集団で敵を蒸し殺す、世紀の大発見! 玉川大学のミツバチ研究に潜入!

集団で敵を蒸し殺す、世紀の大発見! 玉川大学のミツバチ研究に潜入!

「ミツバチが盗まれた!」。養蜂の最盛期、3月~6月を迎えて、そんな声が各地で相次いでいる。盗難の多発は2019年の豪雨災害で巣箱が流されたためのミツバチ不足が根っこに。ミツバチ不足と言えば、10年ほど前にアメリカでミツバチが巣箱から突如失踪するという謎の事件が多発した。世界的なニュースになったので記憶している人も多いだろう。

ミツバチがいなくたって私にはぜーんぜん関係ナイ、なんて言ってる人は大間違い! ミツバチの不足は養蜂家だけのピンチではなく、私たちの食卓にも影響する大ごとだ。ハチミツどころか食卓に並ぶ食品の多くを私たちは食べることができない。福岡のイチゴ「あまおう」も、山形のサクランボ「佐藤錦」も、熊本のスイカ「肥後浪漫」も……日本を代表するフルーツが店頭に並ばなくなってしまうのだ。

小さな体でせっせと働くミツバチ。彼女たち(多数を占める働き蜂がメスなので)を研究するために日本で最初に専門の研究機関を設立したのが、東京・町田市にある玉川大学だ。現在は同大の学術研究所にある、「ミツバチ科学研究センター」で研究を行っている。主任を務める、佐々木哲彦教授に話を聞いてきた。

全人教育の一環としてはじまった、玉川大学とミツバチ研究のあゆみ

玉川大学の母体である玉川学園は2019年に創立90周年を迎えた。「創立当初から、学園ではミツバチを飼っていたようです。教室での勉強だけでなく、たくさんのことを実際に体験することを大切した教育の中で、養蜂にも取り組んでいたのでしょう。戦後、新制大学に移行して設立された農学部で本格的にミツバチの研究を始めたのは、39歳の若さで教授として赴任してきた岡田一次(おかだ・いちじ)先生でした。1950年、今から70年も前のことです」と佐々木教授は説明する。

ミツバチ研究をスタートしたころの玉川大学農学部養蜂場。右側が岡田一次教授 写真提供=玉川大学

当時、アカデミックな場での昆虫研究は害虫が中心だったそう。「昆虫学の分野では、多くの研究者が農業害虫の駆除や防除を目的とした研究を行っていました。しかし、岡田先生は農薬を使って害虫を殺すより、昆虫の能力を活かす研究をしたいとの思いがあったようです」。

戦後間もない食料不足に悩む時代。特に甘味食品の需要が高く、養蜂への関心が集まっていた。ミカンやリンゴなどの果樹の栽培も復興した。そのような状況の中、花粉媒介者としてのミツバチの力を利用した果樹類の増産への挑戦から研究は始まる。研究成果は現代の農業に生きていて、ハウス栽培が主な果樹栽培で花粉交配のためにミツバチが広く活用されている。

プラムの花粉を集めるセイヨウミツバチ。集めた花粉を器用に団子状にまとめ、後脚にぶら下げて巣に持ちかえる。花粉はタンパク源として幼虫のエサなどに使われる 写真提供=佐々木哲彦氏、玉川大学

「生きるために必要な食物を花に頼り、蜜と花粉を集めるハチをハナバチと言います。ミツバチやクマバチなど、体全体が丸っこくてフサフサした毛が生えているハチです。ハナバチにとって花の蜜はエネルギー源、花粉はタンパク源です。訪花したときに体を覆う毛に花粉がつくので、花から花へと花粉を運んで交配してくれます。対して、体が細くてツルツルとしたアシナガバチやスズメバチは狩りバチで、肉食です。スズメバチはミツバチも襲います」

ちなみに、狩りバチの一部がアリ。女王蟻と雄蟻には羽があって空中で相手を見つけ交尾をし、交尾のあと女王蟻は羽を切り落として土の中に潜っていく。「よく見ると似てるでしょう。アリは羽を切り落として、地下に潜ったハチなんですよ」。

「常に愛するミツバチのために」。基礎から応用まで幅広い研究テーマに驚き!

