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2026.07.18

これが「琳派」!光悦、宗達、光琳、抱一…!琳派研究の第一人者、河野元昭先生に伺った、5つの特徴と基本のき

「琳派」の特徴5つを、日本美術史学者の河野元昭(こうのもとあき)先生に教えてもらいました。俵屋宗達『風神雷神図屏風』が琳派随一の作品である理由と、新解釈も特別公開!

宗達は、諧謔とユーモアがあり、大らかで天衣無縫で自由!

琳派という画派の成立と系譜

中世以降、日本美術には狩野派(かのうは)のような師弟関係による画派が登場。しかし、琳派(りんぱ)は異質な存在です。

「桃山時代の終わりごろ、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)と俵屋宗達(たわらやそうたつ)によって創始されたのが琳派。やまと絵などの王朝美術を近世的美意識でよみがえらせた新様式でした」(河野先生 以下同)

それから約100年後にふたりの美意識を受け継ぐ兄弟が、京都に現れました。

「光悦と宗達の影響を受けつつ、創作者の個性や心情を直接的に反映したのが、尾形光琳(おがたこうりん)と実弟の乾山(けんざん)。師弟関係ではなく私淑(ししゅく)によって、琳派は第二世代に受け継がれたのです」

さらにその100年後の江戸時代後期、琳派は江戸の絵師たちに受け継がれました。

「酒井抱一(さかいほういつ)と弟子の鈴木其一(すずききいつ)は、それまでの伝統的手法を用いながら、時代の思潮(しちょう)に敏感に反応し、江戸琳派を誕生させました」

このような流れで発展した琳派の特徴は、【1】大胆な構図、【2】たらし込み、【3】金箔(きんぱく)の多用、【4】デザイン化、【5】私淑。詳細は後述の各解説のとおりです。

俵屋宗達『風神雷神図屏風』の新解釈!

琳派の特徴5つをすべて備えているのが、琳派芸術の原点にして頂点とも称される大人気作品、俵屋宗達の『風神雷神図屏風(ふうじんらいじんずびょうぶ)』。

「美術史学者の師、山根有三(やまねゆうぞう)先生がいちばん推(お)した作品で、諧謔(かいぎゃく)とユーモアがあり、大らかで天衣無縫(てんいむほう)で自由。
先生曰(いわ)く、宗達の人間性まで感じられ、『自分のことを知りたければ、この絵を見てほしいと言ったに違いない』とまで(!)。私も大いに影響を受けました」

本作はもともと洛北(らくほく)の妙光寺(みょうこうじ)にあり、その後建仁寺(けんにんじ)へ。
風神、雷神は千手観音(せんじゅかんのん)の眷属(けんぞく)で、本来恐ろしい存在なのに、むしろかわいい印象です。いったいどうしてでしょう?

「宗達らしい表現でしょうが、私は狂言(きょうげん)を思い出しました。
空から落ちた雷様が腰を痛め、通りがかりの医者の鍼(はり)治療を怖がる…という曲目『雷』(※流派により『神鳴(かみなり)』とも表記)です。このコミカルな雷様から、宗達はかわいい姿を思いついたのではないかと。
ただ、尾形光琳と能の関係は有名ですが、宗達と狂言は実証性がない。しかし、京の上層町衆の文化に通じていた宗達と狂言の関係性は、否定できないと思うのです」

風神雷神の緑と白という配色にも意味が。

「妙光寺の南向きのお堂に、風神雷神が千手観音の両側に置かれていたとすると、陰陽五行(いんようごぎょう)で四方を守る霊獣(れいじゅう)・四神(しじん)の色が思い出されます。
東が青龍(せいりゅう)で青・緑、西が白虎(びゃっこ)で白、北は玄武(げんぶ)で黒、南は朱雀(すざく)で赤。ゆえに、千手観音の左側(東)の風神、右側(西)の雷神はそれぞれ、緑と白で表されたのでしょう」

知れば知るほど、魅力的な作品です…。

これが「琳派」5つの特徴

【1】大胆な構図

本作は、余白(よはく)の多い金箔地に、風神と雷神を両隻(りょうせき)の端に配置。空間の使い方が非常にダイナミックで、大胆かつ斬新な印象。無地を生かして、主題となるモチーフを目立たせる構図は、琳派ならでは。

琳派成立のカギとなった名作!『風神雷神図屏風』

風神、雷神は2世紀のインド・ガンダーラの彫刻に原型が見られ、仏教美術にたびたび用いられた一対の神。宗達は『北野天神縁起絵巻(きたのてんじんえんぎえまき)』や三十三間堂(さんじゅうさんげんどう)の風神・雷神像を参考にしたという説が。金箔の上で対峙(たいじ)する2神の躍動感やコミカルな表情など、日本美術の歴史においても画期的作品。
『風神雷神図屏風』 俵屋宗達 国宝 江戸時代・17世紀 紙本金地着色 2曲1双 建仁寺

【2】たらし込み

雲に用いた、絵の具が乾かないうちにほかの色を垂らすことで、独特なにじみを生み出す技法。水墨画の技法を宗達が進化させ、彩色画にも多用した。宗達以後の絵師が受け継いだことで、琳派絵画の特徴となっている。

【3】金箔の多用

贅沢に用いた金箔の背景が、風神雷神の存在感や躍動感を際立たせている。このように琳派の金箔は、単なる背景の装飾ではなく、空間の表現や抽象性を生み出すために用いられた。後の光琳や抱一らは銀箔も使用。金銀箔は西洋美術にも多大な影響を与えた。

【4】デザイン化

宗達は風神雷神を思い切った形と線で図案化。後の光琳は自然のモチーフをシンプルにデザイン化・キャラクター化し、絵画のみならず、きものや工芸などにも用いていた。琳派デザインは、現代のグラフィックデザインにまで影響を与えている。

【5】私淑

琳派がほかの画派と異なる最大の要因が私淑。直接的な師弟関係はないものの、ある人を尊敬し、ひそかに師として仰ぎ、学ぶことが私淑。光琳は宗達に、抱一は光琳に私淑するなど、同じ美意識に共感する絵師により、琳派の様式は時代を超えて継承された。

光琳が宗達画に倣ったことで琳派様式の継承が爆誕!

光琳が宗達画を写した『風神雷神図屏風』。これこそ、琳派の“画題の継承”を表す作品。光琳は風神雷神を一体としてとらえ、調和性を重視。かわいい宗達画との違いも明確。本作の裏には酒井抱一が『夏秋草図屏風(なつあきくさずびょうぶ)』を後から描き加えており、琳派3代の私淑の系譜がここに!
『風神雷神図屏風』 尾形光琳 重要文化財 江戸時代・18世紀 紙本金地着色 2曲1双 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

傑作たる理由を饒舌に解説してくださった河野先生!

撮影/三浦憲治

河野元昭 こうのもとあき 
東京大学文学部・大学院教授を経て、東京大学名誉教授。専門分野は日本近世絵画史。著書に『琳派 響きあう美』(思文閣出版)など。
毎日更新される美術情報ブログ「饒舌館長」(https://jozetsukancho.blogspot.com/)が大人気。

※本記事は雑誌『和樂(2026年8・9月号)』の転載です。
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和樂web編集部


構成/山本 毅、古里典子(和樂)
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小川 敦生

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連載 阿部顕嵐

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