黒紋付羽織袴姿の花婿と、艶やかな色打掛に身を包んだ花嫁。実はこのふたり、オーストラリアからはるばるウェディングセレモニーのために来日した新婚カップルなんです。
2018年に訪日外国人は初の3000万人に達し、過去最高を記録しました。そんな中で増加しているのが、旅行を兼ねて日本で結婚式を挙げるカップル。「インバウンド婚」と呼ばれ、企業や自治体からも注目を集めています。
一体、海外のカップルは日本のどこに魅力を感じ、どんなセレモニーを執り行っているのでしょうか。インバウンドウェディング専門のプランニング会社「Serendipity Flower & Wedding」のHarrison(ハリソン)さんご夫妻に、実例を交えて詳しくお話を伺いました。
依頼主はどんなカップル?インバウンド婚に見る様々な需要
Serendipity Flower & Wedding/Harrison絢子・Rossご夫妻
14年ほど前に日本で出会い国際結婚。日本人とイギリス人のプランナーチームとして、夫婦二人三脚で訪日カップルの結婚式をサポートしています。
もともとは、日本人向けの結婚式をプランニングしていたという絢子さん。2年ほど前から海外からの問い合わせが増え、年々ニーズの高まりを実感しているといいます。
ー 国別で見ると、どの国のカップルから問い合わせが多いですか?
絢今のところ、ダントツでオーストラリアです。あとは、アメリカやヨーロッパからお問い合わせを頂くこともあります。
ー 台湾や中国など、近場のアジア圏が多いと思っていたので意外でした。どうしてオーストラリアなんでしょう?
絢沖縄などのリゾート地にはアジアからのカップルが多いようですが、東京にいる私たちへの依頼は、オーストラリアからが多いです。オーストラリアでは、ゲストを300名くらい招待するのが一般的で、結婚式にお金がかかるんです。そこまで大規模な式にしたくないと、海外ウェディングを検討する中で、地理的に行きやすい日本が候補に上がってくるようです。
ー 日本の結婚式というと、やはり和テイストを希望する方が多いのでしょうか?
絢着物を着て、神社や日本庭園で式を挙げたいという方ももちろんいらっしゃいますが、一方では、ウェディングドレスを着てふたりの好きな場所で、という方も多いです。富士山が見える場所とか、桜の名所とか…それに冬の雪景色も人気ですね!
そう言って、見せてくれたのが長野県・白馬村での結婚式の写真。白銀一色に包まれた式の様子をご紹介します!
結婚式+ウィンタースポーツ! 雪は日本の最強コンテンツ
パウダースノーで有名な長野県・白馬村での結婚式。ふたりを祝福するように、式の2日前から雪が降り始めました。(画像提供:Ross Harrison)
日本の冬は、オーストラリアの夏。バカンスシーズンに、ウィンタースポーツを楽しむ場所として、日本はとても人気があります。こちらのオーストラリア人のカップルは、スノーボードをしに何度も訪れた思い出の白馬で、結婚式を挙げることに決めました。
当初は50名くらいのゲストを想定し、120名に招待状を出したところ、なんとほぼ全員が参加することに! それくらい、オーストラリア人にとって白馬は有名な場所なのです。
挙式はホテル近くの森にひっそりと佇むチャペルで。(画像提供:Ross Harrison)
収容人数の多いベストな場所として選んだのは、美しい森と山々を望めるリゾートホテル。チャペル正面、祭壇の向こうに広がる一面の雪景色は格別の美しさでした。
新郎新婦のエスコート役である「ブライズメイド」と「グルームズマン」、それに大勢のゲストが見守る中で、永遠の愛を誓ったふたり。もちろん翌日以降に、スキーやスノーボードを楽しんだのは言うまでもありません。
雪はその美しさとともに、エンターテイメントを提供するという意味で、最強のコンテンツなのではないかと、改めて考えさせられた事例でした。
エロープメント+和の文化! 求められるのはカスタマイズ力
ロケーションから衣装まで、日本らしさをギュッと詰め込んだ結婚式。(画像提供:Kohyoh Iwata)
