水戸黄門がプロデュース!小石川後楽園は日中合作の日本庭園だった!【東京】

水戸黄門がプロデュース!小石川後楽園は日中合作の日本庭園だった!【東京】

目次

日常にちょっと疲れたとき、あるいはモヤモヤした気持ちを抱えたとき、私はよく日本庭園を訪ねます。都心にいても、ひとたび門をくぐれば、そこは別世界。コケや、松や、池を眺めるうちに、ときどきハッと目を奪われる風景に出会うことがあります。岩の隙間を流れる水が、自分の小さな悩みを、洗い流してくれる気がします。そうして、色々な庭園に足を運ぶ度に、「庭園ごとの違いや、その楽しみ方をもっと具体的に知りたい」という欲も出てきます。

しかし、ここからが難しい!

日本庭園には、人の心を動かす何か特別な「仕掛け」がある。そのこと自体は分かっても、実際にどういう仕掛けなのか、今ひとつピンとこないのです。聞き慣れない専門用語の壁に、素人には奥深すぎる造園の歴史や変遷…。
ここはひとつ、庭園研究のプロに教えを請うほかないと、私は「東京農業大学」を訪ねることにしました。教えてくださるのは、約30年に渡り日本庭園を研究している服部 勉(はっとり つとむ)教授。十年ぶりに大学生に戻った気持ちで、私は研究室のドアをノックしました。

庭園をどこから見るかで、楽しみ方が変わる!

笑顔で出迎えてくれた教授を前に、ホッと一安心。子どもみたいな質問で恐縮とは思いつつ、聞いてみました。日本庭園をもっと上手に鑑賞するには、どうしたらいいでしょうか?

日本庭園には様々な形式があり、難しいと感じるかもしれません。しかし、“庭園をどこから見るか”という視点に立つと、たったの2パターンしかないんです。学生に教えるときは「定視(ていし)式」「回遊(かいゆう)式」と呼んだりしますが、もっと分かりやすく言えば、「絵のタイプ」「映画のタイプ」かということです。

どんな専門用語が飛び出してくるかとビクビクしていた私は、思わず拍子抜け。映画に絵画、どちらも大好きですが、一体どういうことでしょう? 実際に歩いて確かめるべく、大名庭園、茶庭、枯山水などいろいろな種類の庭を訪ねてみることにしました。

庭園鑑賞のコツ①:大名庭園は「名所」や「理想郷」を見立てて愛でる! 〜小石川後楽園の場合〜

最初に行ってみたのは、東京ドームの近くにある回遊式の大名庭園「小石川後楽園」。服部教授いわく、その風景にはドラマチックなストーリーが秘められており、まさに映画のように鑑賞するのにぴったりとのこと。

ところで、みなさんは映画を見に行くとき、事前にどんな情報をチェックしますか。私の場合は、予告編や主演の俳優に加えて、プロデューサーなどの制作陣が誰なのかとても気になります。似たようなストーリーでも、制作スタッフが違えば、全く違う作品になるからです。


小石川後楽園の造園に携わった重要人物。左から順に「徳川頼房(とくがわ よりふさ)」、「徳川光圀(とくがわ みつくに)」、「朱舜水(しゅしゅんすい)」。

教授によれば、似たようなことが日本庭園にも当てはまります。造園にあたり、プロデューサー兼監督的な役割を果たしたのは、水戸藩2代藩主・徳川光圀(みとみつくに)。通称、水戸黄門の名で良く知られる人物です。

さらにもうひとり、助監督のポジションにいたのが、朱舜水(しゅしゅんすい)。中国(明朝)から亡命した彼を、光圀が敬愛の念を込めて迎え入れたことで、後楽園には中国の風景や様式が色濃く取り入れられています。そんな日中合作の超大作映画にも似た後楽園、続いてはそのストーリーに注目してみましょう。

まずはスタート地点へ。事前に受付で、園内マップを手に入れてください。もちろん、この庭園は回遊式ですから、どこからスタートしても一周ぐるりと巡ることができます。ですが、映画のように庭園をより深く味わうためには、途中からではなく、最初から見るのがおすすめ。マップに「唐門跡(からもんあと)」と書かれた場所が、この庭園のスタート地点です。


スタート地点からは、水の音が聞こえるのみ。最初は音だけで楽しませ、その後で目を楽しませる粋な演出。

東京ドームを背に、延段(のべだん)と呼ばれる石畳の道を歩き始めると、あたりは鬱蒼として、なんだか暗い雰囲気。マップには「寝覚(ねざめ)滝」「木曽(きそ)川」という名前が書かれています。この名前にこそ、とても重要な意味があると教授が説明してくれました。

この場所は、緑豊かな木曽の山に分け入っていくイメージで造られています。木曽川の激流が作り出した渓流美で知られる「寝覚の床」を、「滝」で表現しているんです。木曽の街道は、ここと同じ石畳の道なんですよ。

石や樹木などの自然を、名所や名山に「見立てる」この技法を「縮景(しゅっけい)」と呼びます。かつての木曽路は、京と江戸を結ぶ五街道のひとつ。参勤交代の大名や、行商人の通り道でした。道すがら彼らが眺めたであろう景色を、この庭で見られるとはなんとも不思議な感覚。木々の香りに水の音、そよぐ風など、まるで4Dシアターにいるかのような臨場感を楽しむことができます。


庭園内の川や山などの「地名」と「植栽」の関係に注目すると、深いつながりが見えてきます。

坂道を下ると、やがて水の音は聞こえなくなり、あたりが明るくなり始めます。このような変化は、シーンが切り替わる合図とのこと。再びマップを見ると、「竜田川(たつたがわ)」と書かれています。

