夏の「土用の丑の日(どようのうしのひ)」にうなぎを食べることが常識のようになっていますが、なぜうなぎを食べるのか?いつからうなぎを食べるようになったのか?ご存知ですか?この記事では「土用の丑の日」の由来や食べる前に知っておきたい基礎知識、「土用の丑の日」とうなぎの関係、土用の期間の過ごし方などを解説します。
2024年の「土用の丑の日」はいつ?
2024年(令和6年)の「土用の丑の日」は以下の通り。夏だけではありません!
冬…1月26日(金)
春…4月16日(火)、4月28日(日)
夏…7月24日(水)、8月5日(月)
秋…10月31日(木)
ちなみに土用の期間のなかで「土用の丑の日」が二度ある場合、「一の丑」、「二の丑」と呼びます。
「土用」って何?
土用とは「土旺(王)用事(どおうようじ)」の略。立春(2月4日ごろ)、立夏(5月5日ごろ)、立秋(8月7日ごろ)、立冬(11月7日ごろ)の前18日間のことをいいます。
土用は夏にしかないと思われがちですが、年に4回、各季節にあります。
「土用」の由来は陰陽五行説
暦に関することのルーツは、やはり中国にありました。その昔、紀元前770年ごろの古代中国の春秋時代の陰陽五行説では、万物は「木・火・土・金・水」の5種類の元素に成り立つという思想から、五行を、春・夏・秋・冬の四季それぞれに割りあてていました。
しかし春を「木」、夏を「火」、秋を「金」、冬を「水」と割りあてると、陰陽五行説の「土」がどこにも分類されないことになってしまいます。そこで、季節の変わり目である立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間に「土」をあてはめ、それぞれ「土用」と呼ぶようになったのです。
「土用」にまつわる禁忌!?
土用の期間は、土をつかさどる「土公神(どくじん)」という神様が土の中を支配するといわれていて、土用の18日間は「土いじり」、「草むしり」などの園芸作業や「増改築」など、土を掘り返してはいけないとされています。
ですが、土用期間でも土をいじっていい日があります。それは「間日(まび)」といわれる日。この日は土公神が文殊菩薩(もんじゅぼさつ)に招かれ天上に行き、地上にいなくなるからだそうです。
このような禁忌が生まれた背景には、土用は季節の変わり目で体調を崩しやすい時期だったことが考えられます。医学が発達していなかった昔の人にとって、体調不良は大病を招きかねないことから、土用の期間は普段以上に注意し落ちついて過ごすことをすすめたのでしょう。
「土用の丑の日」とは?
「土用の丑の日」とは、土用の期間中におとずれる丑の日のこと。昔の暦では十二支で日にちを数えていたので、「丑年」が12年周期で回ってくるのと同様に「丑の日」も12日ごとにあります。
「土用の丑の日」は年に何回もあり、夏の「土用の丑の日」はだいたい7月20日ごろから8月6日ごろ(今年は7月27日で毎年異なる)。
うなぎのかば焼きを食べ、灸(きゅう)を据える風習がありますが、寒中の丑の日には、女性の口中の荒れを防ぐのに効果があるといわれている「丑紅(うしべに)」を買う風習がありました。
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夏の「土用の丑の日」のうなぎは平賀源内のアイディア?!
「土用の丑の日」にうなぎを食べるのは、江戸時代に本草学、地質学者、発明などあらゆる分野で才能を発揮した平賀源内(ひらがげんない)が推奨したという説があります。
うなぎの旬は本来は秋から冬。産卵前の脂を蓄えた、味が濃くこってりしている旬のうなぎに対して、夏のうなぎは人気がありませんでした。そこで、うなぎ屋が知恵者で有名な平賀源内に相談したところ、「丑の日だから『う』のつくものを食べると縁起がいい」という語呂合わせを源内が発案。それにしたがって、うなぎ屋は「本日土用丑の日」という張り紙を店の前に張り出したら大繁盛!
それ以来、「土用の丑の日」にはうなぎを食べる風習が根付いたといわれています(諸説あり)。
厳しい暑さに耐えるためにうなぎを食べた!?
源内の知恵によって、夏の土用のうなぎは広く知られるようになったのですが、うなぎはそれ以前から“精”がつく食材として知られていました。
うなぎが日本古来のスタミナ食材であり、その効果が確かにあったからこそ、うなぎは夏の土用に欠かせない食材となったのです。
「万葉集」にうなぎを詠んだ歌があった!
万葉集に、「石麻呂にわれもの申す夏痩せに良しといふものぞ鰻(むなぎ)とり食(め)せ」という歌があります。これは、大伴家持(おおとものやかもち)が吉田連老(よしだのむらじのおゆ)におくったもので、奈良時代にはすでに、夏バテ防止には栄養満点のうなぎが効くことが知られていたのです!
まんがで読む 万葉集・古今和歌集・新古今和歌集 (学研まんが 日本の古典)
「土用の丑の日」に食べるのは、うなぎだけじゃない!
「土用の丑の日」に食べるものはうなぎだけではありません。うなぎに限らず「う」のつく食べ物を食べる習慣もあります。暑さや季節の変わり目で体調が整わない時期こそ、胃に優しい「うどん」や「瓜」、「梅干し」。精がつく「牛」や「馬」などが選ばれているそうです。
最後に、絶滅の危機を迎えているうなぎについて
近年うなぎが絶滅の危機に瀕しています。
2013年に、環境省がニホンウナギを絶滅危惧種に指定。その翌年には、国際自然保護連合(IUCN)もニホンウナギ(アメリカウナギも)を絶滅危惧種に指定。絶滅危惧種IB類といわれる「近い将来における野生の絶滅の危険性が高い種」に選定されています。
1970年代ごろからうなぎの漁獲量が減少していて、個体数も同様に減少し続け、市場でのうなぎの取引量はここ15年で半分以下に減少。取引価格は3倍以上値上がりしています。
そんなうなぎを守るために、国内外でうなぎの資源管理に関する取り組みが推進され、国内企業では食品ロスの削減、代替え品の販売などの取り組みが実施されています。
養殖の研究も進み、最近では人工ふ化させたうなぎの稚魚を成魚まで育てる実験に成功。完全養殖へ前進しています。(2019年6月10日時点 参照:日本経済新聞)
うなぎは食文化のひとつ。「土用の丑の日」にはうなぎを食べるというだけでなく、限りある資源を次世代へ継承することを改めて考えてみるのもいいかもしれません。
参照
水産庁「うなぎをめぐる現状と対策(2019年5月)」
消費者庁「限りある資源を大切に、食品ロスからうなぎを守る取り組み」