めて、毎日、1日2回の配信を続けています。
SNSは、Twitter、Facebook、Instagramとそれぞれ特徴がありますが、皆さまの視点から、こういうものが観たい、知りたいと思っていただける情報を発信し続けていくつもりです。

–山﨑館長、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

山﨑 妙子 【やまざき たえこ】東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程を経て1991年後期博士課程修了。学術博士。同年、山種美術財団理事・山種美術館特別研究員。副館長を経て、2007年5月、山種美術財団理事長兼山種美術館館長に就任し、現在に至る。著書に、『速水御舟の芸術』(日本経済新聞社)、『現代日本素描全集④速水御舟』(ぎょうせい)など。各所での講演会のほか、英語ガイドツアー、着物イベント、ミュージアム・コンサート、休館日を利用した地域への社会貢献(小中学生のための鑑賞会)などを実施し、日本画の普及を幅広く行っている。

今回はリモート取材という形で展覧会についてインタビューさせていただきましたが、いかがだったでしょうか。

当初は「リモートでは伝わりにくいのかな……」と思っていたんです。でも、詳細な解説とともに観せていただいた花々の絵画は本当に美しく、オンライン鑑賞と、実際に足を運んで鑑賞するそれぞれの利点を生かす、新しい楽しみ方について教えていただくことができました。

リモートやオンラインで参加できるさまざまな美術館の取り組みがあることもわかり、これからの時代の展覧会は楽しみ方がさらに広がることを実感しています。

ぜひ皆さんも、自分なりの新しい展覧会の楽しみ方を見つけてみてはいかがでしょうか。

展覧会情報

展覧会名:【開館55周年記念特別展】百花繚乱-華麗なる花の世界‐
会期:2021年4月10日(土)~6月27日(日)
施設情報:山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3-12-36 TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:
平日:午前10時から午後4時/土・日・祝:午前10時から午後5時(入館はいずれも閉館時間の30分前まで)
休館日:月曜日(5/3(月)、4(火)、5(水)、6(木)は開館)
※緊急事態宣言の期間中、美術館は臨時休館となります。その後も状況により予定が変更となる場合がありますので、美術館Webサイト、美術館SNSで最新情報をご確認ください。

「山種美術館」公式SNS:
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書いた人

仙台市出身。京都で古美術商に就職し、特に日本画に興味を持つ。美術展を追いかけて旅するのが楽しみ。日本の伝統文化にあこがれ、書道や茶道、華道などを習うも才能はなさそう。すぐに眠くなり、猫より睡眠時間が長いとよく指摘される。現在は三陸沿岸に暮らし、東北の自然や文化に触れる日々。その魅力をたくさん発信できたら。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。