CATEGORY

最新号紹介

4,5月号2026.02.28発売

美の都・京都で出合う うるわし、工藝

閉じる

Culture

2026.03.24

「無慈悲な要注意人物」細川忠興の意外なミスとその理由は? 実際の手紙を読んでみた

「細川忠興は、無慈悲な人間です(※1)」 これは徳川四天王の一人、井伊直政が言い放った言葉だという。関ヶ原の戦いで活躍した忠興に、褒美を与えようと徳川家康が考えを述べた時のこと。「忠興は無慈悲な人間だから要注意。なるべく中心地から遠くの土地を与えるのがいいでしょう。」と直政が進言したそうだ。

忠興は戦乱の世で勝つために、時には家族も切り捨てる冷徹な人間。最強の外様大名として恐れられていたのだろう。そんな“ストロング忠興”でも、うっかりミスをすることがあった。そんな歴史の新発見をお伝えしよう。

※1:『綿考輯録』巻十七より

家の存続を第一に考える忠興、息子にも容赦なし!

まずは忠興がいかに無慈悲で強かったかを振り返ろう。明智光秀が織田信長を殺した本能寺の変。光秀の娘(細川ガラシャ)を妻にしていた忠興は、光秀から味方になるように頼まれた。しかし父と共に情勢を冷静に見極め、光秀に味方しなかったのは有名な話だ。たとえ家族や親族であろうとも、細川家の存続を邪魔する者は切り捨てていく。忠興のストロングスタイルは常に揺るがない。

▲細川忠興(三斎)像(部分) 永青文庫蔵

たとえば長男の細川忠隆へのトラブル対応をみてみよう。関ヶ原の戦いの際、忠興は屋敷に残る妻ガラシャや、長男の妻に約束をさせた。忠興や長男が戦に出ている間、万が一、屋敷が襲われた場合は名誉を守るため死んでほしい、と。こんな凄まじい約束を考える忠興は無慈悲マックス! そして、残念ながら本当に悲劇は起こってしまう。石田三成が率いる西軍に屋敷を襲われ、ガラシャは家臣に胸を突かせ死んだ。

しかし長男の妻、千世(ちよ)は約束を破り、屋敷から逃げて生き延びた。この態度に忠興は怒り、長男に妻と離縁しろと迫る。長男が離縁を拒んでいると、忠興の怒りは増し、絶縁を切り出したそうだ。長男は関ヶ原の戦いで活躍したにもかかわらず、自分に近づいてきたら切腹を申し付けるとまで言い出す忠興のストロング・スタイル徹底ぶり。結局、長男・忠隆は武士を辞めて僧侶にさせられたのだった。

新たに重要文化財に追加指定された細川家関連の手紙、その数9000点以上!

家族にも容赦しない忠興は、戦乱が起こるたびに的確な判断を行い、最強の外様大名として家を存続させた。そして細川家は熊本藩主になり240年も続いた。安定した熊本時代に、長い年月保管されてきた書状が細川家にはたくさんある。

▲重要文化財 徳川家康書状 慶長5年9月23日付 永青文庫蔵 徳川家康の書状も細川家に残っている。関ヶ原の戦いに敗れた石田三成が捕縛されたことを家康が忠興にいち早く伝えるために、書かれたもの。

そして細川家が持ちつづけた書状をはじめとする古文書9000点以上が新たに重要文化財に追加指定されたのだ! なかでも特に面白いのが、1615年・大坂夏の陣で細川忠興が現地から息子たちへ送った自筆の書状である。決戦の只中、燃え盛る大坂城天守を仰ぎ見て書かれた一通には、心にずっしりくる歴史的パワーワードとともに、忠興らしからぬ焦りの痕跡が残っている。戦国時代、数々の修羅場を生き抜いた忠興でさえ動揺した大坂夏の陣。忠興の人間味を、書状から感じ取ってほしい。

大坂城、燃える。その瞬間、忠興が書いた歴史的パワーワードとは

1615年5月7日。大坂夏の陣のまっただ中で書かれた細川忠興の自筆書状。宛先は三男の細川忠利と、家老、番頭、物頭などたくさんある。要するに「現場から全員に一斉送信」した緊急連絡である。夕刻、大坂城天守に火がかかり、城はあっけなく炎に包まれた。忠興はその場で、こう書いている。「大坂城攻めはすべてけりが付いた。」

▲重要文化財 細川忠興自筆書状 慶長20年5月8日付 永青文庫蔵(熊本大学附属図書館)

大坂城攻めはすべてけりが付いた
大坂城攻めはすべてけりが付いた
大坂城攻めはすべてけりが付いた……

豊臣家滅亡、戦国時代の終焉。その決定的瞬間を目の前で見た忠興の気持ち、想像を絶する!

歴史の変わり目をしたためた忠興の手紙! しかし日付が一日ズレている?

忠興自筆の書状、原本を見ると日付が「五月八日」と書かれている。大坂城が落ちたのは、どう考えても七日である。なぜ八日なのか。

▲日付が書かれた部分

自筆書状をよく見ると、上段左上に墨移りがみられる。墨が乾かないうちに、慌てて紙を折った痕跡だ。忠興は、燃え盛る大坂城天守を目の前にしながら、急いで書いた可能性が高いという。(※2)戦国最強クラスのサバイバーも日付をうっかり間違える、まさかの展開!

