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2019.10.15

京都嵐山の福田美術館は渡月橋を一望できる絶景カフェもおすすめ

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今年の秋の京都観光、古寺や紅葉の名所を巡るだけではもったいないかも? 嵐山に見逃せない名所「福田美術館」が誕生しました。 江戸時代から近代の主要な日本画家の作品を中心とした、約1,500点の美術品を所蔵しています。開館記念「福美コレクション展」では、珠玉のコレクションの中から、さらに選りすぐりの名品を公開。日本画の巨匠の傑作が一堂に会する豪華絢爛な展覧会の様子をレポートで紹介します。

渡月橋を一望できる、嵐山の中心に「福田美術館」が開館

「和樂web」編集部が開館前に潜入取材をした(学芸課長の岡田秀之氏に見どころをお伺いしたレポート記事はこちら)、嵐山の「福田美術館」がついに、この秋オープンしました!

嵐山の中心地に佇む和モダンな建物。伝統的な京町家のエッセンスを取り入れつつも、スタイリッシュな建築は東京工業大学教授・安田幸一氏が手掛けた

嵐山のシンボル、渡月橋のたもとから徒歩2分。福田美術館は、四季折々に美しい姿を見せる嵐山の景色と渡月橋を一望できる抜群のロケーションを活かし、「美しい自然と日本美術の融和」を目指した、私設美術館です。オーナーの福田吉孝(ふくだよしたか)氏が美術館設営に向けて15年にわたり収集した、日本画を中心とした約1,500点の美術品を収蔵・展示しています。

音声ガイドは無料!作品キャプションは分かりやすく!写真&SNS発信OK!

「福美音声ガイド」の画面(写真左)、「分かりやすさ」にこだわった作品キャプション(写真右)

福田美術館のコンセプトは、美術ファンはもちろんのこと、美術に詳しくない方でも楽しめる美術館。館内には、美術作品を気軽に楽しめるさまざまな工夫が。

まず、初心者にも美術ファンにも嬉しいサービスが、無料の音声ガイド。通常美術館の音声ガイドは有料ですが、こちらはスマートフォンを持っていれば、無料で利用可能。出品目録に印刷されたQRコードから、「福美音声ガイド」にアクセスし、全展示作品の解説を聞くことができます。マイイヤフォンをお持ちの方はぜひ持参しましょう。(ヘッドフォンレンタル、イヤホン販売もあり)

また、各作品に添えられているキャプションも、「分かりやすさ」を意識して作成されており、作品の特徴がひと目で分かる見出しとともに、簡潔に作品の解説や魅力がまとめられています。

日本の美術館では珍しい試みが、作品の写真撮影OK! あの傑作もこの名作も、気に入った作品はその場で撮影して、twitterやinstagramなどで共有できます。(一部の作品をのぞく)

日本画のスーパースターが集結!開館記念「福美コレクション展」

1つ目の展示室で来場者を出迎えるのは、躍動感あふれる竹内栖鳳「金獅図」(1906年)「猛虎」(1930年)

注目すべき開館記念の展覧会は、タイトルに館名を冠した「福美コレクション展」。本展は、「明治以降の絵画」「江戸時代の絵画」「西洋絵画」の3章構成。俵屋宗達や円山応挙、伊藤若冲など江戸時代のスーパースターや、竹内栖鳳、上村松園、横山大観など明治以降に活躍した日本画の巨匠、モネやシャガールなど西洋の有名画家たちの名画が多数公開されています。

会期中に展示替えが行われ、Ⅰ期(2019年10月1日~11月18日)・Ⅱ期(2019年11月20日~2020年1月13日)それぞれ46点の作品を展示。ほぼ総入れ替えされる作品は、Ⅰ期・Ⅱ期ともに魅力的なラインナップで、どちらも見逃せない内容です。

今回の展覧会に関して、館長・川畑光佐(かわばたみさ)氏は、「本展ではコレクションの中でも特に目玉となる作品を公開しています。福田美術館の収蔵品の全体像を俯瞰していただける企画展となっています。」と話されました。

ギャラリー1「明治以降の絵画」

展覧会冒頭のギャラリー1では、福田コレクションの中でも特に充実している、竹内栖鳳、上村松園に代表される京都画壇の作品をはじめ、横山大観、速水御舟など明治時代以降の近代日本の画家による絵画を鑑賞することができます。

