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2024.04.30

伝統の「カミ」技で大相撲を支える、床山の世界 ~特等床山・床鶴氏インタビュー・前編~

町で力士を見かけた際、「あ、お相撲さんだ!」とわかるのは、おそらく“ちょんまげ”を結っているからではないでしょうか。明治以降も、日常的に髷(まげ)を結い続けている男性は、力士だけといっても過言ではありません。力士の象徴である髷を手掛ける存在が床山(とこやま)です。床山界のトップである特等床山・床鶴(とこつる)さんのお話しとともに、床山の世界について前後編でご案内します。

髷を結う床山には、元力士志望者が多い!?

鮮やかな手さばきと流れるような手際の良さで、力士の髪を結いあげる音羽山(元横綱・鶴竜)部屋の床山・床鶴(とこつる)さん。令和3(2021)年1月に特等床山(とくとう・とこやま)に昇進し、床山界のトップを担う存在です。現在、63歳の床鶴さんが床山として君ヶ濱部屋に入門したのは、中学卒業後の15歳のことです。長野県の松本市に生まれ育った床鶴少年は、力士を夢見て昭和51(1976)年2月に君ヶ濱部屋(元関脇の故・鶴ヶ嶺が親方を務め、昭和52年12月に名跡変更で井筒部屋)へと見学に出向きます。

特等・床山の床鶴さんは、昭和51(1976)年3月に君ヶ濱部屋に入門。昭和52(1977)年に君ヶ濱から名跡変更で井筒部屋に。令和元(2019)年に親方死去により一門の陸奥部屋へ転籍。現在は、令和5(2023)年12月に独立した音羽山部屋に所属。入門時を振り返り、「力士になりたいという夢については、親は賛成も反対もしなかったね。多分、稽古をみたら諦めがつくだろうって東京へ行かせてくれたようです」、と笑う床鶴さん

当時の床鶴さんは身長162㎝で体重48㎏(当時の新弟子検査基準は173cm・75㎏。現在は167㎝・67㎏以上で中学卒業見込み者に限り165㎝・65kg以上)。現役力士や彼らの稽古姿を目の当たりにして、これは無理だと早々に断念します。力士の夢を諦めた床鶴さんに、「相撲が好きならば行司、呼出し、床山などの仕事はどうだ」と親方が提案。「ああ、そんな仕事もあるのかと思ってね。当時の君ヶ濱部屋には、4人の行司がいたけれども床山はひとりもいない。ならば床山になるかって、そんな具合で始まりました。力士を目指して部屋を訪ねて、床山になった人はわりと多い。うちの部屋の大ちゃん(一等床山・床大さん)もそうだね」。

相撲部屋に入門する床山、階級制で見習い期間も

床山になるにはどうすればいいのか?入門資格は、15歳~19歳までの健康な男子。理美容師の免許は不要です。行司や呼出しも同じですが、まずは相撲部屋へと入門します。その後、床山会や相撲協会に面談のうえで採用に。定員は50名というものの、床山のいない部屋(力士12名以上所属のこと)からの要請があれば、追加補充もあるそうです。「今年の春は、新たな見習いが入りました。今はちょうど50名かな。見習い期間は、大体3年ぐらい。先輩について技を習得する期間であり、部屋で力士と一緒に掃除や雑用なども行います」と床鶴さん。

力士に番付があるように床山にも階級があります。見習い期間である五等から特等までの6階級です。床鶴さんいわく、10年目で三等、20年目で二等、30年目で一等にほとんどの床山が昇進するそう。特等は勤続45年以上の60歳以上で技能優秀な者と規定されています。

「私が入門したときは、部屋に床山がいないため伊勢ノ海部屋の床一さんに学びました。道具の扱い方や基本的なことを教えてもらうと、あとは『見て学べ』という職人の世界。髷を結うための下ごしらえ、“クセもみ(*)”をきちんとこなせるようにと、毎日練習をしていました」

*髪を結いやすくするために手で揉んで髪のクセをとること。見習い時代は、特にクセもみをしっかりと覚えるように言われるそう

入門後しばらくは、床一さんの横について髷を結っていたそうです。最初は、床一さんが3、4人を仕上げる間、1人を結うので精一杯。しかし毎日、毎日、何人もの力士を結うなかで、ひと月ほどでちょんまげはそれなりに形になってきます。「見習い時代は数をこなせ!と言われ、その通りにやっていましたね」

