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2024.02.19

『源氏物語』は恋愛のお手本! 馬場あき子×小島ゆかり対談・1【現代人にも響く『源氏物語』の恋模様】

紫式部が書いた『源氏物語』は、千年前に成立した長編小説。平安時代の宮廷を舞台に、光源氏が織り成した恋愛模様は、現代まで脈々と読み継がれています。 その『源氏物語』についての、歌人の馬場あき子さんと小島ゆかりさんの対談が、『和樂』2007年10月号に掲載されました。

千年たっても現代女性の心と響きあう『源氏物語』の恋模様

和歌を愛するおふたりは、光源氏や関係した女性たちのことを、まるで友人や知人みたいに身近な存在のように語り、紫式部がいかに魅力的な登場人物を創造し、素晴しい作品を書き上げたのかを教えてくれました。その内容は今読み返してみても新鮮で、千年も前の物語がとても身近に感じられます。

そんな貴重な対談を、1「光源氏が情を交わした女人たち」、2「高貴な女性たちと光源氏の〝かなわぬ恋〟」、3「光源氏のモデルはだれだったのか」、4「源氏は零落した中流の女性に癒される」の4つに分け、再編集して再録します。
この対談を読むと、恋愛に喜び、悩み、苦しむ気持ちは、平安時代も今も全然変わっていないことがよくわかり、『源氏物語』への興味が増すことは請け合い! これを足がかりにして、漫画『あさきゆめみし』(大和和紀)や、名だたる小説家たちが手がけた現代語訳などを読んで、2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」をより楽しみましょう!

『源氏物語図屏風』絵合 狩野〈晴川院〉養信筆 紙本着色 六曲一双 江戸時代・19世紀 158.0×354.0㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

【馬場あき子×小島ゆかり 対談】その1
光源氏が情を交わした女人たち

馬場:光源氏(※注1)は物語の中で、数々の恋愛をくり返していますが、青春時代にさて何人の恋人がいたのかご存じ?
小島:はじめは母への憧れから藤壺に恋をして、政略結婚ではありますが4歳年上の奥さんの葵上(あおいのうえ)をもらって、六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)と出会って。
馬場:ほかにも空蝉(うつせみ)、軒端荻(のきばのおぎ)、夕顔といった〝中流の女〟と出会い、末摘花(すえつむはな)、若紫とは〝異様な恋〟をし、朧月夜(おぼろづきよ)とは政治的にも〝危険な恋〟をする。その間に朝顔や源典侍(げんのないしのすけ)がいて。
小島:源典侍(※注2)は面白いキャラクターですね。彼女のほかにも遊んだ相手はいるはずだから、軽く10人は超えますね。
馬場:源氏にとって最初の女性となった藤壺は父帝(桐壺帝)の后ですが、彼女の一生はどうだったのかしら。私は藤壺ってすごく気の毒な人だと思うの。源氏に愛されても、倫理的に源氏を愛することはできないでしょう。
小島:藤壺はかなり困っていましたからね。
馬場:仕方なく関係してできた子供を、源氏とともに隠し通さなければならなくなった。しかも、帝が亡くなったら、その子供の後見を源氏に頼まなければならない。絶えず苦労ばかりのつらい一生だったのではないかしら。
小島:父である桐壺帝を裏切った不義をひた隠しにして、実の子供(冷泉帝)に帝位を継がせる。その恋と罪の意識は、源氏物語の中心テーマとしてずっとつながっていきますね。

『源氏物語絵色紙帖 桐壺 詞 後陽成院周仁』重要文化財 土佐光吉 紙本金地着色 4帖のうち甲帖 桃山時代 25.7×22.5cm 京都国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