佐々木教授の専門は分子生物学。ミツバチに備わる生命現象の分子メカニズムの解明などに日々取り組んでいる。例えばミツバチの群には女王蜂、雄蜂、働き蜂の3種類がいて、女王蜂と働き蜂がメスだ。「働き蜂からローヤルゼリーだけをもらって育つと女王蜂になるし、花粉などが混ざったエサだと働き蜂になる。持っている遺伝子はどちらも同じです。与えられるエサによって運命が変わる。そのとき、遺伝子レベルでは何が起こっているのか。ミツバチの社会性昆虫としての特徴が、どのような遺伝子の働きによって生み出されるのかに興味があります」。

佐々木哲彦教授。現在、玉川大学ミツバチ科学研究センターの9代目主任を務める

小学校の国語の読み物として、ミツバチの「8の字ダンス」を知った人もいるのではないだろうか。独特の踊りは、蜜や花粉を巣に持ち帰った働き蜂が巣の中でするダンスで、お尻をブルブルと振るわせながら8の字を描く。お尻を振るときの向きと時間で、エサのありかを仲間に伝える。洗練された見事な言語だ。高等哺乳動物以外で、このような言語を使える無脊椎動物がいるという発見は衝撃で、8の字ダンスの意味を解読したカール・フォン・フリッシュは1973年にノーベル生理学医学賞を受賞した。「ミツバチは脳研究の材料にもなり、たくさんの論文が書かれています。ミツバチは一体どのくらい頭が良いのか。ミツバチが花の色や匂いを学習するとき脳内では何か起こるのか。小さな脳からどうやって高度で社会的な行動が生み出されるのか。多くの研究者がミツバチの脳科学に取り組んでいます。基礎から応用まで幅広く研究ができるのがミツバチの魅力なのです」。

「常に愛するミツバチのために」。これが同研究センターでのミツバチ研究のモットーだ。観察と記録を地道に積み重ねた成果を次に紹介しよう。

力を合わせ、天敵を蒸し殺し! ニホンミツバチの必殺技は玉川大学での大発見

70年あまり続く玉川大学のミツバチ研究では、世界的大発見もあった。一般に養蜂には明治以降に海外から導入されたセイヨウミツバチが使われているが、日本には在来種のニホンミツバチがいる。生態はよく似ているが、ニホンミツバチはセイヨウミツバチに比べて集蜜力が低い。「また、ニホンミツバチは環境悪化や外敵による攻撃を受けた場合、住んでいる場所を捨てて逃げてしまいます。そんな性質もあって産業的な養蜂では管理しやすいセイヨウミツバチが中心になりました」と佐々木教授。

菜の花に飛んできたニホンミツバチ。セイヨウミツバチより小さく、色は黒っぽい 写真提供=佐々木哲彦氏、玉川大学

先に、スズメバチなどの狩りバチがミツバチを襲うと書いた。ミツバチにとって特に恐ろしいのはオオスズメバチ。オオスズメバチはミツバチの巣を見つけると、そこに特別なフェロモンを塗り付ける。この獲物の匂いをかぎつけた仲間が集団でやってきて襲い掛かる。

セイヨウミツバチの巣が襲われた場合には、巣を守ろうとする働き蜂が次から次へと飛び出してくる。「けれど、巨大なスズメバチにミツバチが敵うはずもなく、無残に噛み殺されてしまいます。成虫を皆殺しにしたあと、巣に残された幼虫や蛹(さなぎ)を奪い去って、自分たちの幼虫のエサにしてしまいます」。

集団でセイヨウミツバチに襲い掛かるオオスズメバチ。巣箱からでてきたミツバチを次々と噛み殺す。写真では巣箱を守るための器具が取り付けてあるが、これがなければ2~3時間で全滅してしまう 写真提供=佐々木哲彦氏、玉川大学

対して、ニホンミツバチの場合。「彼女たちはむやみに巣の外に出ません。最初にやってきたスズメバチを巧みに中におびき寄せ、入ってきたら数百匹の働き蜂が一斉に飛びかかって球のようになって取り囲む。これを蜂球(ほうきゅう)といいます。そして、皆で筋肉を震わせて熱を出す。蜂球の中の温度は46度ぐらいに上がり、30分ほどでスズメバチは耐えられずに死にます。ニホンミツバチは自身が耐えられるギリギリまで発熱し、天敵を蒸し殺してしまうのです。最初の偵察係を退治するので、集団攻撃を受けずに済みます」。

身を挺して天敵のスズメバチをやっつける、ニホンミツバチの熱殺蜂球。スズメバチは黄色い頭だけが見える 写真提供=小野正人氏、玉川大学

「熱殺蜂球(ねっさつほうきゅう)」として知られる、ニホンミツバチの集団防衛を世界で最初に発見したのが玉川大学の小野正人教授だ。1980年代のことだった。スズメバチが死に到る温度が45度なのに対して、ニホンミツバチは50度近くでも生存できることを利用した戦法だ。ラグビーでスクラムを組むような闘いは、まさに、One for All, All for One! ひとり(一匹)はみんなのために、みんなは一つの目的(巣を守る)のために、を小さなミツバチたちは実践しているのだ。

さらに近年研究は進み、熱殺蜂球に一度参加するとニホンミツバチの寿命は縮んでしまい、次に蜂球を作って敵と闘うときは、すでに寿命を縮めたものがより危険な中心部のポジションを取ることも判明している。献身的な働き蜂たち。その姿に感動せずにはいられない!

