Culture
2020.02.21

妖艶な美女が夫の敵討ち!強盗に殺人…女海賊へと変貌し恐れられた「鬼神のお松」伝説

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野田サトルによる漫画『ゴールデンカムイ』に登場した女盗賊、蝮(まむし)のお銀。「稲妻強盗」の異名を持つ脱獄囚、坂本慶一郎と運命的な出会いを果たし、ふたりで悪事をはたらきます。この2人組強盗のモデルは、1930年代アメリカに実在した、ボニー・パーカーとクライド・バロウのカップル強盗とされていますが、お銀のモデルとなった人物は、もうひとり存在するのです。

日本三大盗賊のひとり

その人物とは、鬼神のお松(まつ)。あの石川五右衛門や自来也(じらいや)と並んで「日本三大盗賊」と呼ばれたひとりです。下の浮世絵に描かれている女性が、お松。あれっ、漫画で見覚えあるような…?

『鬼神於松四郎三郎を害す図』月岡芳年 ロサンゼルス・カウンティ美術館

鬼神のお松は、江戸時代の浮世絵や講談、小説などで描かれてきた人気キャラクター。決定的な史料はみつかっておらず、お松は実在しなかった人物とされています。

様々なメディア作品で描かれてきたお松の人生は、こんな悲しい物語でした。

鬼神のお松伝説

深川の遊女だったお松は、亡くなった父のドクロを抱いて眠るなど、妖艶な一面を持つ美女でした。その姿が評判になって、やがて「骸骨お松」の異名を持つ人気芸者になります。そんなお松にすっかり惚れた仙台藩士、立目丈五郎のアプローチがきっかけとなり、お松は彼の家に嫁ぎます。それは幸せな結婚生活でした。

ところがある日、立目は事件に巻き込まれて殺されてしまうのです。

それは、立目と同じ仙台藩士である夏目四郎三郎と、仕官を望む浪人の山木伝七郎の決闘が発端でした。この戦いで夏目が勝ったことを恨んだ山木は、仲間だった立目と他2人の男性に声をかけ、帰城する夏目を襲撃したのです。しかし、立目とひとりは返り討ちにされ、もうひとりは京都に逃げるという、散々な結果に。

夫の死にお松は大変なショックを受けましたが、すぐに復讐を決意し、夫の仇を討つため旅に出ます。しかしその道中も、決して楽なものではありませんでした。生き残ったひとりの男に助太刀を得るため、京都に向かい、ようやく男を見つけ出します。ところが、男は助平心を起こし、仲間になる条件としてお松の肉体を求めてきたのです。お松は必死に抵抗し、懐剣を振り回しました。それがたまたま胸に刺さり、男は命を落としてしまいます。

お松の中で、何かが変わった瞬間だったのでしょう。その後の旅路では、強請り(ゆすり)や強盗を重ね、お松は女盗賊へと変貌していきます。

悪事を働きながらも旅を続けた末、ついに敵の夏目を見つけ出したお松。正体を隠して旅の道中を一緒に歩き、川を渡る際に「ここを歩いて渡るのは難しいわ」と持病を訴え、夏目に背負ってもらいます。まさか背負った相手が、殺した男の妻だとは…夏目は思ってもいなかったでしょう。お松は、彼の首筋めがけて、ありったけの力で小刀を振り下ろしました。

夏目を殺し、本懐を遂げたお松。血で真っ赤に染まった川原に立ち、その後の人生の覚悟を決めたのでしょう。川を渡ろうとする男を同じような手口で殺め(あやめ)、やがて20人を超える盗賊の頭になり、手下を率いて近隣の村々を略奪して回りました。青森県十和田市の奥入瀬渓流から近い場所には「石ヶ土(しげど)」と呼ばれる岩屋があり、お松はここを拠点に、旅人から金品を奪っていた…なんて伝説も残っています。「鬼神のお松」と恐れられようになったお松ですが、その最期は、夏目の息子に敵討ちされるという、皮肉なものでした。

ダーティヒロインはこのほかにも!

江戸時代のメディア作品に登場するダーティヒロインは、お松に限ったことではありません。熊坂長範を元にした女盗賊「きられおとみ」、蛇使いの盗賊「お六」、周囲を狂わす美少女「お駒」など。その物語や設定を知れば、現代に生きる私たちも、彼女たちの虜になることまちがいなしです。今後、ひとりずつ紹介していきますので、どうぞお楽しみに。

▼いよいよ最終章に突入!漫画『ゴールデンカムイ』
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