約70年にわたって活躍した浮世絵師・葛飾北斎。ただひたすら絵を描くことに執着し続けた北斎の人生は、波乱万丈にして奇想天外! みずからトライしてあらゆるジャンルの絵画を身につけ、描き上げた作品のかずかずが日本のみならず世界に衝撃を与え、老いてなお向上を目ざした・・・。破天荒な絵師・北斎の人生をAからZの26の単語でご紹介します。今回はC=【千繪の海】!
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北斎AtoZ
C=【千繪の海】柳の下にドジョウが何匹もいた!

日本各地の漁の様子をテーマにした『千繪の海(ちえのうみ)』は、10枚からなる中判錦絵の連作です。
このシリーズ作品においても北斎は、『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』で描き切った大波や水しぶきと同様に、海や川の漁場の水の動きを大胆な構図とともに見事に表現しています。
『冨嶽三十六景』の大成功後、風景画の人気シリーズを連発!

さまざまな水の表現が見どころの10作のシリーズのうち、本作は深夜に火をかざして魚を獲る漁法を描いたもの。漆黒の夜空に浮かぶ星と、鮮明な水流の描写が画面に躍動感を与えている。『千繪の海・甲州火振(こうしゅうひぶり)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
『千繪の海』もまた、ベロ藍を用いたことによる青の発色が素晴らしく、水の透明感まで見事に表されていて好評を博しました。
『冨嶽三十六景』の大ヒットによって当時ナンバーワンのスター絵師となっていた北斎は、それまで長い年月をかけて描きためていた風景のスケッチをもとに、全国各地のさまざまな場所を描いたシリーズ作品を続々発表。
浮世絵業界をリードするヒットメーカーの座を手にしていました。
行ったことのない琉球の風景まで描いていた!

『琉球八景(りゅうきゅうはっけい)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
ですがこれは本人の意思というよりも、版元(はんもと)が、確実な売り上げが見込めることから〝柳の下のドジョウ〟を目論んで依頼したもの。
仕事が早かったとされる北斎にとって、作画自体はわけもないことだったようですが、本心はどうだったのか・・・。
水流と人の組み合わせが驚異的な『諸国瀧巡り』

『諸國瀧廻リ・下野黒髪山きりふりの滝(しょこくたきめぐり・しもつけくろかみやまきりふりのたき)』葛飾北斎 天保4(1833)年 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
風景が有名な北斎ですが、『冨嶽三十六景』『諸国名橋奇覧(しょこくめいきょうきらん)』『諸国瀧巡り』『千絵の海』などのシリーズ作品は、わずか4年間に出版されたもので、実は北斎は早々に風景画から手を引いていたのです。
そんなところに、ただ自分が描きたいものだけを描き続けたという、北斎らしさが表れています。
鯨や漁の様子までスケッチしてた?

長崎県・五島で行われていた、当時最大規模の漁だった捕鯨の様子を描いたもの。 水しぶきとともに豪快に現れた鯨は、どちらかというと鮫の形態に近く、実際に鯨を見て描いたかどうかは不明。『千繪の海・五島鯨突(ちえのうみ・ごとうくじらつき)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)
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構成/山本 毅 ※本記事は雑誌『和樂(2017年10・11月号)』の転載・再編集です。
アルファベットに用いた葛飾北斎の絵は、『戯作者考補遺』(部分) 木村黙老著 国本出版社 1935 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1874790 (参照 2025-06-04)