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2026.08.06

【琳派とマリメッコ、その美をつなぐもの】大人気の「マリメッコ」で活躍したデザイナー、石本藤雄さんを訪ねて

1970年代にフィンランドに渡り、約40年間、「マリメッコ」で400点ものテキスタイルデザインを生み出してきた、アーティスト・デザイナーの石本藤雄(いしもとふじお)さん。2020年に帰国してからも、生まれ故郷の愛媛県にアトリエを構え、ライフスタイルブランド「ムスタキビ(Mustakivi)」で新作を発表し続けています。世界を舞台に活躍してきた石本さんが、琳派や日本美術をどのように見て感じているのか、愛媛県松山市のギャラリーでお話を伺いました。

琳派とマリメッコ――、世界で愛される魅力とは?

デザイナー・アーティストの石本藤雄さん。1989年に石本さんがデザインしたマリメッコのテキスタイル『プゥータルハクツットゥ (ガーデンパーティー)』と一緒に。ユリ、ポピー、アヤメ、チューリップ、シャクヤクが描かれている。

元・マリメッコのデザイナー、石本藤雄さんにお尋ねしました!

透明感のある青、瑞々(みずみず)しい緑、輝くような白――。
ムスタキビのギャラリーの空間に並んだテキスタイルと陶芸作品は、深呼吸したくなるような、気持ちのよい色とかたちに満ちています。

「マリメッコで働いていたときも、今も、日本らしさや北欧らしさということを意識して制作することはないです。でも、これまでに見て感じたものから影響を受けていると思いますね」と語る石本さん。

20代で東京藝術大学の美術学部工芸科で専攻したのはグラフィックデザインでしたが、当時、日本美術との出合いがあったといいます。

「大学の隣が東京国立博物館でしたから、よく帰りがけに行っていました。『日月山水図屏風(じつげつさんすいずびょうぶ)』や工藝の古九谷(こくたに)焼の鉢を見て、感激したことを覚えています。
俵屋宗達(たわらやそうたつ)を知ったのも学生時代です。当時、日本橋高島屋で開催された『俵屋宗達展』を見に行きました。宗達の作品でいちばん好きなのは、『蔦の細道図屏風(つたのほそみちずびょうぶ)』です。’80年代に本物を見たときは、金地に緑色の山のつながりの斬新さに、衝撃を受けました。
琳派の表現は、風景をデフォルメしていますが、自然のとらえかたは素直。さまざまな手法で表現を模索しているところも、僕がマリメッコでアイディアを磨いた作業と近い気がします」

俵屋宗達の代表作のひとつで海外でも知られている名画。俵屋宗達『松島図屏風』(右隻) 江戸時代・17世紀 フリーア美術館 Freer Gallery of Art, Smithsonian Institution, Gift of Charles Lang Freer, F1906.231-232

異質なものもあえて取り入れる

石本さんがマリメッコで手がけた『ケサント(休閑)』というテキスタイルは、画面いっぱいに草花がそよぐ、代表作のひとつ。
このデザイン、実は日本の盆提灯(ぼんちょうちん)に描かれる植物の絵からイメージしたのだとか。どことなく琳派の『夏秋草図(なつあきくさず)』にも通じる世界観!?

自然への愛情を生活に取り入れるマリメッコと大胆な色、自由なデザインの琳派。共通して流れるデザイナーのやわらかな発想と遊び心と矜持(きょうじ)。左/マリメッコの人気のテキスタイル『ケサント(休閑)』(1988年)も石本さんが手がけた。右/酒井抱一(さかいほういつ)『流水四季草花図屏風(りゅうすいしきくさばなずびょうぶ)』(部分) 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

「季節は関係なく、日本やフィンランドのどこにでも生えている草花を描きました。
絶対に入れたいと思ったのは、大きなフキの葉。異質に感じるかもしれないけれども、フキの葉があることで力強さが生まれます。
違和感があるものを排除せず、あえて取り入れるのは、琳派の作品にも感じます」

「マリメッコ」といえば、だれもが思い浮かべるのは、大きな花を抽象的に描いた『ウニッコ』というデザイン。1964年にデザイナーのマイヤ・イソラによって生み出され、60年以上が経った今も、古びることはありません。

