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2022.07.17

庭園美術館に異世界が出現!?蜷川実花×アール・デコ建築が胡蝶の夢へと誘う

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4万枚……コロナ禍の1年半の間に、写真家・映画監督の蜷川実花さんが撮った写真の数です。海外には出られないので国内でひたすら花を撮影していたそうです。

4万! 凄まじい数です…。


その中から厳選した80点および映像作品を展示した「蜷川実花『瞬く光の庭』」展が、東京・白金台の東京都庭園美術館で開かれています。蜷川さんはもともと花を多く撮ってきた写真家ですが、今回展示したものは「それまでの花の写真とは違っていた」と言います。しかも、会場が昭和初期の歴史的建造物として知られている東京都庭園美術館。訪れたつあおとまいこの二人は、すぐに夢心地になってしまいます。

どんなケミストリーが起こるのでしょうか?


えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

アール・デコの超現実感引き出した蜷川実花

本館より

つあお:昭和初期のアール・デコ建築として有名な東京都庭園美術館に蜷川実花さんの写真! たわくし(=「私」を意味するつあお語)は何だか、訪れる前からワクワクしてましたよ。

東京都庭園美術館本館(重要文化財)=豊かな緑を有する港区白金台に立つ瀟洒な建物は、1933年に旧皇族朝香宮家の本邸として建設された。
戦後は吉田茂首相公邸や迎賓館として使用されるなど、時代に応じて役割を変え、1983年に東京都の美術館として生まれ変わった。3年にわたる改修工事を経てリニューアルオープンした2014年以降は、美術を中心とした企画展のほかに、毎年一度、建物公開展を開催。通常は非公開の居室が見学可能となるなど、建物を主役とする特別公開が行われている。​​(出典=TOKYO UPDATES「都心に現存する奇跡の建築、東京都庭園美術館の美​​」

まいこ:蜷川さんの写真があのアール・デコの中でどんな顔を見せるのか、私も興味津々で出かけました!

つあお:でもね、考えてみたらアール・デコって、幾何学模様を駆使したりシンメトリーな配置を多用したりした、すごく様式化された装飾の極致だと思うんです。一方、蜷川さんが撮った写真は花ですから、生命感にあふれたリアリズムの賜物。どう感じました?

まいこ:お互いのいいところを高め合って、夢のような世界を創り上げていたことに驚きました!

つあお:たわくしは今、つい「リアリズム」っていう言葉を使ってしまったんだけど、蜷川さんの写真って、ここでこうやって見ると何だか現実の世界じゃないものを写しているような感じもしますね。

まいこ:ホントですね! 花も空も、記憶のどこかにあるような風景なんだけど、浮遊感があるというか、超現実感にあふれている!

つあお:そもそもこのアール・デコの空間自体にも、超現実感があるかも! こんな建物、ほかにありませんからね!

まいこ:そうですよね! でも、蜷川さんの写真がない時のこの建物の「超現実感」は、あまり目立ってなかった気もします。

つあお:それもそうですね。ということは、蜷川さんの写真がアール・デコ装飾の超現実感を引き出してるっていうことなのかな。

本館より

まいこ:例えば、この建物の内装のデザインをしたアンリ・ラパンのこの壁画、いつもは何だかぺたっとした平面的な装飾柄に見えてたんだけど、今日は違う気がする!

つあお:うんうん。壁画の中に入って行けそうだ!

まいこ:この楽園的な絵の中から、ビビッドな紫の花と空が飛び出てきたようにも見えますね!

つあお:ホントですね。突如、空間が発生したって感じだ。

まいこ:しかも、オレンジ色の大理石になぜかこの色がめちゃめちゃ合ってる! いつもはクラシカルに見えていた暖炉が、何だか不思議の国の立体物に見えてきます。

つあお:すごいすごい。撮っただけじゃなくて、ここにこの写真を置いた蜷川さんの感性がすごいんだな!

まいこ:ほんと! この展覧会では、こうしたアール・デコと蜷川さんの写真のサプライズコラボレーションスポットがいたるところにありましたね!

つあお:そうですね。最初の部屋から驚きでしたけど、食堂とか、ちょっと入り込んだ書斎みたいなところとか、どこに行っても新しい世界が広がっていましたもんね!

本館より

不思議の国のアリス状態!

本館より

つあお:窓枠を目一杯使ったこの写真のしつらえも印象的でしたね!

まいこ:縦が2メートル以上はありそうなこの窓を、透明アクリルに焼き付けた写真でいっぱいにするというのもすごい!

つあお:こうやって見ると、まるで本当にこんな風景が窓の外に広がっているみたいだなぁ。

まいこ:その世界が、市松模様の床と一緒になって長く先までつながっているから、ずっと歩いて行くと、気づいたら不思議の国のアリスの世界になっちゃったりして!

つあお:おお、別世界に入り込んだっていうわけだ! 夢の世界と現実の世界を行き来する「胡蝶の夢(こちょうのゆめ)」みたいですね!

