不細工は昼寝禁止!?「春はあけぼの」だけじゃない、『枕草子』で垣間見える清少納言の痛快な視点

不細工は昼寝禁止!?「春はあけぼの」だけじゃない、『枕草子』で垣間見える清少納言の痛快な視点

日本三大随筆のひとつ『枕草子』は、今で言うところの人気ブログと、ツイッターの裏アカウントのような側面を併せ持った随筆です。心の琴線に触れる美しい描写から人の悪口までさまざまな内容が書かれていて、現代の私たちと何ら変わりない日常が描かれていることにも驚かされます。

そんな読み応え抜群な枕草子から、思わず笑ってしまうような面白い話や、裏アカウント的な腹黒さが垣間見える部分をピックアップしました。古典文学への入口として、どうぞお気軽にお読みください!

枕草子・清少納言について

『枕草子』は、『方丈記』『徒然草』と並ぶ日本三大随筆のひとつで、作者の清少納言は、中宮(天皇の奥様)定子に仕えていました。才女として有名で、年下の紫式部とはライバル関係にあったとか。

清少納言、父の清原元輔、紫式部、3人とも百人一首の歌人に選ばれています

清少納言の父は三十六歌仙の一人、清原元輔(きよはらのもとすけ)です。清少納言には娘が一人いましたが、詳しいことはよくわかっていません。

枕草子を身近に感じる部分をピックアップ!

国立国会図書館デジタルコレクションより [枕草子] 5巻. [1]

春はあけぼの。なんてエレガントに始まる枕草子ですが、平安時代や清少納言が身近に感じられる内容もたくさん書かれています。原文とともに現代語訳を掲載しますが、訳には読みやすくするための意訳も多少含まれていますので、ご了承ください。

清少納言は不細工に厳しかった

清少納言は自身の容姿にコンプレックスを持っていたと言われており、その裏返しからか、他人であっても不細工は厳しく非難していました。

第百三十四段~取り柄のないもの~

原文:取りどころなきもの。容貌憎さげに、心悪しき人。

訳:何のとりえのないもの 。見た目が不細工で、しかも性格が悪い人。

この段では、こんな率直で不愉快な発言をしてしまったことについて、「人に見られると思っていなかったから、ありのままに書いちゃった」と釈明しています。あんまり釈明になっていない上に、見られる前提で書かれていることは明白です。

第百四段~見苦しいもの~

原文:見苦しきもの。(中略)夏、昼寝して起きたるは、よき人こそ、いますこしをかしかなれ。えせ容貌は、つやめき、寝腫れて、ようせずば、頬ゆがみもしぬべし。かたみにうち見かはしたらむほどの、生けるかひなさや。

訳:見苦しいもの。夏に昼寝するのは高貴な人なら風情があるが、不細工の場合顔は脂ぎるわ、パンパンにむくんでいるわ、なんなら顔そのものが歪んですらいるようだ。不細工同士が昼寝をして互いに顔を見合わせてしまった時なんか、生きている意味すらわからないほどだ。

昼寝から起きた顔の様子がすごくリアルに描かれています。彼女の美の基準には身分の上下も関係がありました。昼寝くらい好きにさせてほしいですが、美意識の高い清少納言にとって、昼寝明けの醜い顔を晒すくらいなら「死んだ方がマシ」だそうです。

結婚・育児に関する描写


千年以上もたてば、結婚や育児の在り方も大きく変わっているのだろうと思いますが、実は現代とあまり変わらないことも多々あることが枕草子からわかります。ちなみに清少納言にも子どもがいて、一度離婚も経験しています。

第七十一段~滅多にないもの~

原文:ありがたきもの。舅にほめらるる婿。また、姑におもはるる嫁の君。

訳:滅多にないもの。舅に褒められる婿と、姑にかわいがられるお嫁さん。 

嫁姑問題は今に始まったことではなかったようですね。ここまで先祖代々受け継がれているとなると、もはや自然の摂理として諦めがつくのではないでしょうか。

第百二十段~みっともないもの~

原文:無徳なるもの。(中略)人の妻などの、すずろなるものを怨じなどして、隠れたらむを、「必ず、訪ね騒がむものぞ」と思ひたるに、さしもあらず、ねたげにもてなしたるに、さては、得旅だちゐたらねば、心と出で来たる。

訳:みっともないもの。夫の浮気に嫉妬して家出をした妻が、「今頃きっと大騒ぎして探しているに違いない」と思っていたものの、憎らしいことに夫は特に探すことなく平然としていて、いつまでも家を開けるわけには行かず自分から帰ってくること。

