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2021.11.04

古代中国青銅器と現代アートの共演「泉屋ビエンナーレ2021 Re-sonation ひびきあう聲」は時空を超えたコラボだった

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世界有数の中国青銅器を収蔵・展示している泉屋博古館(京都市)。
古いものでは3千年以上も前の青銅器が、悠久の歴史を無言で語りかけてきます。
その精緻な鋳造技術と造形は、近代に至る金属工芸の模範とされ、まさに「原点」とみなされてきました。
そうした古代中国の青銅器から受けた印象をもとに、9人の現代鋳金作家が作品を創作。それらが当館に一堂に会したのが、展覧会「泉屋ビエンナーレ2021 Re-sonation ひびきあう聲」です。
今回の記事では、元ネタとなった青銅器と現代アート作品の両方を並べ、現代作家のインスピレーションの軌跡をたどる旅へといざないましょう。

楽しみ!

積みあがる生き物たち

最初にご覧いただきたいのが、西周後期(紀元前9世紀頃)に作られた「竊曲文四足盉(せつきょくもんしそくか)」。

『中国の古銅器』(樋口隆康著/学生社)によれば、「盉」というのは温酒器で、「酒に水をまぜてアルコール分を少なくし、節酒の役にたてたか、いろいろの酒を温めてブレンドしたのかもしれない」と記されています。

「竊曲文四足盉」

対して、梶浦聖子さんの「万物層累聖獣盉」。四つ足のどっしりとした動物らしきものの上に、なにやらユーモラスな感じの小動物が何頭も積みあがっている様子は、おかしみがあり、ほっこりしてしまいます。

「万物層累聖獣盉」(梶浦聖子)
ブレーメンの音楽隊みたい?

梶浦さんは、埼玉県のハクビント鋳造工房を拠点に活動。ブロンズ彫刻やインスタレーションを得意とし、動物をモチーフにした作品を数々出しています。今回の展覧会のために、いにしえの青銅器を見たとき、「時空を越えて、全ての要素、例えば人類の歴史、技術や素材について、その時代の文化や信仰、あらゆる生きとし生けるものが内包されている」と、感じたそうです。

そして、「頭の中でたくさんの生き物たちが姿を現しては、あれよ、あれよと言う間に、あちこちに消えていってしまうので、捉えた形を急いで集めて上に積んだ」そう。これら生き物たちは、気の遠くなるような時間の流れの象徴に見えます。

“残らない音”を青銅で形にする

次は「夔神鼓(きじんこ)」と呼ばれる、高さ82cm、幅65cm、(内部は中空ながら)重さが約70kgもある太鼓の形状をした青銅器です。両面にはワニ皮が張られ、上にあるのは二羽の鳥の飾りです。

「夔」とは、「牛のような姿をし、角のない一本足の獣で、その皮を張って太鼓を作ると、敲いた音は五百里先まで届いた」という伝説の神獣。実際に太鼓として用いられたのか、祭祀目的の器物であったのかは不明だそうです。

「夔神鼓」

この神秘感ある古代の造形物をもとに、鋳造作家の巽水幸(たつみみゆき)さんがイマジネーションを羽ばたかせて作られたのが、「ふりつもることのかけら」です。

「ふりつもることのかけら」(巽水幸)

巽さんが、「夔神鼓」を見て次のような問いかけをします。

「今も昔と同じ音が鳴るだろうか? 音はいつだって大気をふるわせて消えていくばかりで跡形もない。ヒトの話し声も、日常に溢れるありとあらゆる音はその刹那に消えていく。それなら私は消えていくもの、“残らない音”を青銅で形にすることでささやかな抵抗をしよう」。

作品の小さな金色の破片は、「夔神鼓」を作った名も無き人の子孫らが、枝葉を伸ばして成長する大樹のように血脈を増やし、その大樹は消えゆく音や事毎を記憶し、「種が宿り、混じり合い、やがて小さな花片が次から次へと枝を覆い尽くし、風に吹かれるように空を舞い」、最後に降り積もったさまを表しているそうです。