馬場:さきほどあげた女性たちの中で、小島さんがお好きなのはだれ?
小島:朧月夜です。恋の過ちを犯しながら、その後の生き方を深く考えるけれど、また後になって源氏に対してどうにもならない感情が生まれる。そこに人間的なものを感じます。
馬場:入内(※注3)する身でありながらさりげなく隠し、源氏に惹かれながらも自分の運命を自ら歩いていく。情熱的な部分をもっている一方で、実に賢い女ですね。
小島:ほろ酔い加減のくつろいだ様子で登場し、最初は身分を明かさない。この人は奔放な面とたしなみの両方をもっているのがいい。
馬場:朧月夜は源氏の情熱に惹かれて家の定めからはみだしてしまい、起きた罪を引き受けて生きていく。それが魅力的なところですね。
小島:この時代は、恋も制度には従わなければならなかったわけですからね。
馬場:そうですね。源氏はまず、藤壺と六条御息所という天皇家の女と恋をします。その一方で、藤原氏(※注4)の女である葵上、朧月夜との恋はうまくいかない。
小島:それは、天皇家を中心に、左大臣家と右大臣家の権力のバランスをとることにつながりますね。源氏物語で重要なのは、まず恋があって、罪が生まれ、怨みを抱く。そして、その背景には政治がかかわっています。

光源氏と朧月夜の出会いの場面。『源氏物語図色紙』(花宴) 土佐光吉 絵:紙本着色 詞:彩箋墨書 安土桃山時代・16~17世紀 各24.6×21.4㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

藤壺の恋とそれによる罪の意識が物語の中心テーマとして、ずっとつながっている(小島)

朧月夜は、源氏の情熱にひかれ、犯した罪を引き受けて生きていくのが魅力的(馬場)

「若紫」の帖の一部で、光源氏と、源氏のために病気平癒の加持祈祷を行った僧が描かれている。『源氏物語絵巻断簡』(部分) 平安時代・12世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

※注1 光源氏(ひかるげんじ)
桐壺帝の第二皇子。母の身分が低いため、臣下に下ろされ源氏姓を賜る。
※注2 源典侍(げんのないしのすけ)
58歳という高齢の色好みの高級女官として「紅葉賀」「葵」「朝顔」に登場。源氏の幅広い関係を表す。
※注3 入内(じゅだい)
中宮や皇后となる女性が儀式を整え、内裏に入ること。
※注4 藤原氏(ふじわらし)
摂関家である藤原氏が左大臣家として描かれている 。

Profile 馬場あき子
歌人。1928年東京生まれ。学生時代に歌誌『まひる野』同人となり、1978年、歌誌『かりん』を立ち上げる。歌集のほかに、造詣の深い中世文学や能の研究や評論に多くの著作がある。読売文学賞、毎日芸術賞、斎藤茂吉短歌文学賞、朝日賞、日本芸術院賞、紫綬褒章など受賞歴多数。『和樂』にて「和歌で読み解く日本のこころ」連載中。映画『幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々』(公式サイト:https://www.ikuharu-movie.com)でも注目を集めている。

Profile 小島ゆかり
歌人。1956年名古屋市生まれ。早稲田大学在学中にコスモス短歌会に入会し、宮柊二に師事。1997年の河野愛子賞を受賞以来、若山牧水賞、迢空賞、芸術選奨文部科学大臣賞、詩歌文学館賞、紫綬褒章など受賞。青山学院女子短期大学講師。産経新聞、中日新聞などの歌壇選者。全国高校生短歌大会特別審査員。令和5年1月、歌会始の儀で召人を務める。2015年『和歌で楽しむ源氏物語 女はいかに生きたのか』(角川学芸出版)など、わかりやすい短歌の本でも人気。

アイキャッチ画像『源氏物語絵巻』柏木二 藤原隆能著 徳川美術館 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1685003 (参照 2023-10-13)

※本記事は雑誌『和樂(2007年10月号)』の転載です。構成/山本 毅 

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山本 毅

昭和のころからファッション雑誌の編集に携わり、重ねたキャリアだけは相当なもの。長らく渋谷の隣駅(池尻大橋)近くに住んでいたが、諸事情により実家(福岡県飯塚市)に戻る。以後もライターの仕事に携わることができ、現在2拠点生活中。LCCの安さに毎回驚きながら、初めて住んでみた人形町・日本橋エリアでの生活が楽しくて仕方がない!
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