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Culture

2026.09.01

菓子舗「叶 匠壽庵」スペシャル対談。三井寺ゆかりの近江銘菓「閼伽井」が誕生60周年を迎えました

代表銘菓「あも」で知られる菓子舗「叶 匠壽庵(かのうしょうじゅあん)」。現在の拠点は滋賀の里山にありますが、創業の地は三井寺(みいでら)のほど近く。以来、三井寺との交流が続いています。対談テーマは、この寺にある「閼伽井屋(あかいや)」の霊泉に着想を得た餅菓子「閼伽井(あかい)」。誕生から60年を経て、この菓子に改めて託す思いを福家俊彦長吏(ふけしゅんげん ちょうり)と芝田冬樹社長に伺いました。

福家俊彦・園城寺(三井寺)長吏×芝田冬樹・叶 匠壽庵主人

滋賀県大津市、長等山(ながらやま)の中腹に位置する「長等山園城寺(ながらさんおんじょうじ)」(通称三井寺)。三井寺と呼ばれるいわれは、霊泉「閼伽井」が天智・天武・持統の御三帝の産湯として用いられたので、「御井寺(みいのてら)」との名がついた、とのこと。たくさんの歴史的価値のある文化財を有する三井寺の、国宝「光浄院客殿(こうじょういんきゃくでん)」にておふたりの対談が始まります。

狩野派による障壁画が見どころでもある光浄院客殿にて。慶長6(1601)年建立。室町時代に誕生した書院造の代表的遺構として国宝に指定されている。事前申し込みで特別拝観が可能。

新しい視点で近江の歴史や文化を語り継ぐ菓子をつくる

芝田 「閼伽井」ができたのが昭和40(1965)年。「叶 匠壽庵」の創業者であり、私の祖父にあたる芝田清次(せいじ)の創案したものです。菓銘を、三井寺にある閼伽井屋にちなんで「閼伽井」にしたいとご相談したのが、福家長吏のお父様である福家俊明(しゅんみょう)長吏(当時)でした。

福家 そうですね。

園城寺(三井寺)長吏
福家俊彦

天台寺門宗・総本山園城寺 第164代長吏。1959年滋賀県大津市生まれ。天台寺門宗・宗機顧問ほか、滋賀県の文化活動にも尽力。故・松岡正剛氏を中心とした近江価値再発見プロジェクト「近江ARS」に「叶 匠壽庵」と共に参画している。

芝田 そもそも初代は「叶 匠壽庵」を立ち上げる前は大津市役所の観光課に勤めており、菓子についてはまったくの素人でした。ただ、近江を代表するような特産品をつくりたいという思いは人一倍強かった。近江の風土や文化、その根底にある日本文化を和菓子に託して発信したいと考えていた初代にとって、「近江を代表する寺院である三井寺の近くにいたい」と思うのは当然だったようです。実際、最初の店である長等総本店は三井寺から歩いて数分のところにありますし(現在も営業)、菓子販売のスタートは三井寺に隣接する門跡寺院・圓満院(えんまんいん)に停まる観光バスの駐車場でした。

福家 父が初代主人の芝田さんにどんな言葉をかけたかはわかりませんが、閼伽井屋に着目したことが、ほかの店にはない視点でいい、と私は思いました。

芝田 そうですか! うれしいです。先にご説明したように、創業した当初は凝った菓子をつくる発想がなく、「閼伽井」もその一例で、餅にきな粉をまぶした素朴な菓子なんです。でもそれを3つの餅にして、御三帝の功徳の願いを込めた。そして「閼伽井」と名づけたところに、初代の感性を感じますね。

叶 匠壽庵主人
芝田冬樹

叶 匠壽庵3代目当主。1964年滋賀県生まれ。1984年入社し、菓子製造や商品企画に携わる。2012年、代表取締役社長に就任。約6万3000坪に広がる「寿長生(すない)の郷(さと)」を拠点に菓子の一貫製造を行っている。