うーん、深い…

建物に見立てて空想を広げる

最後は、春秋前期(紀元前8世紀)に作られた「螭文方炉(ちもんほうろ)」。方形の箱型の中に炭火を入れて、コンロの役割をなしたものと考えられています。

「螭文方炉」

このふるぶるしい炉を、窓と門扉のある建物と見立てたのは、気鋭の作家として活躍する中西紗和さんです。

「もしこの建物で生活したらというイメージをしました。そしてこの建物が朽ちていくことを想像しました。ツタが絡まり、やがて建物が崩れ去り、樹が生え森になるだろうと想像しました。ふとそのとき、見張り役の門番や威嚇しながら下支えをしている虎、四つ角にしがみ付いて四方八方に睨みを利かせている獣はどうしているだろうと考えました」

そのときは、それぞれの役割から解放され自由になった彼らは、建物が消え樹々が生い茂る空間で「自分以外の存在に気が付き共存している」と、中西さんは空想を広げました。

そうして出来上がったのが、こちらの作品「楽園」です。

「楽園」(中西紗和)

密集した枝葉の中では、「座り通しだった門番はふたりで手を取りながら走り、すべてを支えていた虎はリラックスして寛ぎ…」と、快活な雰囲気が発散され、鑑賞する側もほのかに愉快な気持ちになってきます。

中西さんは、本展においてもう1つの作品を出しています(他作家も複数の作品を展示)。記事トップのアイキャッチ画像にもなっている「in-ner-」です。

「in-ner-」(中西紗和)

この作品について、中西さんは次のように解説します。

「私は、 ロストワックスという鋳造技法の中で、せっかく作った原型(ワックス)が、いったんこの世から消失してしまうという事実にとても惹かれ、記憶や痕跡をテーマに鋳造で作品を制作してきました。『in-ner-』は、私が鋳造で作品をつくり始めた2008年頃から現在までのいくつかの作品を使い、素材・色・形・量・配置・空間のバランスを考えてインスタレーションした作品です。鋳物となった完成作品だけではなく、鋳造の工程で触れる道具や素材(砂、ワックス、石膏、レンガ、粘土、布など)に対しても魅力を感じているため、ブロンズ以外の素材を多用しています。砂の上で点々と行われているセレモニーのような、鋳造場を思い起こさせるようなイメージで構成してみました。金属が仕上げ方によって何種類もの色に変身できること、ワックスの透明感のある質感など、素材が持つ強さ・美しさと、作品全体の力の抜けた違和感とのギャップが見どころかと思っています。ぜひ様々な角度から観ていただきたいです」

いかがでしたでしょうか? 私もそうでしたが、古代青銅器にちょっと近寄りがたい印象をもっていたとしても、同時代に生きる作家の作品と見比べることで、一気にポジティブな気持ちに変わることうけあい。現代アートが「好き」あるいは「興味はある」という方にもおすすめしたい展覧会です。ぜひとも、時代も空間も越えて「ひびきあう」作品の声を聴いてみてください。

ぜひ生で観てみたいです!

「泉屋ビエンナーレ2021 Re-sonation ひびきあう聲」 基本情報

会場:泉屋博古館
住所:京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
会期:2021年9月11日(土)~10月24日(日)、11月6日(土)~12月12日(日)
開館時間:午前10時~午後5時 (入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日及び10月25日~11月5日
入館料:一般800円、高大生600円、中学生以下無料(20名以上は団体割引20%、障がい者手帳ご呈示の方は無料。また本展入場で企画展も見られます)
公式webサイト:https://sen-oku.or.jp/kyoto/

主要参考文献

『中国の古銅器』(樋口隆康著/学生社)

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書いた人

フリーライター。北国に生まれるも、日本の古くからの文化への関心が抑えきれず、2019年に京都へ移転。趣味は絶景名所探訪と美術館・博物館めぐり。仕事の合間に、おうちにいながら神社仏閣の散策ができるYouTube動画を制作・配信中→Mystical Places in Japan