ここからは和歌の世界です。百人一首にも登場する竜田川は、紅葉の名所。頭上のもみじは、秋になると真っ赤に色づいて、美しい景色を見せてくれます。

「ちはやぶる神代(かみよ)もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは」
(大意:こんなことは聞いたことがない。竜田川が一面の紅葉で紅く染められるなんて)

これは竜田川を詠んだ有名な歌のひとつで、詠み人は在原業平(ありわらのなりひら)。かつては恋仲、後に人妻になってしまった女性への恋心を、真っ赤なもみじに例えました。こんな風に、昔の歌人の揺れ動く心に触れることができるのも、この庭園の魅力のひとつです。


薄暗い木曽路の先には、大きく開けた明るい景色。明暗や高低に差をつけ、期待をふくらませる工夫がなされています。

右手に大きく広がるのは、「大泉水(だいせんすい)」と呼ばれる池。池に浮かぶ島には、「蓬莱島(ほうらいじま)」という名前がついています。

蓬莱島という名から考えると、池が海を見立てていることがわかります。蓬莱島とは、古来中国で不老不死の仙人が住むとされた東海中の島のこと。人々の憧れの場所であり、ユートピアでした。

長野の木曽から、奈良の竜田川、そして夢の島である蓬莱島。わずか数百メートルの距離に、こんなにも多くの景勝地や、そこにまつわるストーリーが展開されているとは、想像もしていませんでした。
この後も、池の周りを囲むように道は続いていくのですが…。続きはみなさんの目や耳で楽しんでいただけるよう、私からの予告編はこれくらいにしておきましょう。

庭園鑑賞のコツ②:茶の湯の精神が凝縮された「茶庭」で、作り手の意図を感じ取る! ~徳水亭茶室の場合~

小石川後楽園は、なかなかに長編大作級の庭でした。しかし中には、長編映画より短編のほうがお好きな方もいらっしゃるかもしれません。教授によれば、そんな方におすすめなのが「茶庭(ちゃにわ)」、別名「露地(ろじ)」という庭です。

そこで、次に行ってみたのが東京・板橋区にある「徳水亭茶室」。「水車公園」内に設けられた静かな庭園です。


東京・板橋区にある「徳水亭茶室」の裏路地からの眺め。茶庭は細く、長く、奥へと誘う仕掛けがあります。

露地は「市中の山居(しちゅうのさんきょ)」を理想とした庭で、茶の湯のために造られました。人が茶室まで歩む道という意味で、「路地」と書かれることもあります。都市の中にありながら、里山のような雰囲気をいかに醸し出すか、工夫が凝らされています。


心身を清めるための「蹲(つくばい)」という手水鉢(ちょうずばち)。

茶庭は大名庭園などに比べ距離こそ短いものの、そこにもちゃんと、人の心を動かすストーリー性があるのだとか。植栽や門などを巧みに使ってシーンを切り替えたり、奥行きを出したり、続きが気になるような仕掛けが沢山用意されています。

これは私の解釈ですが、人の視線を意図的に誘導する工夫もあると感じます。例えば、手水鉢を前に人はつくばう、つまり身をかがめて水に触れます。この動作が加わることで、立って歩いていた人の目線が、グッと下ります。水の音をより近くに感じ、周辺の植栽にも目が向きます。これもまた、自然を感じさせる手段だったのではないかと思うのです。

露地を行き茶室へと進めば、そこには茶道具に加え、掛け軸や生花などの演出が。茶庭や茶室の構造を知れば、おのずと「茶の湯の精神」についての理解を深めることもできます。詳しくは、ぜひこちらの記事をご覧ください。

庭園鑑賞のコツ③:枯山水では、季節や時間による「変化」を楽しむ!~建仁寺の場合~

ここまで、小石川後楽園(大名庭園)、徳水亭(茶庭)と大小2つの庭園を見てきました。最後に定視式庭園の代表格として建仁寺の枯山水を紹介します。定視とは庭園を見る人の視点が、移動せずに定まっていること。じっくりと一枚の「絵」を見る感覚で楽しむ庭園です。


京都最古の禅宗寺院・建仁寺(けんにんじ)の枯山水。

どういうわけか、私はこの庭を何度見ても見飽きることがありません。学生時代は苔の美しさに惹かれ、今は砂紋のうねりや渦に心惹かれるのを感じます。

時間の流れや、それにともなう変化を感じるのも庭の楽しみのひとつです。過去に一度、枯山水のある寺院に泊まらせてもらったことがあります。夜、その庭を見て驚きました。砂紋が月明かりでチラチラと輝いて、昼とは全く違う世界が広がっていたんです。時間の変化や、季節の変化、それに心境の変化が加われば、同じ庭を繰り返し見たとしても、感じ方が変わってくるでしょう。日本庭園は変わらないことよりもむしろ、変わることを良しとしているように私は思います。

まずは一歩踏み出して、自分の好きな庭園を探しに行きましょう!

今回の取材を通して、日本庭園は長い歴史の中で生み出された“最高のエンターテインメント”であることがよく分かりました。庭はいつも変わらずそこにあるようにみえますが、実際は見る側の変化にあわせて、色々な表情を見せてくれているのです。映画や絵画と同じように、誰もが自由に鑑賞でき、同時に批評家にもなることができます。

次の休日はぜひとも、お近くの日本庭園へ! その奥深き世界に、一歩足を踏み出してみてください。庭園を巡るときは、こちらの「日本庭園の基礎知識30」の記事を参考に。「見立て」の面白さに気づき、秘められた「ストーリー」を解き明かす一助になれば嬉しく思います。

取材協力/東京農業大学 造園科学科
撮影/水鳥るみ

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