Culture
2019.12.23

ハワイ在住茶人おすすめの地元グルメベスト3!和食もパンケーキも間違いなし!【一期一会のハワイ便り9】

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年末年始は海外旅行に行かれる方も多いのではないでしょうか。そのなかでも最も人気のある場所といえばハワイ!
寒風吹きすさぶ日本を脱出して、空港に降り立つと、サッと頬をなでる心地よい風と光。うーん、ハワイの休暇はサイコーですよね。(実は編集者の私は、ハワイに一度も行ったことがありませんので妄想マックスです)

ハワイでのお楽しみのひとつといえば、食事かもしれません。そこで今回は、ハワイ在住のミセス茶人、オノさんがおすすめするご飯どころをご紹介します。茶人でもあるオノさんのお気に入りベスト3は、日本文化を味わえたり、歴史のあったり、地元民がこのなく愛するところばかり。ハワイにはいろんな和食処がありますが、特に懐石のこころを感じさせてくれるお店などは、茶人ならではのセレクトです。

ガイド文を読むだけで、「ココ行ってみたい!」という気持ちになれるはず。事実、ハワイ未経験者の私は「ハワイに行きたい」気持ちが沸々と……も〜行かずに死ねるか状態です。
レッツエンジョイ、ハワイのごはん! さ、行ってみましょー。

年末年始のハワイ旅行、何食べる?

文と写真/オノ・アキコ

オアフ島は12月から1月にかけて、ホノルル・マラソン、冬休み(クリスマスと正月)、ソニー・オープンとイベントが続き、一年で一番忙しくなる。

日本からの旅行者も増えるため、今回はおすすめのお食事処を3つほどご紹介したいと思う。ハワイ通の方々は、すでにご存知のお店もあるかもしれないが、どちらかというと、口コミでローカルの人が大切に思うレストランだ。

まずハワイでお茶をたしなむ自分としては、心がくすぐられる、とっておきの日本割烹料理店からご紹介したい。

東京・麻布十番の名店「山田チカラ」ホノルル店の和モダン

「Yamada Chikara 山田チカラ(やまだちから)」はアラモアナ・ショッピング・センターにほど近いピーコイ(Pikoi)通りに面していて、その独特の黒い佇まいからして「何のお店だろう?」と疑問に思う人もいるだろう。
山田チカラ」の本店は麻布十番にあり、静岡のお茶を栽培する家で生まれ育った料理研究家・プロデューサーの山田力さんが「茶懐石(ちゃかいせき)」を意識した、完全予約制のコース料理を出す独自のスタイルで経営している。その別店舗が、2018年ここハワイとニューヨークにオープンした。

有名なスペインの3つ星レストラン「エル・ブジ」で修業をした山田シェフ。彼が最も得意とするのは、「分子美食学・分子ガストロノミー」を取り入れた最先端の和食だ。斬新なアプローチで五感に呼びかける和食を、生まれ育った静岡で培ってきた「茶文化」を切り口にして提供している。創造と茶、それがひと皿ひと皿にバランスよく表れている。

東京の本店は、茶懐石(ちゃかいせき)を意識したコースのみのようだが、ハワイのお店のコンセプトは山田力の魅力を保ちつつも、本店とは少々異なる。ここハワイでは、おまかせコースのほかに、お腹の空きぐあいに合わせて好みのアラカルトも選ぶこともできる。だからお酒をいただきながらゆっくりと過ごせるのである。

茶懐石は、茶道を嗜まれたことのない方には、耳慣れない言葉かもしれない。懐石は「お茶事(おちゃじ)」という正式な茶会に出されるコース料理の呼び名である。
なぜお茶に食事が出されるようになったかといえば、濃茶(こいちゃ。一般的に知られる薄茶ではなく、ドロリとした濃いめの抹茶)を美味しくいただくためだという。「体によいけれど、少々刺激のあるお茶の前に、おなかに何か入れておきましょう」との意味合いから、懐石はお茶と深くつながってきた。
漢字で懐石を「ふところのいし」と書くのは、昔、僧侶が温めた石を懐(ふところ)に入れて空腹をいやしたところに由来があるという。

茶懐石は一汁三菜(いちじゅうさんさい)が基本。
まず最初に持ち出される膳は、一文字に盛られた白いご飯と汁、そして向こう側に向付(むこうづけ)とよばれる刺し身のセットである。

