オランダ黄金時代の代表的画家“ヨハネス・フェルメール”と江戸時代の天才絵師“伊藤若冲”。ふたりが描いた作品はどれも人々を魅了する名画ばかりですが、その理由はどこにあるのでしょうか。ふたりの名画を並べてみると…「黒」という共通の秘密が見えてきました。和樂INTOJAPANでは全3回をとおして、それぞれの名画にズームアップし、隠された「黒の秘密」に迫ります。
第2回 「絵画芸術」×「大鶏雌雄図」
Q.このふしぎな存在感の秘密は?
画家のアトリエという、17世紀の定番モチーフを描いたフェルメールの「絵画芸術」と2羽の鶏を描いた若冲の「大鶏雌雄図」。シンプルな題材なのに、妙に存在感があるのはなぜでしょう。
ヨハネス・フェルメール「絵画芸術©Bridgeman Images/PPS通信社 油彩・カンヴァス 1666~67年頃 120×100㎝ ウィーン美術史美術館 フェルメールには珍しい大型の作品。月桂冠をかぶりトロンボーンと書物を携えたモデルは、歴史の女神を表す。
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伊藤若冲「動植綵絵 大鶏雌雄図」(どうしょくさいえ たいけいしゆうず) 一幅 絹本着色 江戸時代・宝暦9(1759)年 142.3×79.1㎝ 宮内庁三の丸尚蔵館 鮮やかな雄鶏と黒い雌鶏の背景は、地面を示す線一本のみ。
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A.多彩な「黒の質感」が決め手です
黒で表現する厚みや立体感。みるものを圧倒させ惹きつけるのは、この両者が表現した質感です。
黒の塗り分けで服の厚みを表現したフェルメール
「絵画芸術」の秘密は黒い衣装にありました。近くで見ると、とにかく重厚感がすごい。黒の絵具をこってり重ねて服の厚みを表したり、生地のうねりを描いたり。実はこの画家は、フェルメール本人で、「絵画芸術」は画家が偉大な存在であることを宣言した絵。重厚な黒の衣装は、「オレを見て!」という主張の表れだったのです。
フェルメールの衣装にズームアップ! ▼
背中を見せている画家はフェルメール自身。背面や袖に切り込みが入った衣装は、当時より1~2世紀前のブルゴーニュ公国で流行ったもの。厚手の生地のラグジュアリーな質感を、黒い絵具を巧みに塗り分けることで描き表しています。切り込み部分のねじれも、黒の微妙な階調によってリアルに描写。画家を讃えるこの絵を、フェルメールはいつも身近に飾っていたといいます。
さまざまな墨で羽根の立体感を表現した若冲
「大鶏雌雄図」の黒い雌鶏が放つ存在感は、「鶏、大好き!」という若冲の気持ちの表れでしょう。鶏を描くにあたり、数種類の墨を使い分け、塗りの厚みを変え、羽根一枚一枚の艶の違いまで表す執念を見せた若冲。多彩な黒を重ねた美しさは、ときに鮮やかな色彩よりも強く人を惹きつけます。
漆黒の雌鳥にズームアップ! ▼
墨一色で描かれていると思いきや、羽根一枚一枚が黒のさまざまな色調や濃度で表され、微妙に異なる光沢を放っていることに驚かされます。何より、このむっちりした立体感を墨だけで描いているのがすごい。