忠興は、信長、秀吉、家康に仕えて戦乱の世を生き残る。豊臣秀吉の死後は、石田三成と対立し、すばやく徳川家康を支持した。権力構造の変化を見極め、常にうまく立ち回ってきた忠興。そんな彼でさえ、大坂城炎上の瞬間には動揺して書状の日付も間違えたとは、なんとも印象的だ。「大坂城攻めはすべてけりが付いた」という一文からは、喜びというより、生まれてからずっとずっと続いていた戦乱が、あっけなく終わったという衝撃が感じられる。

※2:熊本大学永青文庫研究センター長・稲葉継陽「細川家文書の世界 第25回永青文庫の細川忠興文書(4)炎上する大坂城天守を仰ぎ見て」/『季刊 永青文庫』116号、2022年より

燃える大坂城でセンチメンタルになりすぎず、すぐ仕事モードに戻る忠興

しかし忠興は、感傷に浸るだけの人物ではない。自筆書状の後半では、三男の忠利や家臣たちに明確な指示を出している。
「もう軍勢はいらない。途中まで来ていても引き返せ。国元に戻れ。ただし忠利、お前だけは将軍に挨拶に来い」。
戦後処理を見据えた、きわめて現実的な判断である。この直後、江戸幕府は新政策を矢継ぎ早に出す。忠興は、その始まりを誰よりも早く察知していた。さすが”ストロング忠興”!

重要文化財に指定された9000点以上の古文書の中で、忠興の書状は1,900通以上あるらしい! 1600年から1645年まで、後継者に発し続けたものだそうだ。細川家の所蔵品を展示する永青文庫では不定期で忠興が書いた書状が展示されることもある。ぜひ美術品の展示とともに、忠興の書状も見てほしい。

参考文献:熊本大学永青文庫研究センター長・稲葉継陽「細川家文書の世界 第25回永青文庫の細川忠興文書(4)炎上する大坂城天守を仰ぎ見て」/『季刊 永青文庫』116号、2022

永青文庫からのお知らせ

令和7年度早春展「アジアの仏たち―永青文庫の東洋彫刻コレクションー」

2026年1月17日(土)〜2026年3月29日(日)

重要文化財「菩薩半跏思惟像」 中国 北魏時代(6世紀前半) 永青文庫蔵

永青文庫の設立者・細川護立(もりたつ、1883~1970)は東洋美術に広く関心を持ち、中国考古や陶磁器ばかりではなく、中国の石仏・金銅仏、インドや東南アジアの彫刻をもコレクションに加えました。本展では「菩薩半跏思惟像」や「如来坐像」(いずれも重要文化財)をはじめとする中国彫刻のほか、多種多様なインド彫刻を7年ぶりに紹介しています。
https://www.eiseibunko.com/exhibition.html#2025fuyu

令和8年度春季展「熊本城――守り継がれた名城400年の軌跡―」

2026年4月11日(土)〜2026年6月7日(日)

赤星閑意「熊本城之図」 明治時代(19世紀) 永青文庫蔵(熊本大学附属図書館寄託)

2026年は熊本地震から10年という節目の年。加藤清正によって築かれた熊本城は、加藤家のあとを受け熊本に入国した細川家が約240年にわたり居城とした名城です。熊本と深いつながりのある永青文庫では、震災からのさらなる復興を祈念し、2025年に重要文化財に追加指定されたばかりの「細川家文書」やゆかりの美術工芸品をとおして、細川家の視点から熊本城の歴史をたどります。
https://www.eiseibunko.com/exhibition.html#2026haru

Share

給湯流茶道

きゅうとうりゅう・さどう。信長や秀吉が戦場で茶会をした歴史を再現!現代の戦場、オフィス給湯室で抹茶をたてる団体、2010年発足。道後温泉ストリップ劇場、ロンドンの弁護士事務所、廃線になる駅前で茶会をしたことも。サラリーマン視点で日本文化を再構築。現在は雅楽、狂言、詩吟などの公演も行っている。ぜひ遊びにきてください!
おすすめの記事

“不仲”な三成の手紙の裏に「風姿花伝」を書いた!? 永青文庫の新発見資料がアツい!

給湯流茶道

「鬼の妻には蛇が似合いでしょう」戦国美女・細川ガラシャが夫に放った一言の理由

和樂web編集部

命のやり取りをする刀剣に惹かれる。阿部顕嵐が語る「あらん限りの歴史愛」vol.1

連載 阿部顕嵐

戦国大名はなぜ名前を何度も変えるの?武将の姓・氏・名の謎を徹底解説!

Dyson 尚子

人気記事ランキング

最新号紹介

4,5月号2026.02.28発売

美の都・京都で出合う うるわし、工藝

※『和樂』2026年4・5月号 美術展カレンダーに誤りがありました。P.224で紹介しました、福岡県・久留米市美術館で開催中の「美の新地平ー石橋財団アーティゾン美術館のいま」の入館料は、正しくは一般1,500円となります。お詫びして訂正いたします。
※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア