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2022.03.22

イザナミは経腟分娩だった!?日本神話の国土生成事業の実態に迫る「ひねくれ日本神話考〜ボッチ神の国篇vol.6〜」

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日本神話の謎を面白く解き明かすシリーズ!
イザナミとイザナギによって国土ができたその後を追います

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前回に続き、イザナギとイザナミの国土生成事業について、古事記と日本書紀を比べながら見ていきたい。

さて、ひとまず国土が出来たので、次はその上に乗っかるものを産むことになった。

病床で苦しんでいるその時でさえ、重要な神々を生成したイザナミ

今回も古事記から見ていこう。

再度、子作りに励んだ結果、最初に生まれた子は大事忍男神。「おおことおしおのかみ」と読むが、その名の通り「これから大事をやってのけたるで!」と宣言する神なのだそうな。いわゆる言挙げってやつなんですかね? わざわざ口に出して言うことで、引くに引けない状態にする、っていう。なんにせよ、おもしろい神もいるものです。

これから何か大事をやってやろうと心に期するところがある方は、この神に祈願してみてはいかがでしょうか。三重県は鈴鹿にある椿大神社でお祀りされているようですよ。

宣言後、気合いが入ったところで次々に石の神とか水の神とか木の神とか風の神とか、自然にまつわるあれこれが生み出されていく。まあ、そこはわかる。ところが最後の方に行くと大戸或子(おほとまとひこ)と大戸或売(おほとまとひめ)みたいに「山を歩くうちに霧が出て暗くなったせいで迷った時の神」なる「その神、本当に必要ですか?」系の神とか、天鳥船みたいな乗り物まで(!)生まれてくる。

乗り物は産まずに建設しようよ、イザナミ様。いくら神さまとはいえむちゃし過ぎですよ。連続出産のせいで、もう体はボロボロだったのでは?

その上、最後の最後に大きな悲劇が待ち受けていた。

火の神・迦具土神(かぐつちのかみ)を生んだ時、みほと、つまり女陰が焼けてしまい、それが元で病気になってしまったのだ。

ここで衝撃の事実が判明した。

イザナミ様、普通に経腟分娩していたのだ。

「産む」は隠喩じゃなくて、リアルだったらしい。

びっくりである。しかも、火を生んだら焼ける程度には普通の肉体を持っていたらしい。ならば、天鳥船みたいな建造物はどうやって生んだのだろう。船ですよ、船。お股が裂けかねない。会陰切開どころの話じゃない。経産婦でなくても恐怖しかない。もしかしたら肉体はゴムゴムな感じだったけれども、耐火性能だけはなかったのかもしれない。いずれにせよ気の毒過ぎる。

だが、女神の偉大なる力は、病床で苦しんでいるその時でさえ、重要な神々を生成した。

嘔吐物からは鉱山の神である金山毘古神(かなやまびこのかみ)と金山毘売神(かなやまひめのかみ)、大便から焼き物用の粘土や土の神である波邇夜須毘古神(はにやすびこのかみ)と波邇夜須毘売神(はにやすひめのかみ)、小便からは灌漑用水や温泉/冷泉など“利用される水”の神である弥都波能売神(みつはのめのかみ)と和久産巣日神(わくむすひのかみ)。

大便が粘土、小便が溜め水というのはわかりやすいが、ゲロが鉱山というのは噴火口から溶岩が吹き出る様がイメージ投影されているらしい。それに、火山は鉱物資源を創る。

人が住む土地を生んだ神の偉大な力は、人が生きるために必要な産業の礎まで生み出したのだ。

だが、そこで力尽きた。

そう、イザナミはここで死んでしまうのである。

え?  神様なのに死んじゃうの???

またまたビックリだが、神様が死ぬ神話は決して珍しくない。

神だって、死ぬ時は死ぬのだ。

で、そんな大変な時に夫であり父であるイザナギはどうしていたかというと。

彼は「愛しい妻よ、なんで死んじゃったんだよう」と泣きに泣きながら遺体の側を転がりまわったあげく、突如生まれたばかりの火の神・迦具土神に向き直り、「オマエのせいで奥さん死んじゃったじゃないか!」と首を刎ねて殺してしまったのである。

おまえ、いい加減にしろよ。

普通ここは遺児を抱きしめながら「遺された子たちは僕が立派に育てるから、君は安らかに眠ってくれ」と誓う場面だろうが。何いきなり嬰児相手に逆ギレして殺してるんだよ。いかに神話とはいえ、この展開はなさすぎるわ。

ただ、前回も触れたように神話の世界においては、残念ながら親の子殺し、子の親殺しは珍しい話ではない。同時に、この話は出産が女性にとってどれだけのリスクを伴う行為なのかを教えてくれる。また、父性や母性が“本能”ではないことも。

イザナミ様、本当にご苦労さまでした。母の偉大さ、心から噛み締めます。

イザナギにはもうちょっとまともな父になるよう努力してほしい、マジで。

古事記とは大きく異なる日本書紀のストーリー

さて、気を取り直して、日本書紀ではこのくだりはどういう展開になっているか確認していこう。

古事記では神生みの順も詳しく書かれているのだが、日本書紀は結構端折っている。海が生まれて川が生まれて山が生まれました、みたいな。紀の編者はあまりこのあたり興味がなかったらしい。

しかも、しかもである。

なんと紀ではイザナミは死なないのだ!

え、そうなの? と驚きませんでしたか?

私は最初知った時、とても驚きました。

だって、いつ死ぬのかは人(神)生においてとても重要なトピックじゃないですか。

それが伝承によって異なるなんて。

なんでそんなことになるのか、次回詳しく見ていきたい。

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書いた人

文筆家、書評家。主に文学、宗教、美術、民俗関係。著書に『自分でつける戒名』『ときめく妖怪図鑑』『ときめく御仏図鑑』『文豪の死に様』、共著に『史上最強 図解仏教入門』など多数。関心事項は文化としての『あの世』(スピリチュアルではない)。