ご覧の通り蜂球内の温度は47度を超えている。手のひらに載せていることからもニホンミツバチはスズメバチへの攻撃に針を使っていないことがわかる 写真提供=小野正人氏、玉川大学

学園で、地域で、愛される玉川のハチミツプロダクト

研究に携わる教員や学生ばかりでなく、玉川学園では広くミツバチ研究を活用している。幼稚部や小学1年生~4年生対象のサマースクール、中学3年生~高校3年生のスーパーサイエンススクールの授業でミツバチを観察したり、ハチミツを採取したりと、ミツバチに親しめる環境が学園にはある。

さらに、玉川大学農学部生産加工室および玉川大学ミツバチ科学研究センター監修によるアイスクリーム、ハチミツなど、さまざまな製品を開発。購買部で人気のハチミツは農学部を卒業した養蜂家などが生産、製造に関わっていて、一番人気は定番のアカシアの蜜。次いで百花蜜(ひゃっかみつ)もファンが多い。その他、珍しいところではフルーティな味わいが病みつきになるケンポナシという希少な蜜もある。

ハチミツをそのまま固めた「ハニードロップレット」はパッケージを芸術学部メディア・デザイン学科の学生がデザイン。ミルクとハチミツのハーモニーがたまらない「たまがわハニーアイスクリーム」、ニホンミツバチの蜜を使用した「たまがわハニーアイスクリーム プレミアムバニラ」と玉川大学の特産品などオリジナル商品は、ウェブストアでも販売しているからトライしてみて!

「たまがわはちみつ」は大学のある地域の人たちにも大人気。写真の百花蜜のほかアカシア、ケンポナシなどがある。山梨県では耕作放棄地を活用した養蜂にも取り組み、「お花畑の百花蜜」として販売
左)「ハニードロップレット」。味は定番のアカシア、シナノキに加え、栗の香りがする初夏の百花の3種類。6粒入り 380円(税込) 右)1970年に農学部の学生有志が生み出した「初代ハニーアイスクリーム復刻版」(ブルーのパッケージ)は2020年3月30日までの期間限定発売。「たまがわハニーアイスクリーム」は姉妹品を含め全5種類。120ml 260円(税込)、原料にこだわった「たまがわハニーアイスクリーム プレミアムバニラ」は120ml 360円(税込)

ニホンミツバチ豆知識

セイヨウミツバチは養蜂家に守ってもらわないとオオスズメバチがいる日本の自然の中では生きていくことができない。だから、野生で生きているのはニホンミツバチだ。スズメバチとの闘い方のほかにも、ニホンミツバチはセイヨウミツバチにはない特徴をもっている。

例えば、金稜辺(キンリョウヘン)という中国原産の蘭に引き寄せられてしまうのがニホンミツバチだ。金稜辺は彼女たちにとって蜜源にも花粉源にもならない。しかし、大挙してこの花に集結してしまう。秘密は金稜辺が放つ匂い。ニホンミツバチの集合フェロモンのような匂いを出しているからだ。ミツバチにとっては金稜辺に集まるメリットはない一方で、金稜辺は受粉を手伝ってもらえる。つまり、花がミツバチを匂いで騙して利用している。金稜辺を使えば、ニホンミツバチの群を呼び寄せることができる。

春はミツバチの繁殖の季節。蜂の数がどんどん増えて、やがて新女王蜂が育てられる。働き蜂の数が充分に増えると、分蜂といって先代の女王蜂が半分ぐらいの働き蜂を引き連れて引越しをする。春に突然、街中に大量のミツバチの群が出没してニュースになるのは、この引越し途中の分蜂群だ。金稜辺でニホンミツバチの分蜂群を捕らえて、趣味の養蜂を楽しむ人も多い。

「この香り、好き~」と金稜辺に誘われて集まってきたニホンミツバチ 写真提供=佐々木哲彦氏、玉川大学

玉川大学ミツバチ科学研究センター 基本情報

住所:町田市玉川学園6-1-1
公式サイト

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