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Culture

2025.05.23

歌人・馬場あき子先生に聞く「和歌と短歌の違い」実は短歌の方が古かった?

和歌(わか)と短歌(たんか)って、どう違うの? そんな疑問に、歌人・馬場あき子さんがズバリ答えてくれました! 実は、『万葉集』と『古今和歌集』の間に、大きな分岐点があったのです。

和歌と短歌の違いとは

『和樂(わらく)』本誌の馬場あき子さんの連載「和歌で読み解く日本のこころ」。四季折々の花などの景物や行事に重ねて、馬場さんが毎号取り上げてきた和歌の数々からは、昔も今も変わることのない人々の思いが伝わってきます。

五七五七七という韻律をもった三十一文字のこの定型詩は、千年以上の時を超えて現代にまで詠み継がれてきた、まさに日本文化の宝!

『古今和歌集』巻第17に所収されている読み人知らずの歌「我みても久しくなりぬ住江の 岸の姫松いく夜経ぬらん」を、濃い藍と薄い縹の料紙2ページに揮毫。平安時代の仮名書きの特徴である「散らし書き」は、行頭を揃えない各行が揺らいでいて、余白には高い芸術性が見て取れる。平安古筆の逸品である。『継色紙(つぎしきし)「われみても」』 伝紀貫之筆 重要文化財 平安時代・10~11世紀 九州国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

と、ここで、ひとつの疑問が浮かんできました。「和歌」はいつから「短歌」と呼ばれるようになったのでしょう? 古い時代の歌を「和歌」と呼び、現代は「短歌」と呼ぶ、ざっくりとそんなイメージはあるものの、その線引きはいったいどこに? そもそも「和歌」と「短歌」の違いって? 今さら聞けない基本のキを、馬場さんに勇気をもってたずねてみました。すると、思いがけない答えが返ってきて…。

「五七五七七の音律の歌を〝和歌〟と呼ぶようになったのは『古今和歌集』からです。それ以前、『万葉集』のころは、まだ〝和歌〟という言葉はなくて、この形式の歌は〝短歌〟と言っていたんですよ」

『万葉集』は、奈良時代末ごろに成立したとされる日本最古の歌集。一方、『古今和歌集』は、醍醐天皇(885~930年)の詔(みことのり)で、平安時代前期(905年が定説)に編纂された最初の勅撰和歌集です。

三十六歌仙のうちのひとりでもある、紀貫之。『藤房本三十六歌仙絵(模本)』(部分) 江戸時代・19世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

「『万葉集』の時代には〝長歌(ちょうか)〟が盛んにつくられていたんです。長歌というのは、五と七をずっと繰り返してつなげていく歌。いくつつなげてもよくて、最後を七七で止めるというのが約束です。すると、歌の終わりの五七五七七の部分が、私たちが今、短歌と呼んでいる形になる。ここで歌の全体をまとめたり、言い足りなかったことを付け加えたりするわけです。繰り返しの締め括りとなるこの部分を、反復の〝反〟の字をとって〝反歌〟と言ったのね。さらに、長歌に対して〝短い歌〟という意味で、〝反歌〟は〝短歌〟と呼ばれるようになり、やがて独立した歌の形として主流になっていったんです」

これが長歌から短歌への分かれ道。そしてその先にある短歌から和歌への分岐点が『古今和歌集』だと、馬場さんは言います。

「『古今和歌集』の冒頭に、撰者の中心人物だった紀貫之(きのつらゆき ?~945年)は序文を書いています。しかも、公の文章は漢文を用いるというそれまでのルールを破って、仮名を用いて書いた。その〝仮名序(かなじょ)〟は、こうはじまります。『やまと歌は、人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける』。これ、とても大事な一行です。日本の詩歌は、人の心がもととなってたくさんのことばが詠(よ)まれてきたのだ、と。何に対しての〝やまと〟かと言ったら、唐ですよ。唐の〝漢詩〟に対して、自分たちの詩歌を〝やまと歌〟と呼ぼうではないか、と貫之は高らかに宣言した。これが〝和歌〟のはじまりです」

古今和歌集は写本のみが伝わり、本品は制作当初の形がほぼそのまま残っている現存最古い写本。冒頭に古今和歌集序の「やまと歌は人の心を種として よろづの言の葉とぞなれりける 世の中にある人 ことわざ繁きものなれば 心に思ふことを 見るもの聞くものにつけて 言ひ出せるなり 花に鳴く鶯 水に住む蛙の声を聞けば 生きとし生けるもの いづれか歌を詠まざりける・・・」。『古今和歌集(元永本) 上帖』 国宝 平安時代・12世紀 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

馬場あき子
歌人。1928年東京生まれ。学生時代に歌誌『まひる野』同人となり、1978年、歌誌『かりん』を立ち上げる。歌集のほかに、造詣の深い中世文学や能の研究や評論に多くの著作がある。読売文学賞、毎日芸術賞、斎藤茂吉短歌文学賞、朝日賞、日本芸術院賞、紫綬褒章など受賞歴多数。『和樂』にて「和歌で読み解く日本のこころ」連載中。映画『幾春かけて老いゆかん 歌人 馬場あき子の日々』(公式サイト:ikuharu-movie.com)。

取材・文/氷川まり子 構成/田中美保、古里典子(本誌)
※本記事は雑誌『和樂(2024年8・9月号)』の転載・再編集です。

和歌についてもっと詳しく

『和樂(2019年10・11月号)』で馬場さんが教えてくださった、『万葉集』『古今和歌集』『新古今和歌集』のこと、歌を詠むことで培われてきた日本人の美意識や季節感、そして「三十六歌仙」についてのお話を、webにも掲載しています。

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和樂web編集部


構成/田中美保、古里典子(本誌) ※本記事は雑誌『和樂(2024年8・9月号)』の転載です。
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