続いてご紹介するのは、日本庭園の茶室で行ったセレモニー。オーストラリア人のカップルが、仲の良い数名の友人を招待して行ったElopement Wedding(エロープメント ウェディング)の様子です。
Elopement とは直訳すると「駆け落ち」のこと。王道にとらわれず、駆け落ちみたいにふたりきり、もしくはごく身近な人だけでセレモニーを行う挙式スタイルが、欧米を中心に人気を集めています。
バックミュージックは琴の調べ。セレモニーでは、進行役をRossさんが担当。(画像提供:Kohyoh Iwata)
このふたりは友人のために、結婚式を通して、ユニークな日本の体験を提供したいと考えました。花嫁が特にこだわったのは、日本伝統のブライダルカラーを着物に取り入れること。オーストラリアでは、花嫁が結婚式に黒を着ることはまずありません。しかし、日本では昔から白や赤と並んで黒が用いられてきたことを知り、あえて着用することに決めました。
セレモニーの後は、鏡開きで盛り上がりました。 (画像提供:Kohyoh Iwata)
鏡開きは、日本の結婚式でも人気の高い余興のひとつ。日本酒の他にも、抹茶をたてて振る舞うなど、日本の文化を味わい尽くすセレモニーとなりました。
「日本のどんな部分に興味があって、どんな体験がしたいか、それはカップルごとに大きく異なります」と絢子さん。プランナーという役割を超えて、日本文化のプレゼンター、もしくはガイドのような役割が求められていると日々感じています。
バウリニューアル+東京観光! 写真に残す甘い思い出
新宿・思い出横丁での写真撮影。結婚一周年の記念に。(画像提供:Simon Bonny)
最後にご紹介するのは、Vow Renewal(バウリニューアル)、直訳すると「誓いの更新」のセレモニー。欧米では結婚記念日や家族の節目に、お互いへの感謝を伝え、新たに愛を誓うセレモニーを行います。
こちらは結婚1周年の記念に、初めて日本を訪れたというカリフォルニア在住のカップル。日本庭園で簡単なセレモニーを行った後、繁華街に繰り出し、着物での写真撮影を楽しみました。
ニューヨーカーのおふたりは、結婚3年目。記念日に毎年違う場所で、バウリニューアルを行っています。(画像提供:Simon Bonny)
たそがれ時に始まったセレモニー。レインボーブリッチの夜景をバックに、なんてロマンチックなんでしょう! セレモニーの後は、ハリソンさん夫妻のアテンドで、オシャレな天ぷら屋さんへ。夜景を眺めながら、素敵なディナータイムを過ごしました。
インバウンドのニーズに応えることが、日本の結婚式を見直すきっかけに!
海外カップルの結婚式、エロープメントウェディング、そしてバウリニューアル。正直なところ、私自身もこんなセレモニーをしてみたいと、羨ましく思うばかりです。
今、日本国内のウェディング市場は、元気のない状態が続いています。欧米風のウェディングが定着し、オシャレで豪華な結婚式が叶うようになった一方で、似たようなプランやサービスばかりが増え、窮屈さが目立つようになったからです。結婚式を挙げないカップル、いわゆる「ナシ婚」派が増えたのも、そんな事情が関係しているように思います。
その流れを打開しようとする動きの中で、海外のカップルを呼び込むインバウンドに力を入れる企業が増えてきたのも事実です。私はこの流れを、とても好意的に受け止めています。海外カップルの要望に応える中で、日本人が自らの結婚式について見直すいいきっかけになるのではないかと思うからです。
ハリソンさんご夫妻が、海外向けに提案するセレモニーは、日本人のカップルにも参考になる部分が多いのではないでしょうか。
自然の景観は、人工的な装飾の何十倍も美しいこと。和婚は神社でなくてもできるということ。少人数、もしくはふたりきりのセレモニーにも価値があること。結婚式はもっと自由でいいということを、数々の事例が教えてくれています。最新の事例は、ぜひ「Serendipity Flower & Wedding」のホームページでチェックしてみてください!
http://wedding-in-japan.serendipity-flower.com
撮影/水鳥るみ
写真提供/Ross Harrison、Kohyoh Iwata、Simon Bonny