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2018.11.29

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

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伊藤若冲の彩色画というと「動植綵絵」のように絵絹に描いたものがほとんど。しかし和樂webでは、金地の作としては、ほぼ唯一の大作「仙人掌群鶏図障壁画」に注目! 本作は、紙に総金箔を施した上に岩絵具で彩色された希少な作品です。ほかにも障壁画は手がけていますが、金地が珍しいことと、慣れていないであろう画材にもかかわらず超絶技巧をいかんなく発揮しているところに名作たる所以があるのです。

超絶技巧を駆使した大画面の彩色画「仙人掌群鶏図障壁画」

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る伊藤若冲「仙人掌群鶏図障壁画」重要文化財 襖六面 紙本金地着色 各177.2×92.2㎝ 江戸時代・天明8(1788)年 西福寺

「仙人掌群鶏図障壁画」を所蔵するのは、大阪府豊中市にある浄土真宗の西福寺。本堂の仏間の左右に3枚ずつはめられていて、右の3面には3羽の雄鶏と2羽の雌鶏、左には同じく3羽の雄鶏と2羽の雌鶏と7羽のひよこが描かれています。

寺伝によると、西福寺の檀家である薬種問屋の吉野家が若冲に依頼したもので、いちばん右の襖の右上には、若冲75歳の作という署名がなされています。それはちょうど、京都を襲った天明の大火で焼け出された若冲が大坂に居を移したころ。

なぜ、不慣れな金碧画に挑んだのか

そこには、真宗寺院の定式に従ったという可能性や、吉野家のオーダーであったことが考えられますが、真相は定かではありません。

重厚な金地に、サボテンと鶏を組み合わせて大胆に描き上げたことによって、鶏はよりいっそうデフォルメが進み、高いデザイン性まで打ち出されています。

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

また、緑のサボテンと青の岩のコントラストもユニークで、エキゾチックな世界が展開されています。さらに、これまで描いたことがなかったひよこが描かれているのも、この襖絵が初めてのこと。

これらの新たなチャレンジによって、若冲はみずからの画風を見つめ直し、さらに発展させることにつながったのです。

若冲の彩色超絶技巧がわかる5つのポイント

1.横一線の鶏に大小をつけて、遠近感を強調した「構図」

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

障壁画という大画面は、折った状態で立てる屛風と違って奥行きを出しにくいという難しさがあります。若冲はそのハードルを逆手にとって、鶏の足の部分が横一線になるように構成しながら、大きさに違いをつけることによって不思議な遠近感を生み出しています。しかも、左右のサボテン以外の背景はすべて金地なので、想像の余地を広げるという効果も発揮。シンプルにして奥行きのある構図は、若冲のアイディアの賜物です。

2.ありえないポーズなのに、嘘っぽくない絶妙な「デフォルメ」

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

若いころから鶏の写生を好んで行っていた若冲にとって、鶏は最も身近で得意とする画題です。「動植綵絵」の写実性にくらべると、この襖絵の鶏は特徴的な動きが強調され、絵としての面白さが増しています。このような表現方法をとったのは、金地に負けない存在感を鶏に与えるためだと考えられます。この作品を経たことで若冲は画題を自在にデフォルメする傾向が強くなり、より新しい世界をつくり上げていくことになりました。

3.深く鮮やかな「色調」は高価な岩絵具の賜物!

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

時を経ても決して色褪せることなく、いつまでも制作当時の鮮やかさを保ち続けているのが若冲の彩色画に共通した特徴です。それは、生家が裕福な青物問屋であったことに由来します。ですが、大火から逃れて訪れた大坂の地では不自由が少なくなかったとか。それでもなお、これほどの色彩を実現できたのは、依頼主の豊富な予算によるものだと考えられます。若冲の彩色画に共通する鮮やかな色合いが、金碧画でよりいっそう強く感じられます。

4.ありのままを超えたありえない「リアル」

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

もはやお手のものの鶏と、長崎・出島にもたらされた博物誌などを参考にして描かれたと思われるウチワサボテンと青い岩。ひとつひとつを見るとリアルな描写に見えるのに、金地の上で組み合わせると、リアルを超えた若冲ならではの世界をつくり上げています。そこにこの絵の面白さがあります。当時の絵師は写生したものを頭の中で再構築して描いていたといいますが、ここまで大胆な試みをしたところが若冲の特性です。

5.ド迫力の鶏をバランスよく描く「空間処理」

若冲の超絶技巧がてんこ盛り! 希少な彩色画から“美の秘密”を探る

襖いっぱいに描かれた鶏は、両足を踏ん張り、威風堂々とした姿をしています。左側に示しているように、江戸時代の男性の平均身長は約156㎝。この鶏がいかに大きく、勇壮なのかよくわかるでしょう。この絵は鶴を主題にした障壁画を参考にしているという説があり、大胆な鶏の描写には吉祥の意味が込められているのだとか。あまりにも大胆な鶏の描写には、若冲の気魄が乗り移っているかのような強烈なインパクトに満ちています。

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