床山の名前には必ず「床」の一文字が入っている

床山とは、そもそも江戸時代に歌舞伎役者の髪を結っていた人のこと。今では、歌舞伎(や時代劇など)のかつらを結う人と力士の髪を結う人を指します。相撲界にいる床山の名前には、頭に必ず床の字がつきます。基本は、床に本名の一文字が多いそう。しかし床鶴さんの本名は鍋島光男さん、どこにも鶴の一字がありません。「光男の一文字を取り入れて床光(とこみつ)と親方と決めて相撲協会に申請したところ、先輩で床光さんがいらっしゃってね。親方(元関脇・鶴ヶ峰)が『俺の四股名の鶴を使えばいい』と、鶴の文字をいただいて床鶴になりました」

力士の髪を結うときは右側に道具箱を置き、特に目をやることなく櫛やハサミをすっと取り出して結っていく。ちなみに床鶴さんの作業着は基本エプロン。「作業着のこだわりは特にないですね、どこにでも売っているエプロンです」

そんな風に部屋や師匠ゆかりの一文字をいただくこともあるそうです。しかし行司のように受け継がれる名跡はありません。ちなみに床山が行司や呼出しが名を連ねている番付表に載ったのは、平成20(2008)年1月場所からのこと。最初は特等床山のみでしたが、平成24(2012)年1月場所からは一等床山も掲載されています。

力士はもちろん床山も気合が入る髷・大銀杏

床山が結う髷は二種類です。そのひとつが“ちょんまげ”。普段の生活や稽古時は、力士はちょんまげで過ごします。
「本場所の時以外は、朝の稽古が終わって風呂を終えた力士のちょんまげを結います。毎朝十時ごろに部屋に入って、力士の髪を順番に結っていきます。基本的には所属する部屋の力士のみを担当しますが、見習い床山だけの部屋や巡業の際は、他の部屋に所属する力士の髪を結うこともあります」と、床鶴さん。

普段結うのは、大体ちょんまげ。部屋の力士が稽古を終えて風呂に入った後、ちゃんこを食べるまでの時間でちょんまげを結っていく床鶴さん。「稽古終わって髷を結う時間は、ちょっとした休息のひととき」と音羽山部屋・所属力士の鋼(はがね)さん

もうひとつの髷が関取(十両以上)のみに許される“大銀杏”(おおいちょう)です。しかし関取であっても普段はちょんまげです。大銀杏は、取り組みや行事で結う特別な髷です。床鶴さんが大銀杏を初めて結ったのは、井筒部屋に新関取が誕生した昭和54(1979)年ごろのこと。ちょうど床鶴さんの見習い期間が終わったころでした。親方の三人息子である鶴嶺山(長男)、逆鉾(次男)が揃って十両へと昇進、その後を追いかけるように寺尾(三男)も関取へ。いつかはと大銀杏を練習していたものの、実際に部屋の新関取衆を手掛けるときには、かなり緊張したそうです。

櫛を数種類使いながら、きれいに髪を梳きあげていく

「正確には覚えていないけれど、最初に大銀杏を結ったときは、すごく長い時間がかかったんじゃないかな。出来上がり?そりゃ下手だなあって思いましたよ(笑)。でも自分の部屋の力士だからやるしかない。大銀杏は、クセもみの時間は別としても、今でも仕上げるのには20分程度はかかるもの。見映えよくするために、仕上げには毛先にちょっとハサミもいれるしね。だから最初は40分とか、かかったんじゃないかな。関取衆は何も言わなかったけれど、慣れるまで長い時間付き合ってもらいました」。

大きな手で流れるように髷を結っていく床鶴さん

ちょんまげを結うには、最低でも肩ぐらいの長さ(後ろの左右の毛を首前にもってきて合わせられたらOK)、大銀杏を結うには肩甲骨下ぐらいまで髪の長さが必要だと言います。「昔の力士は、大銀杏が結えるころに十枚目に昇進したけど、最近はザンバラ頭で入幕も珍しくなくなった。先場所(令和6年3月場所)の尊富士関は、ちょんまげで優勝ですからね」

後編に続きます。

▼大相撲関係者インタビュー記事はこちらにも。
美しい所作、鋭い眼光、響く声。木村容堂さんに聞く、大相撲「行司」の世界・前編
大相撲の人気呼出し・利樹之丞さんインタビュー!呼出しとはどんな仕事?(前編)

撮影/梅沢香織

参考図書■
知れば知るほど行司・呼出し・床山(ベース・ホールマガジン社)
支度部屋での大相撲五十年 床山と横綱(新潮社)
大銀杏を結いながら 特等床山・床寿の流儀(PHP) 
大相撲(小学館) 

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森 有貴子

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。
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