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Culture
2019.09.26

日本人の「遊びの哲学」がここに!東京ゲームショウ取材ルポ

この記事を書いた人

日本に住まう人々は、昔から「遊び」に関しては一級の才能を発揮していた。

日本人がその手で生み出した最大のホビー製品は何か。もしそう問われたら、筆者は「ファミコン」と答える。ロムカセット交換式の家庭用ゲーム機は任天堂のファミリーコンピューターが初めて、というわけではない。が、所詮は「子供の玩具」に過ぎなかったコンピューターゲームを「本気の道楽」にしたのは紛れもなくファミコンである。

同時にファミコンは、日本を「ゲーム大国」にするきっかけを作った。

幕張メッセにやって来た!

毎年9月に開催される東京ゲームショウ(以下TGS)。

このイベントは世界最大級のゲーム展示会で、今年2019年で29回目を迎えた。

ここへ来れば、今現在のゲーム業界の状況が一目で把握できる。KONAMI、CAPCOM、スクウェア・エニックスあたりの巨大メーカーは、広いスペースを占有してブース展開している。筆者は前半2日間のビジネスデーに取材したが、これが後半2日間のパブリックデーになると「ブース入場まで1時間」というような感じになってしまう。だが、ここでは敢えて大企業のブースではなく、あまり名の知られていない中小メーカーのブースに目をやってみる。

韓国と中国、そして東南アジア諸国からのメーカーが存在感を示すようになっている。

ファミコンの「功績」

コンピューターゲームを産業化したのは、アメリカのAtariというメーカーだった。

70年代、Atariはホーム・ポンとAtari 2600という家庭用ゲーム機を立て続けにヒットさせた。特ににロムカセット交換式ゲーム機であるAtari 2600は、そのソフトを供給するメーカーをも市場に呼び込んだのだ。コンピューターが一般家庭に導入されるなどということは、SF映画でしか有り得なった時代である。

しかし、Atari 2600の爆発的なヒットは「ソフトの粗製乱造」という現象を引き起こした。コンピューター分野に関心のない企業までが「ゲームソフトを作ったら会社の宣伝になる」という理由でゲーム業界に参入し、まるで遊べないような低品質のソフトを何万本という単位で生産してしまった。膨大な在庫を抱えた小売店はコンピューターゲーム自体を敬遠するようになり、これが北米での「Atariショック」につながった。

日本の任天堂がファミリーコンピューターを発売したのは、それより数年後のことである。

ファミコンは同時期のゲーム機と比較してコストパフォーマンスに優れ、性能自体も高かった。しかも今現在に至るまで受け継がれるほどの名作ソフトも多く輩出している。

元々はアーケードゲームの一脇役に過ぎなかったマリオは、ファミコンの登場で子供たちのヒーローになった。今まで一般家庭になかった新しいコンセプトの製品を売るために、そしてAtari 2600のような悲惨な末路を回避するためにも、常に次回作が待望されるようなスターが必要不可欠だったのだ。

遊びの中で学ぶ

ファミコンはAtari 2600の二の舞とはならず、それどころかファミコンに続く後継者の系譜を構築することに成功した。

また、ファミコンで遊んだ子供たちはコンピューターの基礎知識を自然に身に着けることができた。

デジタルデータを保存し、それを後日読み込む「セーブとロード」の概念。これを口頭で説明したところで、普段コンピューターに接していない人にとっては難解な仕組みである。そもそも、デジタルデータというものを扱う機会がまったくないからだ。

遊びの中で学ぶ。日本人には近代以前からそのようなアイデンティティーがあり、しかもホビー分野が市場として成立している。幕末期に日本を訪れた外国人は、一般庶民が園芸や文学、絵画に打ち込んでいる光景を見て驚愕した。ヨーロッパでは「平民向けの娯楽産業」などというのは欠片も存在しなかったからだ。

遊びに全力を傾ける日本人のアイデンティティーは、結果として自らの国を「ゲーム大国」にしてしまった。少なくとも90年代頃まで、誰しもが目を輝かせるような家庭用ゲーム機とそのソフトを開発できる国は日本しかなかった。

が、インターネットの登場がその状況を大きく変えることになる。

経済新興国の躍進

TGSでは日本以外のアジア諸国のメーカーが存在感を示すようになった、と先述した。

その背景には「インターネットとスマートフォンの普及」が大いに関係している。経済新興国のゲームクリエイターにとって、スマホほどありがたい文明の利器はないだろう。特定のハード機器を必要とせず、オンラインを通じて世界中のスマホ所有者に直接アプローチができるからだ。SONYのスマホXperiaのブースでは、中国NetEase GamesのTPSゲーム『荒野行動』とのタイアップ企画を実施していた。この荒野行動はスマホ向けのタイトルである。普段利用しているスマホとネット環境さえあれば、いつでもどこでも楽しめる。荒野行動は、今や全世界3億人のユーザーを抱えるまでに成長した。

それに続かんとばかりに、台湾やマレーシアの企業もTGSでのブース展示に注力するようになった。これらの国々は、90年代まではファミコンの海賊版ソフトばかりを作っていた。しかし、それはもはや昔の話。低予算・少人数で開発でき、しかもそれを世界中にオンライン配信できるスマホゲームに各国メーカーが活路を見出すようになったのだ。

今後、この分野での「日本の一人勝ち」はまず起こらないだろう。

有史以来脈々と受け継がれてきた「遊びの哲学」を発揮して巨大なゲーム市場を作り上げた日本人だが、今はその市場自体が単純なものではなくなっている。

日本でもeスポーツが普及

昨年のアジア競技大会では、eスポーツがエキジビション種目ながら開催された。ゲームはもはや「スポーツ」として見なされている。

TGSでもeスポーツ関連のブースに大きな関心と注目が集まった。「日本はeゲーム後進国」と言われて久しいが、それでも世界的なeスポーツ競技会で種目採用されているタイトルは日系メーカーのものが多い。

日本国内でのeスポーツ環境の整備も、本格的に始まっている。都道府県毎の競技団体も続々発足し、それに応じてチーム数も増加している。中にはeスポーツ部を設立した高校もあるほどだ。

今後数年で、eスポーツは一競技として日本でも定着していく。これは誰にも止められない「時代の流れ」である。その影響は各方面に波及していくだろう。

筆者は、和樂Webがeスポーツの話題を特集として取り扱う日がそのうち来るのではと思案している。こんなことを編集長に言えば呆れられるかもしれないが、それだけeスポーツは巨大なコンテンツになろうとしているのだ。

世界的なキラーコンテンツと化したeスポーツの世界で、日本人の特性が発揮できないはずはない。日本文化を取り扱う和樂Webのライターとしては、今後もeスポーツについての話題を追いかけていきたいと夢描いているのだが、いかがだろうか。

書いた人

ノンフィクションライター、グラップリング選手、刀剣評論家。各メディアでテクノロジー、ガジェット、ライフハック、ナイフ評論、スタートアップビジネス等の記事を手がける。