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躍動感! 写実性! 仏教彫刻の美を堪能できる!「天」
仏教が成立する以前の、古代インドで信仰されたバラモン教やヒンドゥー教の神々が教化され、新たに仏となったものが「天」。多様なルーツをもち、役目や性格、見た目など、バラエティー豊かなことも天の特徴です。
その大きな役目は、仏そのものや信仰する人々を護り、信仰の邪魔になるものを退けること。ご利益に直結するものもある天は、如来(にょらい)、菩薩(ぼさつ)、明王(みょうおう)よりも人に近く、人々に親しまれ、人気を集めてきたものが少なくありません。
一般に天は如来や菩薩に付き従う「眷属(けんぞく)」で、その働きを助ける役目を果たしています。なかでも高位の天である梵天(ぼんてん)や帝釈天(たいしゃくてん)は、中国の貴人の服装をしていて、吉祥天(きちじょうてん)や弁財天(べんざいてん)は貴婦人の服装。インドや中国の高貴な人の服装であること、はっきり女性とわかる仏の存在も、天ならではのことです。
さらに、甲冑(かっちゅう)で武装した四天王(してんのう)や十二神将(じゅうにしんしょう)、八部衆(はちぶしゅう)、二十八部衆などは、いわばボディガード集団。須弥壇(しゅみだん)の本尊を守護するために周囲を固めていて、仁王(におう)・金剛力士(こんごうりきし)は寺域に外敵が侵入するのを防ぐために門に立っています。
ほかにも、俊足で知られる韋駄天(いだてん)、商売繁盛のご利益がある大黒天(だいこくてん)、地獄の閻魔(えんま)、自然現象を神格化した風神(ふうじん)・雷神(らいじん)など、天のグループはまさに多士済々です。
写真では個別に見られる天ですが、寺院の堂内では眷属である天が本尊と脇侍を護っている役割が明確にわかり、仏教の世界観を見て取ることができます。
ぜひ拝したい! 国宝の天像
東大寺の国宝『四天王立像 広目天』
塑像、彩色 8世紀 像高169.9㎝ 東大寺・戒壇堂(とうだいじ・かいだんどう 奈良県奈良市)
詳細は以下サイトへ。
https://www.todaiji.or.jp/
仏法(ぶっぽう)を侵す外敵からの守護を務める四天王は、武神の姿と忿怒(ふんぬ)の表情で知られる。なかでも要注目なのが、筆と巻物を持ち、厳しさと憂いを秘めた表情をした、塑像(そぞう)の傑作である東大寺の広目天(こうもくてん)。これは、四天王が人々の行いに目を向け、その行状を帝釈天に報告したと経典に説かれた姿を表したもの。まさに知将というべき広目天の、写実的な表情に目を奪われる。
新薬師寺の国宝『十二神将立像 迷企羅(因達羅)』
塑像、漆箔、彩色 8世紀中ごろ 像高162.0㎝ 新薬師寺(しんやくしじ 奈良県奈良市)
詳細は以下サイトへ。
http://www.shinyakushiji.or.jp/
十二神将像とは薬師如来の眷属、つまりボディガードのグループ。新薬師寺では本尊を丸く囲むように配置されていて、等身大に近い大きさで、天平時代の塑像の代表作らしい風格がただよう。いずれ劣らぬ個性をもっているが、迷企羅(めきら 文化庁の国宝登録名は因達羅〈いんだら〉)は迫力満点の表情で、左手を上げた軽やかなポーズに躍動感がみなぎっている。
興福寺の国宝『八部衆立像 阿修羅』
脱活乾漆造、漆箔、彩色 天平6(734)年 像高153.4㎝ 興福寺(こうふくじ 奈良県奈良市)
詳細は以下サイトへ。
https://www.kohfukuji.com/
古代インドの異教の8神を集めた八部衆は、仏教を守護し、仏に捧げ物をする役目が与えられている。唯一武装をしていないのが阿修羅(あしゅら)で、脱活乾漆造(だっかつかんしつぞう)という技法でつくられた三面六臂(さんめんろっぴ)の姿は、異形(いぎょう)ながら、少年のようにすらりとしたプロポーションが美しい。目鼻立ちが整った正面の顔立ちから、今や仏像界きっての人気者。
安倍文殊院の国宝『善財童子立像』
快慶作 木造、彩色、截金、玉眼 承久2(1220)年 像高134.7㎝ 安倍文殊院(あべもんじゅいん 奈良県桜井市)
詳細は以下サイトへ。
https://www.abemonjuin.or.jp/
純粋無垢なあどけない童子姿で最近人気急上昇中の善財童子(ぜんざいどうじ)は、本尊・文殊菩薩の4人の脇侍のひとり。文殊菩薩に導かれ、悟りを得るために各所を訪れたとされる。鎌倉時代の名仏師・快慶(かいけい)の手による本像は、檜(ひのき)の寄木造(よせぎづくり)で表現は非常にリアル。玉眼(ぎょくがん)を用いた目のウルウル・キラキラとした輝きも印象的で、童子のあどけなさを引き立てている。
「邪鬼」を踏みつけて立つ「毘沙門天立像」
毘沙門天(びしゃもんてん)をはじめ、四天王像はそれぞれ「邪鬼」を踏みつけている。邪鬼とは仏法を犯すものの象徴であって、四天王がこらしめていることを表わす。邪鬼はいずれもユニークな姿をしているので、邪鬼を見比べるのも、美仏鑑賞のひとつのポイント。
構成/山本 毅
※本記事は雑誌『和樂(2019年4・5月号)』の記事を再編集しました。