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2020.10.19

まだまだ道の途中、 カルチャー雑誌『バァフアウト!』を創刊した山崎二郎が挑戦し続けた28年とは。

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渋谷系にクラブシーン、カフェ文化などのユースカルチャーが旋風を巻き起こした1990年代のはじめ、カルチャー雑誌『バァフアウト!』を創刊したブラウンズブックス代表・山崎二郎さん。創刊以来、ミュージシャンや俳優、アーティストなど時代の表現者を追い続けて、2020年9月号で記念すべき300号を迎えました。出版不況が叫ばれ、雑誌のウエブマガジン化が進むなか、紙にこだわり雑誌というメディアで発信し続ける山崎二郎さんに迫ります。

出版不況を受け流し、28年目を迎えたカルチャー雑誌

出版不況という言葉を聞くようになってすでに20年。1996年から1997年にかけて書籍・雑誌の売り上げは頭打ちとなり、2000年代を迎えるころには出版不況という言葉とともに、誰もが知る名物雑誌の休刊がはじまります*。売り上げ減少の波にのまれるように、1991年以降、雑誌の広告費は前年比割れの状態が続いています**。そしてウエブメディアやSNS、動画配信などのデジタルコンテンツが拡大する昨今、長年続いた雑誌のウエブマガジン化も珍しいことではありません。
*『出版指標 年報 2018年版』/出版科学研究所 **「電通広告景気年表」

ブラウンブックス代表の山崎二郎さん。著述家として、またアーティストやアスリートの撮影、作詞や選曲、ロゴデザインなどを手掛けている。

しかし出版不況の大波小波を受け流し、雑誌にこだわり発信を続けているのが、ブラウンズブックス代表の山崎二郎さん。1992年にまったくの未経験、かつ出版社に頼ることなくインディペンデントなスタイルをもって創刊したカルチャー雑誌『バァフアウト!』は、今年で28年目となり300号を迎えました。その後、“挑戦する大人たちへ”がテーマの『ステッピンアウト』(2008年創刊)などを出版。今なおインディペンデントという気概を胸に挑戦を続ける山崎さんに、『バァフアウト!』創刊時代のエピソード、時代に求められる雑誌であるために、またこれから目指すべきこと、などを語っていただきました。

インディペンデントな気概を胸に好きなものを発信していく

『バァフアウト!』誕生となるきっかけは、フリーター生活に区切りをつけて訪ねたNYだったと言います。「大学卒業後3年が経ち、何かをはじめなきゃヤバい」と意を決して、NYの教会で行われていたミュージシャンや詩人によるポエトリーリーディング*のイベントに応募した山崎さん。「憧れの存在・ミュージシャンの佐野元春さんが主宰する雑誌『This』で取材されていたイベントでした。NYに行く直前に、手掛けたクラブイベントで僕もポエトリーリーディングをしていまして。友人にバックトラックを作ってもらい、自作の詩を英訳してリーディングすることに。ちなみに初海外でした(笑)」。
*50年代、アメリカを中心にはじまった詩を朗読するパフォーミングアート。以降、時代ごとにムーブメントがおとずれ、1990年代は、クラブなどで音楽や映像とともに行われていた。

主宰イベントのフライヤーであり今に至る原点『プレス・クール・レジスタンス』。アレン・ギンズバーグに「吐き出す」というスラングから名づけてもらった雑誌『バァフアウト!』の創刊準備号。

一念発起で参加したイベントで出会ったのは、詩人のアレン・ギンズバーグでした。カウンターカルチャーの先駆者であり、ビート文学の雄からかけられた「プライベートで話していることと、パブリックで話すことをわけてはいけない」との言葉、そして街で目にしたセンスのいいフリーペーパーやZINEの存在、それらに大いに鼓舞された山崎さん。“自分の想いを発信することを難しく考える必要はないんだ”、と帰国後すぐに動きはじめます。「まずは発信の場として月に一度のクラブイベントをはじめました。そしてイベントのフライヤーを『プレス・クール・レジスタンス』と名づけて、そこに詩やコラムなどを書くように。ショップ、カフェ、クラブに置いてもらいました」
*アメリカの詩人。1950年代のアメリカで反抗と自由をうたいあげた詩集『吠える』は、カウンターカルチャーの嚆矢として知られる。ジャック・ケルアックとともにビート・ジェネレーションを代表する詩人。

