甘酒ってお好きですか? 子供の頃、寒くなると酒粕を溶いて甘味をつけたものを甘酒としてよく作ってもらいました。体の中から温まって美味しかったです。初詣で冷えた体に甘酒が振舞われると、紙コップ一杯がどれだけ有難かったか。長じてお酒をたしなむようになったころには、加熱で飛んだアルコール分を日本酒で足して愛飲していました。
そこでクイズです! 甘酒の季語はいつか知っていますか? 意外にも冬ではありません。
甘酒の季語は?
実は、甘酒は実は夏の季語なんですね。初めてそれを知ったときには、びっくりしました。調べますとそもそもの作り方が違いまして、米麹と柔らかく炊いたご飯を合わせ60℃ぐらいで保温すると発酵して甘酒になるのだそうです。夏の暑さを利用して作られたのですね。別名一夜酒とも。
甘酒の栄養はブドウ糖、必須アミノ酸、ビタミンB群、酵素などを含み飲む点滴ともいわれ、夏の体力の落ちるときに飲むのは理にかなっています。
甘酒のルーツ
甘酒のルーツとしては、日本書紀に応神天皇に醴(こさけ)と国栖奏を献じたという記載や木花咲耶姫が天舐酒(あまのたむさけ)を醸したという記載があります。今でも各地の神前に供えた甘酒を参拝者に振舞う神社が日本各地にあり、神事と甘酒の密接な関係がうかがわれます。秩父市猪ノ鼻地区の熊野神社には七月に「甘酒祭」があり、「甘酒こぼし」といって樽の甘酒を褌姿の男たちが掛け合います。
御仏に昼供へけりひと夜酒 蕪村
一夜酒隣の子迄来たりけり 一茶
禅寺の甘酒のどにゆきて酸し 加藤千世子
甘酒以外のお酒の季語も紹介
では、他のお酒の季節もご紹介しましょう。
春
白酒、花見酒など
白酒:ひな祭りには欠かせないもの。アルコール度数が約9度もあります。『うれしいひな祭り』の歌で、右大臣が飲んで顔を赤くしたお酒でおなじみ。
夏
梅酒、ビール、焼酎、泡盛、蝮酒、冷酒、新酒火入れ・煮酒など
焼酎・泡盛:暑気払いに良いといいます。暑い地方のお酒が夏の季語になっていることになんだか納得します。
蝮酒:蝮を焼酎に数年漬け込んだもの。私は飲みたくないし、見たくもないです。
冷酒:これは一年中飲んでいますが、本来は夏の季語。純米吟醸は冷で飲みたいですよね。
新酒火入れ・煮酒:冬に仕込んだ日本酒を五月ごろに60度ぐらいの加熱処理をします。発酵を止め、雑菌を抑えるための作業。
秋
新酒・今年酒・新走り、どぶろく・濁酒、菊酒、月見酒、ぬくめ酒、猿酒、葡萄酒醸すなど
新酒:新米から作られる日本酒。今は寒仕込みが主流ですが、新米の収穫を待ちかねて作られるお酒です。新走りといい、微発泡の味わいは荒走りとも感じられます。
菊酒:九月九日、重陽の節句に供されるお酒。菊の花弁を浸しています。そういえば九月の花札の絵柄も菊と盃ですね。
猿酒:さるざけ、ましらざけ。木の股や洞に溜まった雨水が発酵したもの。飲みたくないです。飲めないと思います。
冬
熱燗、雪見酒、おでん酒、鰭酒、玉子酒、生姜酒、ボジョレーヌーボーなど
冬のお酒の季語は体が温まるものばかり、風邪気味のときに玉子酒は特効薬ですね。
ボジョレヌーボー:そろそろ新季語として定着しつつあると思います。向井去来が『去来抄』で「先師(=芭蕉)、『季節の一つも探り出(いだ)したらんは、後世によき賜(たまもの)』となり。」と芭蕉の言葉を伝えています。
カフカ去れ一茶は来たれおでん酒 加藤楸邨
新年
年酒、屠蘇
屠蘇:屠蘇散を清酒またはみりんなどに浸して飲むもの。邪気を屠り心身を蘇らせるという謂れがあります。
割烹着丸めて屠蘇を受けにけり 白岩てい子
お酒飲みとしては、季節に関係なくなんでもいただきたいところですが、こんな季語トリビアを知って肴にするのもまた一興ではないでしょうか。
参考文献
『カラー図版日本大歳時記 夏』講談社
『去来抄・三冊子・旅寝論』岩波文庫
秩父観光協会ホームページ