「山田チカラ」のコースでも、まずご飯と汁ものからはじまる。それが茶懐石を彷彿させるのだ。みそ汁の中のごま豆腐も自家製で大変おいしかった。


それから後の料理は茶懐石とは異なるものの、和食の基本を大切にしつつ、遊び心あるアイデアで楽しませてくれる。
たとえば、亜酸化窒素ガスによる瞬時に液体を泡状にする技術から、醤油が泡となって、見た目も美しく刺し身に添えられている。泡になった醤油はポタポタと皿に落ちることがない。口に入れたら、まさに美味しいお醤油そのものでびっくりする。
上写真の右端の食パンのように見えるものがお醤油。秘伝のだしで割ってあり、刺身によくマッチしていて食感が楽しい。

アラカルトには、魚介のパエリア、牛肉ラーメン、スパニッシュ・オムレツ、カルボナーラなど、親しみやすい料理が並んでいる。ただし、それらのメニューもひとひねりしてあるので、乞うご期待。

ホノルル「山田チカラ」のシェフ、小宮山正己(こみやままさみ)さんはハワイ在住5年の人。和食から、デザートまで何でもこなす鉄人だ。
もともと、ロサンゼルスのNobu(ノブ)の本店で長い間働いていた。トリュフを使ったアイスクリームやクリームブリュレなど、食通をうならせる新しい味に挑戦し続けて今にいたっている。あのロバート・デニーロも小宮山さんのデザートに太鼓判を押したひとりだという。
テキパキ動きながらも、ていねいな仕事ぶり。仕込みに決して手を抜かない職人肌の人だ。気さくな笑顔で対応してくれるので、カウンターにひとりで座っていても違和感なく、落ち着いて料理が楽しめる。

また、マネージャーの村上俊郎(むらかみとしろう)さんも、気配り上手の好青年で、茶釜のかかった別カウンターで美味しいお抹茶やお酒を提供してくれる。

上/カウンターのしつらいはシンプル。ここでお店の方とやりとりしながら、お食事をいただくのも楽しい。
下/別カウンター。テーブルに炉が切られていて、お茶を一服いただくこともできる。

そして、私が料理以外にこちらでもっとも印象に残った点は、本格的な炉を据えたモダンな茶室があることだった。
日本文化にご興味のある旅行者の方、ぜひ一度こちらのお店に立ち寄ってみてはいかがだろう。ハワイでいただくお抹茶も、なんとも乙(おつ)なものである。

白を基調にした茶室は、美しい和紙とガラスの壁によってやわらかい光につつまれている。清浄な雰囲気のなかで、忘れがたいお茶をいただけるだろう。

営業時間や予約はこちらからどうぞ。

「ワイオリ・キッチン・アンド・べーク・ショップ」でハワイの歴史にふれる

そして次にご紹介したいお気に入りのお店は、朝食やブランチ、ランチなどに最適な「ワイオリ・キッチン・アンド・べーク・ショップ(Waioli Kitchen and Bake Shop)」だ。

ハワイに住んでいる人には馴染みの店だが、こちらはワイキキから離れているため観光客をあまり見かけない。マノア・バレーの簡素な住宅街の中にあり、木々に囲まれている。建物はおよそ100年前と古く、文化財にも指定されている。

建物の佇まいが歴史を感じさせる。市内中心地からだと、バスを乗り継いで行かなくてはいけない郊外だが、足を運ぶ価値がある。

マネージャーのロス・アンダーソン氏に話をうかがったところ、この歴史あるティー・ハウスの起こりは1800年代後半だそうだ。

もともとハワイの島々は、長い間外の世界との交流がなかったが、欧米人との接触によって免疫のない病原菌が持ち込まれ、多くの人が次々に命を落としたという。
それゆえ孤児になったたくさんの子供たち、とくに女子は生きてゆく上で「手に職」をつける必要があった。掃除や洗濯、裁縫、簡単な料理やテーブルマナーなどを身につけたら、メイドとして、プランテーション・オーナーの家などに移り住むことができたからだ。

そして1922年に、農園主で議員でもあったジョージ・ウィルコックス氏(1839〜1933)の寄付により、彼女たちの働く場としてティー・ハウス(お茶と軽食を出す喫茶店)が建てられた。