平安時代、夫へのあてつけに他人の家に泊まることを「旅だちてゐる」と言いました。「もう知らない!」と威勢よく出て行って友達の家に泊まったのに、夫が探しにもきてくれなかったらそれはもう気まずいですよね。平安時代は男性が複数の女性と結婚することは認められていましたが、それに対して対抗措置を講じる女性も多くいました。代表的なのは『源氏物語』の雲居雁ですね。雲居雁は夫(光源氏の息子)の浮気に怒り、実家に帰っていた期間があります。

第九十一段~イライラするもの~

原文:かたはらいたきもの。(中略)憎げなる乳子を、おのが心ちの愛しきままに、うつくしみ、かなしがり、これが声のままに、いひたる言など語りたる。

訳:イライラするもの。不細工な赤ちゃんを大事に可愛がって、その子の声真似などをして、しゃべったことを人に話している母親。

清少納言の性格の悪さが垣間見えてしまう段です。赤ちゃんのしゃべったことを真似するお母さんの姿は、今も昔もほほえましいものではないでしょうか。このような現代なら炎上しそうなことを、平気で書き連ねていました。

今と変わらぬ気まずいシーン

ついうっかり口が滑ってしまったり、わざとじゃないけれど人に不愉快な思いをさせてしまったり。そんなちょっと気まずい場面も、今の私たちと変わらないことが枕草子からわかります。

第百二十二段~気まずいこと~

原文:はしたなきもの。他人を呼ぶに、「わがぞ」とさし出でたる。物など取らするをりは、いとど。
おのづから、人のうへなどうちいひそしりたるに、幼き子どもの聞き取りて、その人のあるに、いひ出でたる。

訳:気まずいこと。他の人が呼ばれたのに、自分だと思って出て行ったこと。それが物を頂く時ならばなおさら気まずい。
人の噂話や悪口を言っているのを小さな子どもが聞いていて、それを本人がいる時に話してしまうこと。

この気まずさは、まさに今そこにいるかのようにひしひしと感じられます。また、清少納言が文章だけでなく、口頭でも人の悪口を言っていることがわかりました。

紫式部との諍いを生んだ段

清少納言は、『源氏物語』の作者紫式部の夫の悪口を書にしたためました。これが紫式部との諍いを生む原因となっています。

国立国会図書館デジタルコレクションより 紫式部物語繪卷

第百十四段~しみじみする話~

原文:衛門佐宣孝といひたる人は、(中略)紫のいと濃き指貫・白き襖・山吹のいみじうおどろおどろしきなど着て、隆光が主殿助なるには、青色の襖・紅の衣・摺りもどろかしたる水干といふ袴着せて、うちつづき詣でたりけるを、還る人も、いま詣づるも、めづらしうあやしきことに、「すべて昔よりこの山に、かかる姿の人見えざりつ」と、あさましがりしを(中略)これは、あはれなることにはあらねど、御嶽のついでなり。

訳:衛門佐宣孝(紫式部の夫)は紫と白と山吹色、その息子は青と紅とまだら模様の派手な服を着て連れだって参拝していた。みんな珍しがって「この山でこんな奇妙な格好をした人は見たことがない」と驚き呆れた。
この話は全然「しみじみと感じられる話」とは関係ないが、ついでに書いただけ。

この内容を、紫式部の夫が亡くなった後に書き残しています。紫式部はこれを読んで激怒し、清少納言本人を攻撃する日記を残しています。亡くなった夫の悪口を言われたらそれはもう悔しいはずです。紫式部本人ではなく夫の悪口を言うあたり、性格の悪さがよくわかります。「しみじみ感じる話」と関係ないならば、わざわざ書かねば良かっただけなのでは・・・と思いますが。

感性豊かな天才 清少納言

清少納言の底意地の悪さが見える部分ばかりご紹介してきましたが、枕草子に描かれたのは、もちろんそればかりではありません。豊かな感性を持つ清少納言は、鋭い視点でさまざまなものごとを観察し、まるで今その場所にいるかのような生き生きとした文章を残しています。

清少納言の感性の鋭さを感じられる部分には、「春はあけぼの」から始まる有名な冒頭文があります。「春と言えば何?」と聞かれて「夜明け」と答えられる人がどれほどいるでしょうか。春と言えば「桜」など、ありきたりなことしか思いつかない人がほとんどでしょう。

清少納言が感性豊かな天才であったことは間違いありませんが、性格の悪さが垣間見えるところに、かえって親しみも感じずにはいられません。

不細工は昼寝禁止!?「春はあけぼの」だけじゃない、『枕草子』で垣間見える清少納言の痛快な視点
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