福家 近江の菓子をつくるとなったら、一般的には有名な「近江八景(比良の暮雪(ひらのぼせつ)、堅田の落雁(かたたのらくがん)、唐崎の夜雨(からさきのやう)、三井の晩鐘(みいのばんしょう)、粟津の晴嵐(あわづのせいらん)、矢橋の帰帆(やばせのきはん)、瀬田の夕照(せたのせきしょう)、石山の秋月(いしやまのしゅうげつ))」に頼ってしまうと思うんです。でもね、芝田さんの菓子はあえてそこを外している。

芝田 言われてみたらそうですね。昭和33(1958)年に創業して、最初に考案した菓子は「道標(みちしるべ)」というもなかでした。湖国(ここく)の豊かさや近江の風景、文化、歴史といったものが菓子づくりの発想にあるのですが、“いわゆる”という名称のものは、今も少ないですね。

福家 名づける、というのは菓子に限らずいちばん気を使うことですね。字面も、音の響きも、どちらも大事なこと。初代主人は、広い目で近江を見て、そこから絞り込んでいく発想がユニークですよね。初めて「閼伽井」に出合う人にも、その思いを感じてもらえると思います。

右/三井寺の玄関である仁王門。徳川家康の寄進による。中/右から金堂(国宝)、閼伽井屋(重要文化財)。閼伽井とは仏様に供える聖水をたたえた井戸で、閼伽井屋はそれを祀る場。左/閼伽井屋内部。聖水の湧き出る神秘的な水音を現在も聞くことができる。写真提供:三井寺

近江を映し、長く愛される菓子とはどんなもの?

芝田 昨年、「閼伽井」が発売60年を迎えました。この節目に新しい味の「黒胡麻(くろごま)」をつくり、福家長吏に菓銘の書き下ろしをお願いしました。ひとつの菓子を介して、時を超えておつきあいが続いていることが、ありがたいです。

福家 「叶 匠壽庵」は「新しい近江」「別の視点で見た近江」のお菓子をつくろうとしているように私は感じます。そのオリジナリティが、60年以上支持されてきた理由ではないでしょうか。

芝田 新しい「閼伽井」をきっかけに、菓子を口にした方が三井寺の閼伽井屋に足を運んでいただけたらと思っています。私たちは菓子づくりが本業ではありますが、伝えたいのは近江の風土であり文化。菓子はいい素材を使って、手を加えすぎず、素材そのものの味を生かす。この思いは、ずっと変わりません。

福家 私ね、芝田社長が創作される生菓子が好きなんです。日もちのするものとは真逆にある、一期一会の菓子。その味も知ってもらったら、「叶 匠壽庵」の菓子の厚みがもっと伝わると思いますよ。

芝田 経営から引退したら、職人に戻って改めて菓子づくりに専念したいです。温かいお言葉、胸に留めておきます。

「閼伽井」発売60年を記念して「閼伽井 黒胡麻」が新登場

こしのある羽二重(はぶたえ)餅は小ぶりながら食べごたえは十分。別添の黒蜜(沖縄県産黒糖を使用)をかけると、より味わいに奥行きが出ます。定番の「黒蜜きなこ」は、滋賀県産大豆の香り高いきな粉を羽二重餅にたっぷりまぶしたもの。新登場の「黒胡麻」は、香ばしく焙煎した黒ごまをすりごまに。栄養価も高く、滋味深い味わいが楽しめます。

閼伽井詰合せ10個入(黒蜜きなこ、黒胡麻各5個)2,538円。
●価格表記は税込価格です。

問い合わせ先
叶 匠壽庵 お客様センター
0120-257-310
公式HP https://kanou.com/
●三井寺
滋賀県大津市園城寺町246
miidera1200.jp

撮影/伊藤 信、石井宏明(静物)
スタイリスト/城 素穂(静物)
デザイン/澤田 翔
構成/藤田 優、後藤淳美(本誌)

※本記事は『和樂(2026年10・11月号)』の転載です。

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和樂web編集部

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