胡蝶の夢=夢と現実とがはっきりと区別できないこと、またその区別を超越できないことのたとえ。中国、戦国時代の思想家荘子が、蝶となった夢をみ、目覚めたのち、自分が夢のなかで胡蝶に変身したのか、胡蝶がいま夢のなかで自分になっているのか、と疑ったと伝える『荘子』「斉物論」の故事による。(出典=小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)​​

本館より
蜷川さんの写真の赤い花と同化しつつあるまいこ
想像より大きくてびっくりしました!


まいこ:ふふふ。夢の世界に入っちゃいますね!

つあお:夢の世界は、とても深そうだなぁ。いいなぁ。

まいこ:あっちの世界とこっちの世界、結構夢中になって往復しちゃいそう!

つあお:その往復は、気持ちよさそうですね。

まいこ:赤、ピンク、緑、青…このビビッドでユニークな色が、もともとはシンプルなモノクロ空間にこんなにしっくりくるとは! しかも、この世界は市松模様の床と一緒になって長く先までつながっている!

つあお:現実の花の世界を撮影したはずなのに、蜷川さんはなぜこんな場面を創出できるんでしょうね?

まいこ:花を写すというよりも、花が創った「世界」を写したからかな?

つあお:きっとそうだ!

まいこ:見えたものじゃなくて心の世界を撮ってるんですね。

つあお:そうか、だからこそ、こういうちょっと日常空間からワープしたアール・デコ建築の中でもしっくりくるんですね。

まいこ:写真の中の、ある意味過剰とも思えるような空気感が、より一層、この空間でよさを発揮してるんじゃないかと思うんです。

つあお:東京都庭園美術館の建築はもともと素晴らしいわけですが、蜷川さんの写真がさらなる魅力を引き出してる。アーティストの力はすごいなぁ。

まいこセレクト

本館より

本館に入ってすぐのゴージャスな大広間に立てかけられていた作品です。 アクリル製の写真パネルは、鏡と一緒になって室内を映し出していました。部屋の照明やインテリアが蜷川さんの創出した花世界の一部になっているようにも感じられます。蜷川さんの写真は、まるで、ここに立てかけられる定めを持って生まれてきたかのようです。
写真の中で妖しく揺れているのは、黄色やオレンジのケシの花。かわいらしく愛嬌を振りまきながらも、麻薬の原料というイメージも併せ持つ危険な花です。展示室の天井から写真の中に入って行った40個の電球は、中でケシの胞子となって、今度はこちら側に向かって放出されているようにも見えます。
これから始まる、 魅惑と危険が入り混じった「胡蝶の夢」を暗示するようなこの作品の誘惑には、素直に乗っかっていきましょう!

つあおセレクト

新館より(映像展示)

実は、アール・デコ建築ではない新館(2013年竣工)の白い壁のギャラリー1で展示されていた映像作品こそが、「胡蝶の夢」ならぬ蝶をテーマにしたものだったのです。四季の花空間を飛び回る蝶は、重層構造の半透明スクリーンの中で、鑑賞者を夢の世界にいざない、一緒に歩かせてくれました。覚めない夢があってもいい、なんて思ってしまいましたよ!

※この幻想空間の中で浮世離れトークを収録しました。ぜひご覧ください。
新館で収録したつあおとまいこの浮世離れトーク

ものすごい空間にお二人が!Youtube必見です!

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。​​

Gyoemon『花と蝶』

え? 昔そんなタイトルの歌を歌ってた人がいたんだって? 知らないなぁ。そうか、昭和時代の歌なんですね。というわけで、森進一さんが歌った『花と蝶』の歌詞を読むと、花と蝶は恋に落ちた男女のたとえのようなのですが、考えてみたら花と蝶ってけっこう見た目が似てますよね。擬態と言ってもいいくらいに。一心同体? それこそ愛の究極の姿だ! などと、つあおは感心しきりです。そして、蜷川さんの撮る花空間も、まるで夢の世界のようだと思うのです。ああ、花と蝶。

展覧会基本情報

展覧会名:蜷川実花「瞬く光の庭」
会場名:東京都庭園美術館
会期:2022年6月25日〜9月4日
公式ウェブサイト:https://www.mikaninagawa-flickeringlight.com/

書いた人

つあお(小川敦生)は新聞・雑誌の美術記者出身の多摩美大教員。ラクガキストを名乗り脱力系に邁進中。まいこ(菊池麻衣子)はアーティストを応援するパトロンプロジェクト主宰者兼ライター。イギリス留学で修行。和顔ながら中身はラテン。酒ラブ。二人のゆるふわトークで浮世離れの世界に読者をいざなおうと目論む。

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平成元年生まれ。コピーライターとして10年勤めるも、ひょんなことからイスラエル在住に。好物の茗荷と長ネギが食べられずに悶絶する日々を送っています。好きなものは妖怪と盆踊りと飲酒。