店内に残されているプレートが創業年を示している。

こちらは第二次世界大戦時代にいったん閉鎖されてしまうが、終戦後、今度はシングル・マザーとなった女性たちを支援する寄宿舎として生まれ変わる。そして1970年代に、救世軍(サルベーション・アーミー/世界131か所で活動するプロテスタント教の団体)が買いとって、ティー・ハウスを復活させたという。

私がハワイに越してきたころは、このティー・ハウスによく足を運んだ。ワイキキやアラモアナとはまったく違う雰囲気が、何とも気持ちよいからだった。しかし約5年前、何かの事情で閉鎖。残念に思っていた去年の暮れ、救世軍のメンバーであるステファニーとロス・アンダーソン夫妻、そして彼らの子供たちによって「ワイオリ・キッチン・アンド・べークショップ」として見事に復活した。

ステファニーとロス・アンダーソン夫妻とその子供たち。白いエプロンがまぶしい。

メニューは、ブレックファーストサンドイッチやパンケーキ、アサイボウル、ブルーベリーやラズベリーのスコーン、デニッシュなど、日本人にも馴染みのある味。シンプルだが、以前より確実に美味しい。(写真提供:ワイオリ・キッチン・アンド・ベークショップ)

レストランはいつも清潔に保たれていて開放感がある。それに加えて、なにしろ経営姿勢がすばらしい。
こちらのお店は、救世軍のミッションによる社会福祉を兼ねた運営方法をとっている。ドラッグ(麻薬)やアルコール中毒から立ち直ろうと、真剣にリハビリをしている人たちや、女子の刑務所収容者を積極的にキッチンに入れて、社会復帰を手伝っているのだ。
私は何度も足を運んでいるが、食べ物の質やサービス、食事を出すタイミングも、一度も嫌な思いをしたことがない。

店主のステファニーとロスは、自分の子供たちを一緒に働かせるわけなので、ある種の覚悟がないとむずかしかっただろう。ここで修業をし、笑顔で社会復帰をした人が、この1年でも数人いると聞き、その行為に頭が下がる思いだ。

店内はどこに座っても、気持ちのよい風が通り、緑が目に優しい。大きな部屋が2つあり、ベランダもある。どのテーブルも魅力的で毎回どこに座るか真剣に迷ってしまう。

朝とお昼の合間に足を運んだら、常連さんが静かに話しながらブランチを楽しんでいた。

建物の裏手には、『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で有名なイギリス人小説家ロバート・ルイス・スティーブンソン(1850〜1894)が6か月間住んでいたといわれる小屋が移設されて静かにたたずんでいる。彼とハワイの王族との関係に想いをはせながらロコモコを食べるのも趣があるだろう。

レストランの裏にある小屋の前でたたずむ、数少ない日本人フラ・クムのマリ・ヘイズ氏。この緑の陰に、スティーブンソンが住んでいた当時を思わせる素朴な小屋がある。

あえて個人的な意見をいうなら、ここに来たらまずは、チーズ・バーガーを注文して欲しい。間違いなくオアフ島で1,2の美味しさだと思う。そして早い時間に売り切れてしまうスコーンを、バーガー注文時にしっかり買っておくと翌日の朝食もバッチリだ。

興味のある方は、こちらのサイトを要チェック。

ハワイ食材をカジュアルに楽しむ「ステージ」

最後を飾るレストランは「ステージ(Stage)」だ。
このレストランは、オアフで人気の「インスパレーション(Inspiration)」というモダンなインテリアショップの2階にある。アラモアナ近く、カピオラニ通りに面した建物外観のオレンジが目を引くので、「ああ、あそこ!」と思い出す人もいるだろう。


 

近年レストランは大きなリノベーションをして、新しいアプローチが人気を博している。
料理はパシフィックリム系で(Pacific Rim とは、環太平洋地域や諸国、太平洋周辺の地域・海域のこと。要は材料はなるべく地元ハワイの食材を使い、太平洋周辺アジア各国のテイストをミックスした料理スタイルのこと)、この土地で栽培された食材にこだわっている。日系人の多さを意識して、「茶碗蒸し」や「ふりかけ」などの単語もメニューに見られる。

しかしここで、特筆すべきは、やはりインテリアかもしれない。
東京のような都会では、モダンなインテリアは珍しくない。けれど、ハワイは何といっても田舎なのである。だから斬新なデザインの家具を扱うお店は非常に限られている。レストランにそんな雰囲気を求めること自体ノンセンスなのだ。



