ボンドストリートのハイジュエラー
—— 英王室とのつながりも深いロンドン発のハイジュエラーとして人気の高い「デヴィッド モリス」ですが、パリやNYとは異なる、「ボンドストリートのジュエラー」としての個性はどこにあるとお考えですか?
セシリー・モリス氏(以下、モリス) 王室文化が息づくロンドンは、パリやNYとは異なるクラシカルな空気があり、中でもボンドストリートは歴史ある建物が今も残る特別な場所で、「世界一地価が高い通り」とも言われています。この場所に拠点を置く「デヴィッド モリス」は、ロンドンの人々はもとより、ビヨンセやリアーナなどのセレブリティにも愛されてきました。王室に関連するところでは、ウィリアム皇太子とキャサリン妃の結婚式で使われたアストン・マーチンの特別エンブレム(写真下)なども手掛けています。

ボンドストリートにはさまざまなハイブランドが立ち並びますが、多くのブランドが大手グループの傘下に入る中で、私たちはこれまで3代にわたり、一貫して「家族経営のジュエラー」として店を構えてきました。アトリエ自体もボンドストリートにあり、ハイジュエリーはすべてここでデザインし、手作業で制作しています。150年以上変わらないイギリスを代表する歴史的建造物の中で、そこからさまざまなデザインを生み出してきたこと自体が、他のブランドとは異なる私たちの個性であり特徴でもあると考えています。

——「デヴィッド モリス」のジュエリーにも高度な技巧が随所に見られますが、その技術を未来へ継承するために特に重視されていることは何でしょうか?
モリス 職人技は私たちのブランドの核心であり、非常に大切にしている部分です。30年以上勤めている職人もおり、その職人の息子が、最近入社してくれました。現在、父と息子のふたりで技術を受け継ぎながら働いています。

一方で、伝統的な技法や技術だけではなく、3DプリンターやCAD、レーザー加工といった最新技術も積極的に組み合わせています。特に3Dプリンターはお客様一人ひとりに合わせた調整を迅速に可能にするという点で、独自のデザインやサービス展開を可能にすると考えています。

自身が手掛けたデザインもラインナップに
——セシリーさんご自身もデザインに関わっているそうですね。
モリス はい。父が受け継いだこのブランドに入社し、私も最初の10年間は店舗のフロントからバックオフィスまで全ての業務を経験しました。本格的に経営に参画したのはこの1年ほどですが、一方で、私自身がクリエイターとしてデザインしたいビジョンやイメージもあり、新コレクション「Triolette」を2025年10月に発表しました。クリエイターとしての表現と、経営者としての実現性、その両方を成立させた作品だと考えています。

父のジェレミーは「自分の名前を商品に入れたことなどない」と言っていましたが、私は「女性が活躍する時代の象徴にしたい」と考え、「By Cecily Morris」を名前に入れることを決めました。「Triolette」は現在はロンドンでしか展開していませんが、近く日本でも手にとっていただけるように準備を進めています。
——Trioletteの中でも、セシリーさんがインスタグラムで着用していた3連リングがとてもチャーミングで美しかったです。
モリス ありがとうございます。私のインスタグラムでもリアクションが大きくて嬉しく感じていたのですが、ご覧いただいた3連リングも技巧は高度なものである一方で、見た目には優しく日常的に使えるデザインを目指しました。
価格帯としても、ファインジュエリーのラインナップとは異なるシリーズとしており、日常づかいしてもらえることを念頭に置いています。けれど、18Kゴールドとダイヤを用いているので、華やかさを失わないバランスを取っています。
日本展開の理由とインスピレーション
——ブランドとして急成長を続ける中で、特に今回はアジア初の出店場所として日本の大阪を選ばれました。どのような戦略があるのでしょうか。また、今回の来日で、印象に残ったものはありましたか?

モリス 先ほどもふれたように、「デヴィッド モリス」はファミリービジネスによるブランドです。世界各地に急拡大していくよりも、私たちの大切にするフィロソフィーやバックグラウンドをしっかり理解してくださるお客様にまずは届けていきたいと考えています。
その中で、私自身が日本の漫画やアニメなどの影響を受けてきた部分も大きいのですが、やはり日本は繊細な美意識を持つ方が多いと感じてきました。また日本の皇室と英国王室とのつながりも深く、伝統的なデザインを長く愛して使い続けてくださるお客様にぜひ私たちのクリエイションを知ってもらいたいという期待もあります。
私個人にとっては今回が10年ぶり3回目の訪日だったのですが、漆芸に感銘を受けました。出店する大阪高島屋でちょうど開催されていた展示があり、非常に精巧な漆作品の数々を拝見して、その繊細な仕上げに強く刺激を受けました。どれほどの時間をかけてこれをつくったのだろうと。日本は私たちのデザインにも常にインスピレーションを与えてくれる存在です。
今後は、日本におけるパートナー企業とも連携を深め、各地で私たちのハイジュエリーをお見せする機会を設ける予定です。そこでは新作だけではなく、ブランドの歴史やフィロソフィーも併せて知っていただけると嬉しいなと思います。日本ではまだ知名度が高くないかもしれませんが、ぜひ日本の方々にも「デヴィッド モリス」の世界観に触れていただければ幸いです。

(Photos by Masaki Nakanishi/中西 真基)

