Lifestyle

2023.11.14

身体に優しい発酵料理も。京都 東山の隠れ家で出合う「FAS」発酵エイジングコスメ

町の喧騒から離れた住宅地に「FAS」京都東山本店はあります。近くに銀閣寺や哲学の道といった名所もあり、落ち着いた佇まいが人気のエリアです。築100年以上の一軒家をリノベーションしたショップは、2023年10月にオープンしたばかり。こだわりの空間で、発酵エイジングケア化粧品の誕生ストーリーを聞きました。

わびさび文化が残る場所と建物に心惹かれて

「銀閣寺に代表されるわびさびの文化が息づいたエリアで、店を出したいという思いがありました。この築百年という古民家に入った瞬間に何か感じるものがあったのです。建物は傾いて朽ちかけていたのですが、天井の梁や柱など、元からあったものを活かしてリノベーションしています」と専務取締役の向山雄登さんは、当時を振り返ります。柱に残っていた身長を刻んだ跡も、あえてそのまま残しているそうです。

目印となるのは、入り口の壁にあるブランド名のロゴ。看板はないので、秘密の場所へ入るようなワクワク感があります。「FAS」とは「Fermentation(発酵)and Science (化学)」の頭文字から取られています。

散歩の途中に、ふらっと地元の人が立ち寄ることもあるそうです。「何のお店なんだろう?と気になるみたいですね」と向山さん。旗艦店(きかんてん)としてオープンしたこの店舗では、化粧品の販売だけではなく、発酵料理も提供しています。

発酵に着目して辿り着いた黒米のパワー

FAS誕生のきっかけは、美容のための酵母と、古代米・黒米(くろごめ)との出合いにありました。「新しい発酵に着目した化粧品を作ろうとした時に、様々な食物の中で米と菌の相性が良いことに気づきました。そこで白米、玄米と試す内に、古代米の黒米の存在を知ったのです」と向山さん。調査を進めたところ、京丹後に古代米の発祥エリアがあることがわかります。出土した木簡に、平城京に納めたと記されている畑を訪ねるところから、化粧品開発が始まりました。


古代米は明治時代に栽培が中断されましたが、歴史研究家によって作られていたそうです。その研究家が亡くなる前に、苗を古代米のふるさとである京丹後市弥生町芋野へ移したことから、継承の目的で古代米が復活していました。

向山さんは開発メンバーと共に田植えや収穫にも参加して、地元の人たちと交流を深めます。「何度も足を運ぶうちに、地元の農家の皆さんに開発の思いを理解していただけました。化粧品から黒米を知ってもらうことで、より多くの人に素晴らしい力が認知できるという考えに共感していただいています」

黒米の表皮の紫がかった黒い部分は硬いので、菌がそれを食べて発酵する時に、パワーを発揮するのだそう。そのために、実に738種もの発酵成分が誕生しました。水をほぼ使わずに90パーセント黒米発酵液という、化粧水というよりは美容液のような贅沢さです。クリームには、黒米発酵液に黒豆ペプチドが加えられています。

自然素材にこだわったリノベーション

この店舗のユニークな特徴として、土をテーマにしている点があげられます。それは、有機農法の土づくりは、土にすむ微生物が堆肥の有機物を発酵させるのが不可欠だから。この特性とFASの化粧品作りとの繋がりを感じ、地元の土を利用するなど、こだわりのリノベーションを展開しています。「元からあった壁に、伏見区深草から採取した土を塗り重ねているんですよ」と店長の山岡則久さんが説明してくださいました。

また板枠の中に土を入れて突き固め、層を重ねる土壁の築造法・版築(はんちく)と呼ばれる伝統的な技法が取り入れられているのも特徴です。「古くは万里の長城も、この技法が使われていたようですね」と山岡さん。カウンターの椅子から、美しいミルフィーユのような地層を見ることができました。元の建物を生かしつつ、新しい要素を加えた室内は、「なんだか懐かしい、落ち着ける」とお客様から好評だそうです。

身体に優しい発酵メニューを提供

カウンター席に座って、人気の鮒ずし飯(いい)のチーズケーキとコーヒーをいただきました。鮒ずしは、塩漬けにした二コロブナに、炊いたご飯を重ねて漬けて自然発酵させたものです。「ご飯は飯(いい)と呼ばれますが、ほとんど利用されることがないそうです。実は栄養価が高い飯を、ケーキに取り入れています」と山岡さん。嫌な臭みはなく、奥行きを感じるチーズケーキと、まろやかな味わいのコーヒーがマッチしていました。

カウンター前の棚には、さまざまな材料を組み合わせた発酵の瓶がずらり。こちらで提供される料理は、発酵食に造詣が深い料理家の真野遙さんが監修を担当しています。

まるで絵画のような窓からの景色

昔ながらの急勾配の階段を使って2階へ上がると、窓からの緑が目に飛び込んできました。以前からある窓枠のデザインも洒落ていて、まるで絵画のよう。オーダーしたこだわりの家具が配置された空間は、ずっとこの場所にいたくなるような、居心地の良さです。

今後は、このスペースを使ったワークショップも計画されています。しっとりとした静かな部屋で受ける講義は、きっと格別なひとときでしょう。階段を降りる途中の出窓からも、四角く切り取られた美しい緑が見えました。華美ではないけれど、とても美しい景色。FASの化粧品と、この建物の奥深い魅力は、一体化しているように感じました。

FAS 京都東山本店
京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町3
公式ウェブサイト:https://fas-jp.com/

スチール撮影/伊藤信 映像/渡辺誠司、 RIVERSCAPE

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瓦谷登貴子

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。
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