このステージのインテリアは、ハワイのお店のなかで特別な空気感を醸している。洒落たランプシェードが並んでいるのを見るのも新鮮であるし、わたしのような田舎者は心躍るのだ。

もちろん、食事のレベルは高いし、サービスもしっかりしている。
月に一度(最終週の火曜日)、自慢のワインやお酒とペアリングして、シェフが腕をふるうマンスリー・ワイン・オーベーション・ディナーというシステムがある。だれでも予約できるのでおすすめだ。アラカルトのメニューも悪くないが、このコース料理が食通の間で話題だ。お洒落な雰囲気が強いので、特別なディナーや女子会にはもってこいのスポットといえる。

11月のマンスリー・ワイン・オーベーション・ディナーはモダン中華だった。前菜はココナッツミルクを揚げたもの、マンドゥーに玉ねぎを甘くなる間まで炒めてレーズンやカレーで味付けをしたピュレーを添えて。

チャーシュー風味付けのラムチョップも美味!

「ステージ」は以前ランチも開いていたが、現在はディナーのみの営業になっている。「食事よりはお酒!」というアルコール好きの人たちには、レストランの手前にある「アミューズ・ワイン・バー」も人気である。おつまみも充実しているし、火曜から土曜の17時から18時までのハッピー・アワーはワイン・マシーンからのワインが半額と、とても良心的。そして、19時から21時まではライブの演奏もある。

バケーションで訪れ、思い切り体を動かした後、一杯いただくにはちょうどよい空間だと思う。

ワイン・マシーン。こちらのワインバーは、ずらりと並んだワインのサーバーへ、自らワインを取りに行くセルフシステム。グラスを用意してカードを差し込み、ボタンをワンプッシュすると、30mlのワインが注がれる仕組み。ワインの種類は、赤白合わせて7、80種近くあるだろうか。

「ステージ」レストランの詳細はこちら
  
ハワイの食文化はここ15年ほどで、ずいぶん変化し、進化した。レストランは競争が激しく、生き残りも難しい。
そんな中で、新しく産声を上げた「山田チカラ」や、長く現地の人びとに愛される「ワイオリ・ティー・アンド・ベークショップ」、そしてここ15年ほど業界に新たな風を吹き込んでいる「ステージ」。
それぞれに持ち味の異なる3つのレストランをこれからも応援したいと思う。もし、皆様の琴線にふれるお店があったなら幸いだ。ハワイにお越しの際は、是非足を延ばしてみてほしい。
 
最初から読む→常夏の島ハワイで楽しむ茶の湯とは?【一期一会のハワイ便り1】
第2回目→アロハスピリットと創意工夫で茶席を彩る【一期一会のハワイ便り2】
第3回目→ハワイの茶人のきもの事情とは?【一期一会のハワイ便り3】
第4回目→「いちごいちえ」は「1・5・1・8」【一期一会のハワイ便り4】
第5回目ロコも盆踊りに熱狂! ハワイの夏を楽しむBon Dance!【一期一会のハワイ便り5】
第6回目かわいい「茶箱」でどこでもお茶を【一期一会のハワイ便り6】
第7回目海外で和菓子をつくってみたら、いろんなことが発見できた!【一期一会のハワイ便り7】
第8回目えっ、ハワイで美術館?気持ちよさそうなんだな、これが!【一期一会のハワイ便り8】

オノ・アキコ

65年生まれ。国際基督教大学卒業後、モルガン・スタンレー・ジャパン・リミティッド証券会社を経て、ロンドンのインチボルド・スクール・オブ・デザイン校にて、アーキテクチュアル・インテリア・デザイン資格取得。2007年ハワイに移住し、現在はハワイ大学の裏千家茶道講師を務めている。ハワイでの茶の湯を中心に、年に数度は日本に里帰りをしつつ、グローバルに日本文化を楽しんでいる。

(文と写真:オノ・アキコ/構成:植田伊津子)

書いた人

茶の湯周りの日本文化全般。美大で美術史を学んだのち、茶道系出版社に勤務。20年ほどサラリーマン編集者を経てからフリーに。『和樂』他、会員制の美術雑誌など。趣味はダイエットとリバウンド、山登りと茶の湯。本人の自覚はないが、圧が強いらしい。好きな言葉は「平常心」と「おやつ食べる?」。