創刊当初の『バァフアウト!』。1990年代、コンピュータでデザインできるようになったことも独立系雑誌の隆盛に拍車をかけた。時代背景を映すかのように創刊当初は一号一号異なる個性的なデザインだ。筆者私物

当時の渋谷には才能と情熱を持った同世代が集まりはじめます。「誰もが“新しいことをはじめたい”という気概がありました。街に集う同世代たちのなかから、レコードレーベルを主宰するもの、クラブをオープンさせるもの。そのなかで僕らは、フリーペーパーから雑誌へとステップアップさせていった。そんな個々の活動や発信からシーンが形づくられていきます」。東京、渋谷発のアクションは徐々に全国へ広がり、のちに渋谷系と呼ばれるムーブメントへ。時代の求めに応じるかのようにカルチャー誌『バァフアウト!』は創刊、そして全国で発売されていきます。まだ一般的には知られていない、才能に溢れたミュージシャン、DJ、アーティストを紹介した『バァフアウト!』は、流行に敏感な10代から圧倒的な支持を得るように。「20代の僕たちの発信する声に10代が反応してくれました。ほかにない視点や立ち位置を大事に、インディペンデントの気概を持って、好きなものやおもしろいことを発信することだけに情熱を注いでいました。起業という発想なんてまったくなくて(笑)」。

他人の評価や売上ではなく、自分自身が満足したかどうか

クラブカルチャーや渋谷系などが衆目を集めた1990年代は、さまざまなカルチャー雑誌が創刊されました。それらの多くが、2000年代には休刊していくなか、『バァフアウト!』は季刊誌から年6回発行となり、それが10回となり、今に続く月刊化へと成長を遂げていきます。「雑誌、特にテーマが限られているカルチャー雑誌が28年間も継続できたのは奇跡的なことかと。とはいえ、大勝ちしたような勝利感は一度も味わったことはないんです。というのも、過去の実績より今がすべてという感覚が強いからで。常に道の途中って感じなんですよね」と、気負いなく話します。

時代に愛された表現者が表紙を飾ってきた『バァフアウト!』。記念すべき300号(2020年9月号)の表紙は、注目の若手俳優・吉沢亮。

雑誌は時代を映す鏡、だから今をとらえていないと鏡はすぐに曇ってしまいます。時代をクリアに映す存在であり続ける大事なことは何なのでしょうか。「時代とともに変わっていくこと、それが自然かと。その一方でインディペンデントである気概や他誌にない視点など、変えてはいけないこともありまして。変えること、変えてはいけないことのバランスをなんとか取り続けてきたから今があるのかな? と、訊かれて思いましたね」。また敬愛する佐野元春さんの言葉も山崎さんがクリエイティブな活動を続ける原動力となっています。「クリエイティブなことは売上や他者の評価で測るものではなく、自分自身が満足するクリエイションができていることが大事、と佐野さんから教えていただいた。他人の評価はコントロールできないですから、自分軸をしっかりと持つことを心にとめています。難しいんですけど(笑)」。

昔の手法が今に響く!“大事にとっておきたい雑誌”

ウエブではできない、紙だからこその質感や表現を追求している『バァフアウト!』。デジタル写真ではなくてフィルム写真、さらにはモノクロで撮影することも多いそうです。「フィルム写真、モノクロならではの質感は、10代、20代のデジタルネイティブ世代にはかえって新鮮に感じるみたいですよね。『写ルンです』が流行っているように、すごくおもしろがってくれています」。

創刊号から300号の表紙をすべてまとめた圧巻のポスター!