近代日本画の巨匠による、軸や屏風などの大作が並ぶ1階の展示室。ガラスケースは、世界最高の技術を持つことで知られるドイツのグラスバウハーン社に特注。映り込みを抑える超高透過率の大型ガラスを実現した。このケースのためだけに考案された照明システムによって、日本画の鑑賞に最適の状態で作品を楽しむことができる

前回の取材の際に、岡田秀之氏にご解説いただいた、橋本関雪「後醍醐帝」もⅠ期に登場。こちらは、大正元年の文展に出品されて以来、行方が分からなくなり、1世紀の時を経て本展で公開された「幻の作品」です。後醍醐帝が市女笠と着物で女性に身をやつし、吉野へ向かうため御所を脱出する場面をドラマティックに描いた大作。息が止まりそうなほどの緊張感をたたえ、驚くほど精緻な筆致で人物の表情や装身具、馬など細部まで描き込まれており、見れば見るほど引き込まれる一作です。

橋本関雪「後醍醐帝」(1912年)

こちらの2点は、京都画壇を牽引した美人画の巨匠・上村松園の作品。

(左)上村松園「長夜」(1907年)(右)「軽女悲離別図」(1900年)

左の「長夜」は、松園が32歳の時の作品で、日暮れを過ぎても読書に夢中の若い娘と、隣で行灯に火を入れる年配の女性の姿が描かれています。右の「軽女悲離別図(かるじょひりべつず)」は画業初期の代表作で、松園自身も思い入れの深い作品。忠臣蔵の大石内蔵助とその妾お軽の吉良邸討ち入り前夜の様子が描かれています。どちらも、みずみずしい女性像を情感豊かに描き上げた松園らしい作品です。

明治から昭和初期にかけて京都画壇で活躍し、近年再び評価が高まっている、木島櫻谷(このしまおうこく)の作品も展示されています。

木島櫻谷「遅日」(1926年頃)

古の中国ののどかな春の風景を水墨のみで描いた作品「遅日」。墨の濃淡を微妙に変化させることにより、人物、動物、植物など個々のモチーフの質感をみごとに描き分けています。

木島櫻谷「遅日」(1926年頃)部分

リアルで愛らしいガチョウの描写は、さすが動物画の名手、櫻谷! モノクロの画面の中から、ガチョウの鳴き声、小川のせせらぎ、笹の葉の音、幼子の声が聞こえてきそうな五感に訴えかける作品です。

福田コレクションの一角を成すのが約350点にも及ぶ、竹久夢二の作品群です。

(左から)竹久夢二「庭石」(1931年頃)「待宵」(1912年頃)「切支丹波天連渡来之図」(1914年)「秘薬紫雪」(1928年頃)

本展ではギャラリー1に、竹久夢二のコーナーが設けられ、国内有数の夢二コレクションの中から、Ⅰ期・Ⅱ期ともに選りすぐりの作品が4点、計8点展示されます。

会場内でひときわ存在感を放っていたのが、大正から昭和にかけて東京で活躍し、日本画の新境地を切り開いた速水御舟の「山頭翠明(さんとうすいめい)」。

速水御舟「山頭翠明」(1915年)

水墨の横点を連ねて山や樹木などを描写する「米点(べいてん)」と呼ばれる水墨画の伝統的な技法をベースに、本作が描かれた大正初期に日本で紹介され始めた西洋の印象派絵画にも通じる

絵の前に立つと、実際に眼前に山を仰ぎ見るような錯覚に陥る迫力満点の本作は、御舟が21歳の時に初めて大画面制作に挑んだ、最初期の傑作です。幾枚もの紙を継いだ、高さ267cm、幅174cmの大画面いっぱいに、徐々に色づき始めた雄大な山の姿が点描で描かれています。

ギャラリー2「江戸時代の絵画」

続くギャラリー2では、尾形光琳、俵屋宗達、円山応挙、伊藤若冲、葛飾北斎、歌川広重など江戸時代の名だたる絵師の作品を展示。江戸時代の日本の絵画の流れを概観できる展示室になっています。

蔵をイメージした薄暗い空間に、江戸時代の日本画の名品が並ぶ2階の展示室

こちらは、琳派の祖・俵屋宗達が『伊勢物語』の第二段「西の京」の一場面を描いたきらびやかな作品。

俵屋宗達「益田家本 伊勢物語図色紙 第二段「西の京」」(17世紀)

