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2022.11.11

エサ代だけで数百万円?争奪戦も起きた、大奥「お猫様」事情

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大奥で愛されたペットといえば、小型犬の狆(ちん)が有名ですが「ペットは猫派」という女性たちもたくさんいたもよう。ネズミを捕ってくれるからという実用的な目的で飼われることの多かった猫ですが、大奥では子猫をもらい受けたら初節句のお祝いをするほどかわいがったそうです。

ちなみに愛玩犬の狆は、江戸時代から犬としては別格の室内飼いでした
『千代田の大奥 狆のくるひ』著:楊洲周延(国立国会図書館デジタルコレクションより)

天璋院が愛した猫のミチ姫、サト姫

第13代将軍徳川家定(とくがわいえさだ)に嫁いだ天璋院(てんしょういん)は、狆が好きだったけれど家定が犬嫌いだったため、猫を飼っていたと伝えられています。最初に飼った猫がミチ姫、ミチ姫が死んでしまって、次に飼った猫がサト姫。姫と呼ばれていたということは、どちらも雌の猫ですね。

首には紅絹(もみ)の紐で銀の鈴を下げ、寝るときは籠に敷いた縮緬(ちりめん)のお布団の上。食事が天璋院のお膳と一緒に、黒塗りのお膳で運ばれたというから驚きます。
普段の日であれば天璋院のために用意された魚の残りが猫の食事になったのでしょうが、祖先の忌日などにあたる精進日には天璋院のお膳には魚が出ません。その精進日にかかった猫の食事代だけで年間25両にもなったといいますから、なんともぜいたくな猫のお姫様です(江戸時代の金1両は、現在のお金で18~22万円ほど)。

生まれ変わったら大奥の猫になりたい。

子猫が生まれれば、大奥の女性たちの間で争奪戦に。いざ子猫をもらえるとなったら、食器に布団、おもちゃなど、迎え入れるための支度も大変でした。

この絵のサブタイトルは「うるさそう」
『婦人風俗三十二相』著:月岡芳年(国立国会図書館デジタルコレクションより)

子猫の争奪戦は、なぜ起きた?

子猫の争奪戦は、天璋院が飼っていた猫が生んだ子猫に限りません。
上級の奥女中である御年寄や中年寄などの部屋で飼っている猫が妊娠すると、子猫が生まれる前からもらいたいという予約が殺到したのだとか。

何年か奥勤めをし、箔をつけて嫁いでいくことの多い下級の奥女中と違って、御目見え以上といわれる上級の奥女中は一生奉公。自分の子どもを持たない代わりに、猫をかわいがったのだろうといわれることもありますが……。

生まれた子猫が乳離れしてもらわれていくときには、送り出す方は鰹節に鮮魚ひと籠、猫が使う食器などを持たせたといいます。また、もらい受ける方も大切にお世話をして、猫の誕生日にはお赤飯を炊き、ゆずってくれた相手を招いてお祝いをしたのだそう。さらに子猫が雌なら3月3日の桃の節句、雄なら5月5日の端午の節句にもお祝いをしていたなんて、猫かわいがりにもほどがあると思います?

そういう楽しそうなイベントやっているとなると、ますます自分も欲しくなりそう。

「一引き、二運、三女」といって、大奥で出世をするには女性としての美しさよりも、有力な上司から引きたてられることや、運の良さのほうが重要だったといわれます。
子猫は大奥で生きていく上で大切な「引き」、つまり人脈を結んでくれる幸運のペットでもあったのでしょう。だからこそ、有力な人物の飼い猫が生んだ子猫ほど争奪戦になったのです。

猫の雛人形はやっぱり猫型……?
『おもちゃ絵(雛人形)』著:一竜斎国盛(国立国会図書館デジタルコレクションより)

長生きした猫のしっぽが2つに割れて妖怪になるという伝説があるように、昔から猫は不思議な力を持つと考えられてきました。もしかしたら、大奥で出世をしたあの人やこの人の足元で、かわいい猫が人脈作りに暗躍をしていたのかも……。

「わたしたち、猫かわいがりされるのが仕事です。ネズミなんて、気が向いた時しか追いかけません」とすました顔の猫のお姫様や若様が、実は大奥で重要な仕事をしていたらしいというお話でした。

▼そもそも大奥とはどんなところだった? 詳しく紹介した記事はこちら!
大奥とは?徳川幕府を支えた“女たちの最前線”を3分で解説

大奥と猫を描いたおすすめ漫画

大奥で暮らす女性たちと猫を描いた漫画はこちら。猫好きさんにもおすすめです!
猫奥(1) (モーニングコミックス)

ドラマ化が決まった漫画はこちら。男女が入れ替わった大奥の世界が面白い! 和樂webスタッフも編集長も愛読しています。
よしながふみ「大奥」1 (ジェッツコミックス)

アイキャッチ画像:『日本風景選集. 1-7』(国立国会図書館デジタルコレクションより)

参考書籍:
『御殿女中』著:三田村鳶魚(青蛙房)
『千代田城大奥』(朝野新聞社)
『江戸のくらし風俗大事典』(柏書房)

書いた人

昔は口が堅いと褒められましたが、座右の銘は「壁に耳あり障子に目あり」。大奥のあれやこれやを語ります。