「読んだら捨ててしまうのではなく、大事に取っておきたいと思ってもらえる雑誌をつくろう、と。雑誌だけど写真集のような、というところにいけたらいいなぁと」。そんな山崎さんの狙い通りに、“読むために”、“飾るために”、“保存するために”と、推しの俳優やタレントの掲載号をファンはこぞってまとめ買いをしてくれるように。またバックナンバーも恒常的に売れていると言います。「編集部が週末にはブックカフェになるんですけど、コロナ以前は、日本のみならずアジア圏からもわざわざ買い求めに訪ねてくれることもあって嬉しかったです」。

フットワークの軽さと豊かな好奇心で新たな挑戦を続ける

数年ほど前から『バァフアウト!』を20代、30代の編集者に一任したものの、「ずっと追いかけてきた大人世代の表現者を取材したくて、また、旅や移動が何よりも好きなので」、大人世代の表現者に迫り、移動という旅のスタイル“ムーヴィリスト”を提案する『ステッピンアウト』をスタート。軽やかなフットワークと豊かな好奇心は、『バァフアウト!』創刊時とまったく変わりません。いくつになっても新しいことや知らないことを見聞きするのは大好き。「今年で55歳になりますが、いつまでも27歳みたいな精神年齢から成長できずで(笑)。根っからの後輩キャラで、『教えてください~!』って感じでして」。

『バァフアウト!』(毎月19日発売)、『ステッピンアウト』(偶数月5日発売)。「2008年に『ステッピンアウト』を出版したときは、編集も取材もすべてひとりでやるつもりだったんですが、すぐに無理だと気がついて挫折(笑)。2018年からスタッフに編集をおまかせしてリスタート、今は執筆だけに専念しています」。

若い世代にもリスペクトをもって対峙する山崎さん。それは憧れの大先輩、故ムッシュ・かまやつさんにならってのことだと言います。「かまやつさんは、うんと年下だった僕たちを、いつも大人として丁寧に扱ってくださいました。『今は何がおもしろいんですか?』って常に聞いてくれて。それがすごく嬉しかったんです。だから僕も若い世代には同じように接したくて。実際に『いや、すごいな』って思うことや、『先輩!』って呼びたくなるようなひとがすごく多いですから」。

無類のカフェ好きな山崎さんは、前述のように、編集部を週末はカフェに。土日限定で『ブラウンズブックス&カフェ』としてオープンしている。「サンフランシスコの小さな出版社がカフェもやっているのを訪れていいなぁって思ってまして。最新号をはじめ、バックナンバーも販売しているので、読者の顔や反応を直に感じることって大きいことですね」。

現在は著述家として複数の連載をこなしつつ、編集者として培ったセンスやアイデアを活かしてアーティストの撮影、作詞や選曲、アスリートのロゴデザインなど、好奇心の赴くままに多彩なクリエイションを手掛けています。今を充実させるとともに、新たなことへと挑戦し続ける山崎さん。「これからは自分が執筆している連載をいくつか書籍化していきたいなと思っていて。今、こつこつと書きためているところです」。

まだまだ発信したいことは尽きない、いつまでもいくつになっても山崎さんは道の途中にいるはずだ。

神戸の有名ロースター「グリーンズクラフトコーヒー」のコーヒー豆を使い、一杯ずつ丁寧に淹れてくれる『ブラウンズブックス&カフェ』のコーヒーはとてもおいしい。またハイネケンやアドベックなど、休日のサク飲みにふさわしいメニューも。

BARFOUT!
http://barfout.jp/
『バァフアウト!』(月刊19日発売)

STEPPIN’ OUT!
http://steppinout.jp
『ステッピンアウト』(偶数月5日発売)

Brown’s Books & Café (ブラウンズブックス&カフェ)
東京都世田谷区代沢5丁目32−13 5階
TEL: 03-6805-2640
営業時間:13:00~20:00(土曜・日曜のみ営業)
 
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書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。