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Culture
2022.04.02

子連れで行きたい!世界に誇る、東京上野の「国際子ども図書館」徹底解説

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東京都台東区上野にある国立国会図書館国際子ども図書館は、周辺に東京国立博物館や国立科学博物館、国立西洋美術館などの歴史的建造物が並ぶ文化の香り高いエリア。芸術を学ぶ場として最高峰とされる東京藝術大学にも近く、その一角には和樂webが運営に携わる藝大アートプラザもあり、ふらりと散策するのにも楽しいスポットとなっています。

このような文化度の高い場所にある国際子ども図書館ですが、外観も高級ホテルを思わせる瀟洒な建物で、扉を開けるや、いきなり外国人スタッフが出てきて……なんてことを想像してしまうほど、優雅な雰囲気を醸し出しています。

でもなぜ、国際子ども図書館がこのような様相となっているのでしょうか。その歴史を紐解きながら、図書館創設にかかわった人々の思いを追いかけます。

古い建物と新しい建物が融合する国際子ども図書館

1906(明治39)年に建てられた帝国図書館の建物を保存・再利用し、2000(平成12)年に国際子ども図書館は開館しました。1929(昭和4)年に増築された現在のレンガ棟は、東京都の歴史建造物に選定されており、ルネッサンス様式の貴重な外観を現存させるため、耐震構造などを現在の建築基準に合わせ、改修されました。一歩中に入れば、明治時代の建築が随所に残され、貴重な建築技術を知る場所にもなっています。この改修に参加し、2015(平成27)年に新設された全面ガラス張りの美しいアーチ棟の設計に関わったのが現代建築の雄、安藤忠雄氏です。その安藤氏は、開館記念の祝辞でこんな言葉を語っています。

国際的ゾーンである上野の森の古い建物と新しい建物が同居しているこの図書館で、老人と子どもが対話するように、本を通して「心の対話」する場所になってほしい(出典:『国際子ども図書館の窓』第3号)

建物を人間にたとえるとは建築家らしい言葉ですが、世代を越えた人々が語り合うきっかけの一つにあるのが「本」です。子どもから大人まで、誰でも自由に利用できる国際子ども図書館は、古くから伝わる昔話から、国内外の児童文学、青少年向けの児童書まで約70万点を所蔵。過去と現在、そして未来へと知をつなげる宝箱のような存在となっています。国際子ども図書館の理念にも謳われている「子どもの本は世界をつなぎ、未来を拓く!」という言葉にもその意義が表れています。

繰り返しますが、子供だけではなく「誰でも」利用できます! 授乳スペースやベビーシートなどの案内は記事の末尾をご覧ください。


建物の歴史から知る図書館創設に奔走した人々のあゆみ

国際子ども図書館の前身である帝国図書館が建てられたのは、明治時代中期。鎖国が解け、明治維新が起こり、海外からの情報が一気に流れ込み、新たな価値観が創生された時期でもありました。政府高官による海外の視察も行われる中、近代化の波が一気に押し寄せます。欧米諸国の影響もあり、一般の人々にも広く学びの機会が必要であること、それを担う役割の一つとして、図書館というシステムが重要であるとされました。

1872(明治5)年には、湯島聖堂内に、日本初の近代的図書館といえる書籍館が開設。しかしこれは、欧米諸国のナショナルライブラリーとはかけ離れた規模のものでした。当時の知識層たちは、高度な教育の場の必然性を感じており、帝国議会の建議案にも

「(前略)特リ帝國圖書館ノ設ケナキハ實に国家ノ一大闕点(欠点)ト謂フヘシ。(後略)」

と書かれ、1896(明治29)年に帝国図書館設立議案が可決され、天皇陛下勅令のもと、建設がスタートしました。明治時代にこのようなルネッサンス様式の建築が建てられたのは、ジョサイア・コンドルを師と仰いでいた文部省技官、久留正道、真水英夫らの努力によるものです。真水氏は、米国への視察で最新の設備を持つシカゴのニューベリー図書館などをモデルに原案を作成。中央に中庭があり、南側には大階段を付けたエントランスホール、地下1階から地上3階とまさに宮殿のような壮大な造りを計画していました。このことからも当時の技術者たちが、欧米に引けを取らない、東洋一の大きさを目指し、日本の文化文明を支える図書館の建設に意欲を燃やしていたことがわかります。

本好きな自分は、明治人の本に対する熱意に感涙しています。


「帝国図書館概覧」に載っていた実施計画案 国立国会図書館デジタルコレクション

帝国図書館の設立は、このような多くの人々の思いと長い年月による苦労が積み重なってできたものなのです。ただ、当時の政府が軍備を優先したなどの事情もあり、当初の予定であった建物の規模には及ばず、4分の1程の規模に縮小せざるを得ませんでした。

1906(明治39)年に帝国図書館が開館しますが、その後、工事は中断。昭和に入り、工事が再開され、1929(昭和4)年に増築されますが、予定されていた3分の1程のまま、未完の状態で現在に至ります。

レンガ棟探訪で、歴史的建造物の魅力を知る

現在、国際子ども図書館では、展覧会『上野の森をこえて図書館に行こう! 世紀をこえる煉瓦(レンガ)の棟』をレンガ棟3階の本のミュージアムで開催しています。明治時代の素晴らしい建築意匠や、帝国図書館時代の貴賓室や特別閲覧室が、現在の「世界を知るへや」や「児童書ギャラリー」として活用されるようになった歴史などを紹介しています。普段は撮影禁止の場所ですが、開催期間中は自由に撮影が可能となっています。