石本さんが手がけるデザインも同様に、時代を超えて輝きを放ちます。琳派もまた然(しか)り――。

身近な自然を暮らしの中に取り入れる豊かさ――。左/FUJIWO ISHIMOTO 1988とデザイナー名が記されたマリメッコのテキスタイル。右/石本さんらしい、そよ風に草がしなやかに揺れるデザイン。ムスタキビのカップ。

時代を超えて共鳴する世界観

2019年には、京都の細見(ほそみ)美術館で『石本藤雄展 マリメッコの花から陶の実へ -琳派との対話-』が開催されました。

「展覧会の開催が決まって、細見美術館の所蔵作品を見返したときに、鈴木其一(すずききいつ)の『水辺家鴨図屏風(みずべあひるずびょうぶ)』に描かれたアヒルが、冬瓜(とうがん)と似ているように感じたのです。それで、自分の作品と細見美術館の作品を並べて見せることを考えました。
琳派と自分やマリメッコとは、直接の関係はありませんが、時代を超えて共鳴するものがありました。
マリメッコは、柄が自然に繰り返されるように図案に工夫をしますが、琳派の屛風絵もモチーフがどこまでも続くような表現の工夫をしています。
琳派の図案が、着物にも好まれたことも、マリメッコとの近似性を感じます」

可憐な草花を愛する日本とフィンランドの人々――。左/長年、デザインの参考にしてきたフィンランドの植物図鑑をめくる石本さん。右/石本さんの陶芸作品はポストカードにもなっている。

作品を見るとき、「最初に心に響くのは色。その次にデザインです」という石本さん。
琳派の絵師たちが前の時代の絵師に私淑(ししゅく)したように、石本さんにも、その色とかたちに憧れたデザインの先達がいました。

「直接お会いしたことはありませんでしたが、グラフィックデザイナーの田中一光(たなかいっこう)さんです。
忘れもしない1959年。東京藝大への入学を目ざして東京で浪人しているときに、一光さんがデザインした日宣美(日本宣伝美術会)展のポスターを見て感動を覚えました。艶(つや)消しの黒地に、艶のある黒色の文字。圧倒的な黒の表現でした」

田中一光さんは「20世紀、最も琳派を体現したデザイナー」ともいわれる存在。大胆な構図と洗練された色使い、琳派の作品をモチーフに使ったグラフィックデザインも多く残しています。

絵画、工芸、そして現代のポスターやパッケージのデザインへ。暮らしを彩り、心を豊かにする琳派の美の系譜は、時代も国も超えて、連綿とつながっていることを感じます。

日本美術の技法を使ったモダンな構図と色とかたち――。ムスタキビのうつわを並べたテキスタイルは、1986年に石本さんがデザインしたマリメッコの『ウオマ(河床)』。墨(すみ)を水面に垂らしたときにできる模様を和紙に写し取る、日本の伝統的な「墨流し」の技法で制作。尾形光琳(おがたこうりん)の『紅白梅図屏風(こうはくばいずびょうぶ)』の水流の描写をイメージさせる。

石本藤雄 いしもと・ふじお
1941年愛媛県砥部町(とべちょう)生まれ。東京藝術大学美術学部工芸科卒業。繊維商社を経て、世界一周旅行の途中でヘルシンキに。1974年からマリメッコにデザイナーとして定年退職まで勤める。1989年アラビアで作陶を始める。2017年、愛媛県松山市で「ムスタキビ」をプロデュース。2020年に帰国した以降も個展開催などで活躍。2026年冬には「石本藤雄デザインミュージアム」が松山市にオープン予定。

●Information 石本藤雄さんの‟今”を感じるギャラリー&ショップ「Mustakivi」


愛媛県松山市には、石本さんがプロデュースするライフスタイルブランド「ムスタキビ」のショップやギャラリーが2店舗あります。てぬぐいやうつわなど日常を彩るアイテムがたくさん!
「Mustakivi gallery&」
住所:愛媛県松山市道後湯月町3-4
電話:089-997-7558
営業時間:11時~17時
休み:月・火・水曜日(祝日は営業)
「Mustakivi house」
住所:愛媛県松山市大街道3丁目2-34
電話:089-993-7497
営業時間:10時~18時
休み:年中無休
Mustakivi公式サイト:https://mustakivi.jp/

※本記事は雑誌『和樂(2026年8・9月号)』の転載です。
※日本橋高島屋の【高】は「はしごだか」が正式表記です。
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和樂web編集部


撮影/平岡尚子(取材) 構成/高橋亜弥子、鈴木智恵(和樂)
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