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焦がちね、物病んじすん(読み:あしがちねぇ むぬやんじすん 意味:焦ると物事がうまく行かない 沖縄のことわざ)
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焦がちね、物病んじすん(読み:あしがちねぇ むぬやんじすん 意味:焦ると物事がうまく行かない 沖縄のことわざ)

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Culture
2022.05.14

クイズ!書道セットでおなじみ「硯」を洗うのは夏?秋?「洗う季語」を読んでみよう

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五月晴れの空に洗濯物が干してある風景は、ああ夏が来たんだなあと思わせます。青い空に洗濯ものの白がまばゆいです。

春過ぎて夏来たるらし白妙の衣干したり天の香久山(持統天皇・万葉集)

万葉集の時代の天皇にも同じ感懐があったのですね。
この歌は古今和歌集には次の形で収録されています。

春過ぎて夏来にけらし白妙の衣干すてふ天の香久山

子どものころ小倉百人一首の中で真っ先に覚えた和歌です。繧繝縁(うんげんべり)の畳に座った十二単のお姫様(持統天皇)の札が一番華やかで大好きでした。
俳句にも「洗う」季語がいくつかあります。ご紹介しましょう。

※クイズの答えは記事の途中に掲載しています!

髪洗ふ (夏)

毎日髪を洗う現代では考えられないことですが、汗や埃にまみれた髪を洗う気持ちよさから夏の季語になっています。やはり女性の長い髪を洗う句が多いですね。

鈴木春信『髪洗い二美人』シカゴ美術館蔵

浮世絵の女は長き髪洗ふ 坂巻純子
洗ひ髪かはく間を子に絵本よむ 野見山ひふみ
船室の一隅に髪洗ひをる 夏井いつき

ドライヤーのない時代、冬に髪洗ったら風邪ひきそうだもんなぁ。

夜濯ぎ (夏)

これも夏の季語になっています。今はスイッチ一つで全自動洗濯機が使える時代で、仕事を持っている人は夏に限らず夜に洗濯をすることが多いかもしれません。
夜濯ぎは盥(たらい)で手洗いしていた頃に生れた季語でしょう。夏には水を使うのも気持ちよいですし、夜のうちに干すと翌朝には乾いています。

鳥居清長『洗濯と張り物』シカゴ美術館蔵

夜濯や同じ暮しのきのふけふ 岡部名保子
夜濯や一人暮しの頃をふと 稲畑廣太郎
夜濯のもの一竿に足らぬほど 伊藤白潮

「明日の私頑張れ」と念じて、夜はさっさと寝てます。

牛馬洗ふ、牛馬冷やす

かつては牛や馬が農耕作業の大きな担い手でした。一日働いた牛や馬を川に連れていき、汗を流し体を冷やしてやります。

葛飾北斎『諸国滝廻り 和州吉野義経馬洗滝』シカゴ美術館蔵

冷されて牛の貫禄しづかなり 秋元不死男
遠賀なる川筋痩せて牛洗ふ 下村ひろし
方言の亡ぶさびしさ牛冷す 谷口雲崖

牛や馬も気持ちよかったんだろうなぁ。

硯洗ふ (秋)

これは七夕に関連する季語です。旧暦の七夕なので初秋の季語になります。
七夕の朝、芋の葉に置いた露で墨をすり、短冊に願い事を書きます。その準備として前日に硯(すずり)を洗い机を浄めます。一年に一度しかあえない織姫・彦星に何を祈りましょうか。

鳥居清長『子宝五節遊』シカゴ美術館蔵
こちらの浮世絵では、たわしのようなもので洗っている!

文弱のいのちの硯洗ひけり 上田五千石
薄く小さき祖母の硯を洗ひけり 小川玉泉
洗硯やちちより勁きははの文字 長谷川翠

墓洗ふ (秋)

命日や春秋のお彼岸、年末年始など年間を通じてお墓参りの機会はありますが、俳句では盂蘭盆会の関連季語となっています。お盆にご先祖様の精霊を迎えるために「墓詣」をし、「掃苔」、「墓掃除」「墓洗ふ」をし、墓から家までの道の草刈りをして「盆路・盆の道」を整えます。「  」内はすべて季語となっています。

▼江戸時代のさまざまなお墓スタイルを描いた書籍がありました!


『江戸名家墓碑圖録. 1』化蝶庵主 国立国会図書館デジタルコレクションより

里人の顔相似たり墓洗ふ 山田弘子
戒名の彫なぞりつつ墓洗ふ 渡辺政子
バンダナの若きと並び墓洗ふ 大沢美智子
末つ子のまま年重ね墓洗ふ 岡田順子

障子洗ふ (秋)

「障子」だけだと冬の季語となりますが、障子を洗い張り替えるのは秋の季語となります。冬を迎える準備の一つということでしょう。

『風俗四季歌仙 立秋』鈴木春信 メトロポリタン美術館蔵

大寺の障子を洗ふ唯一人 田中裕明
亡き母の貼りし障子を洗ひけり 松尾隆信
洗ひをる障子の下も藻のなびき 大野林火

親戚の家が料亭なのですが、夏は須戸で、障子が貼られると「冬がきたな」と感じました。

世の中が便利になるにつれて「洗う」季語も死語となっている、または実感を伴わないものも増えています。「洗う」という字は使われていないものの、「行水」もめったに見かけないものとなりました。以前に俳句グループで吟行に出かけたときに民家の庭で行水している人をみかけました。熱心な人が覗きこもうとするのを皆で押しとどめました。

参考文献  
カラー図説日本大歳時記  夏 秋 講談社刊
新歳時記 虚子編 三省堂
基本季語五〇〇選 山本健吉著 講談社学術文庫

アイキャッチ画像:『百人一首うはかゑとき 持統天皇』葛飾北斎 シカゴ美術館蔵

書いた人

千葉県市川生まれ、縁あって京都の旅館に嫁ぎました。大学時代から俳句に親しみ、この10年は連句も楽しんでいます。熱しやすく冷めやすい性格ですが、俳句と連句は長続きしています。俳誌「春塘」編集長。チーズを偏愛し、チーズプロフェッショナルの資格あり。 好きなもの:あんこ、チーズ 嫌いなもの:ナメクジ(天敵)

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大学で源氏物語を専攻していた。が、この話をしても「へーそうなんだ」以上の会話が生まれたことはないので、わざわざ誰かに話すことはない。学生時代は茶道や華道、歌舞伎などの日本文化を楽しんでいたものの、子育てに追われる今残ったのは小さな茶箱のみ。旅行によく出かけ、好きな場所は海辺のリゾート地。