室内と書庫をつなぐ出入口にある「小さな神殿」を意味するエディキュールと呼ばれる木製建具

レンガといえば赤レンガを想像しますが、国際子ども図書館の外壁は、ゴマ掛けレンガというベージュ色の化粧レンガで、長い面と短い面を交互に並べるフランス積で積まれたレンガ模様の美しさが特徴的です。

建物の中に入ってみましょう。子どもの図書館というイメージとはほど遠いインテリアに圧倒されます。クラシカルなホテルの貴賓室のような雰囲気やお城のような吹き抜けの階段など、異国情緒たっぷりです。

タキシードの紳士がステキなドレスのマダムに手を貸しながら降りてきそうです。

約2000冊の本をそろえた世界を知るへやは、世界の地理、歴史、文化についての著書を閲覧できます。帝国図書館時代、貴賓室として使われていたこの部屋には、天井に漆喰の装飾がなされ荘厳な雰囲気を漂わせています。

平成の改修工事では、剥離した漆喰を修復するなど、職人の技術で当時のまま復元されています。また、床板には、美しい模様の寄木細工が使用され、伝統工芸の技も見ることができます。

レンガ棟2階の児童書ギャラリーは、明治から現代にいたるまでの児童文学史、絵本史などの資料を手に取って見ることができる展示室です。帝国図書館時代には、特別閲覧室として使用され、宮殿を思わせる漆喰の円柱が4本復元されています。

レンガ棟3階には、本のミュージアムとして、現在は児童書に関する展示会などが開催されています。帝国図書館時代には、普通閲覧室として使用されていた部屋で、開館と同時に早朝から人が押し寄せ、外で行列ができるほどだったそうです。また、当時は、男女の閲覧室が分かれているなど、現在の図書館のような誰でも気軽に本を楽しむといった様相とは大きく異なっていました。

国際子ども図書館の役割は、子どもたちの豊かな未来の創造

国際子ども図書館の設立には、少子化や子どもの読書離れといった社会的背景や児童書の専門図書館が欲しいという研究者たちの強い要望もありました。その根底の一つには、開館時に皇后陛下(現:上皇后陛下)が話された下記のお言葉の中にある「子ども文庫」の存在が大きいのです。

上皇后陛下は、日本の児童書の英訳をされるなど、子供向け図書に大変造詣の深い方でもあります。

「日本は、戦後、主に女性たちによって始められ、昭和45年以降、野火のように全国に広がった、我が国独特の『子ども文庫』の活動も大きいように思います。文庫は個人が所蔵する本と住まいの一部を近隣の子どもたちに開放する形で始められた小規模の児童図書館で、(中略)BUNKOという日本語のまま、世界からも注目を受けるところとなっています(後略)」(出典:『国際子ども図書館の窓』第1号)

現在、日本は、どんな小さな町にも図書館があり、小学校や中学校にも図書室は併設され、いつでも本が楽しめる環境にあります。その環境は当たり前ではなく、人々が長年守り、伝え続けてきた「本を読むことで得られる心の豊かさ」であり、国際子ども図書館はその象徴となっているのです。

インターネットが急速に発達した現代社会において、図書館の位置づけも少しずつ変わってきています。さらに現在のコロナ禍でオンラインへの移行を期待する声もあります。国際子ども図書館で広報を担当する坪井さんは、

当館は、かねてより電子展示会などインターネット上での情報発信を行ってきましたが、昨今のコロナ禍の影響もあり、オンラインイベントを開催したり、ウェブサイトに児童サービス関連の動画コンテンツを掲載したりするなど、より一層、インターネット上での情報発信に力を入れています。この度、レンガ棟をVR(バーチャルリアリティ)で体験できる「VRで探検!国際子ども図書館レンガ棟」を公開しました。100年以上の歴史を持つ、明治期ルネサンス様式の建物を、どこからでもご覧いただけます。もちろん、ご来館いただき、実際に漆喰装飾やシャンデリアを見ていただけると、当館により一層興味を持っていただけるのではないかとも考えています。

VRも積極活用中!いますぐ見てみたい!という方はこちらからどうぞ


と語ってくれます。100年以上の時を経て、受け継がれてきた建物と語られてきた物語、それを次世代に伝えていくために、リアルな場とバーチャルな世界でより、知識の海を広げてくれています。そして国際子ども図書館の創設の歴史は、私たちに「知りたいという好奇心を持ち続けること」「知る権利を手放さないこと」をあらためて伝えてくれているように感じました。

<画像提供>国立国会図書館国際子ども図書館

上野の森をこえて図書館へ行こう!世紀をこえる煉瓦(レンガ)の棟

開催期間:2022年3月22日(火)~5月22日(日)
開館時間:9時30分~17時
場所:国際子ども図書館 レンガ棟3階 本のミュージアム
入場料:無料
※会期が変更になる場合があります。整理券による入館制限を実施している場合があります。詳細は、「国際子ども図書館の来館サービスに関するお知らせ」をご覧ください。

国立国会図書館 国際子ども図書館

住所:東京都台東区上野公園 12-49
開館時間:9 時 30 分~17 時
休館日:月曜日、国民の祝日・休日(5月5日のこどもの日は開館)
    年末年始、第3水曜日(資料整理休館日)
毎週火曜日・木曜日14時から館内をご案内するガイドツアーも開催(要事前予約)。

公式ホームページ

小さなお子様連れの方へ

レンガ棟1階には、休憩、飲食、授乳のできるスペース(ミルク用のお湯あり)、レンガ棟1階と3階の多目的トイレには、おむつ替えに利用できるベビーシートもあります。また、トイレには、レンガ棟1階・3階、アーチ棟1階・2階のトイレに子ども用便座を設置しています。