全面を金色で塗られ、鮮やかな彩色で丁寧に仕上げられています。現在、宗達筆と伝わる「伊勢物語図色紙」は59面ありますが、本図は、三井財閥の初代社長・益田鈍翁(ますだどんおう)が所持していたもので、完成度の高い1面です。

浮世絵のスター・葛飾北斎が85歳の最晩年に描いた肉筆画「端午の節句図」も注目したい作品です。

葛飾北斎「端午の節句図」(1844年)

85歳とは思えない、細やかな筆づかいで、端午の節句の厄払いとして室内に飾られた武具や菖蒲の花が鮮やかに描写されています。

円山応挙「陶淵明図屏風(とうえんめいずびょうぶ)」は、全面に金箔が張られた画面に、中国風の装いをした人物が描かれた作品。一番左の長いひげを生やした人物が陶淵明とされています。

円山応挙「陶淵明図屏風」(1778年)

江戸時代、写生画をもとにした写実的で親しみやすい画風で京都で爆発的な人気を博し、日本絵画界に新風を吹き込んだ円山応挙。応挙のもとには多くの門下生が集まり、「円山派」を形成しました。この「円山派」と、応挙に師事した呉春が興した「四条派」が、その後京都画壇の主流となり、竹内栖鳳や上村松園など近代の日本画家たちに脈々と受け継がれていきました。

展示室の中ほどに並ぶ大きな2枚の屏風は、伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風(ぐんけいずおしえばりびょうぶ)」と与謝蕪村「茶筵酒宴図屏風(ちゃえんしゅえんずびょうぶ)」。江戸時代、京都で活躍した同い年の二人の天才絵師の大作を並べて見ることができる贅沢な展示です。

伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風」(1797年)与謝蕪村「茶筵酒宴図屏風」(1766年)

伊藤若冲「群鶏図押絵貼屏風」(1797年)部分 撮影/伊藤 信

与謝蕪村「茶筵酒宴図屏風」(1766年)部分

与謝蕪村「茶筵酒宴図屏風」(1766年)部分

パノラマギャラリー「西洋絵画」

本展最後の展示室を飾るのは、西洋絵画のコレクション。福田吉孝氏が美術館建設を意識して本格的に日本画収集を開始する前に収集していた、フランスの近代絵画作品を鑑賞できます。展示室1・2のほの暗い空間とは打って変わり、大堰川に面した大きな窓からたっぷりと自然光が注ぎ込む明るい展示室に、モネ、ピサロ、マティス、シャガールなどの作品7点が展示されています。

(右)クロード・モネ「プールヴィルの崖、朝」(1897年)、(左)カミーユ・ピサロ「エラニーの積み藁と農婦」(1885年)

マリー・ローランサン「女の肖像」(20世紀)

渡月橋を一望!美術鑑賞の後は絶景カフェへ

カフェから見える嵐山の景色。手前の美術館の水盤と奥に見える大堰川がひと続きで繋がっているかのよう

福田美術館でぜひ訪れてほしいのが、館内に併設されたカフェ。表参道に本店を構える人気カフェ「パンとエスプレッソと」が初のミュージアム内店舗を出店しています。こちらのカフェは、目の前に大堰川と渡月橋を眺められる、嵐山の特等席。

メニューは、「豚バラコンフィと九条ネギセット(ドリンク付き)」1200円(税込)、「加茂茄子とツナラタトゥイユセット(ドリンク付き)」1200円(税込)、「季節の福パフェ」900円(税込)など福田美術館限定メニューをはじめ、軽食やドリンク、デザートがそろっており、ランチでもティータイムでも利用できます。

福田美術館限定の「季節の福パフェ」900円(税込)

窓からの美しい景色を眺めながら、鑑賞の余韻にどっぷり浸るもよし、友人とアート談義に花を咲かせるもよし、です。

この秋は、嵐山で自然&アートを堪能

夏の暑さもひと段落し、今嵐山は観光にぴったりなシーズン。これから、秋の深まりとともに色づき始める嵐山の紅葉は日本屈指の美しさです。今年の秋は、世界遺産の天龍寺や塔頭の宝厳院、保津川下りなど、京都ならではの紅葉スポットとあわせ、福田美術館で極上アートを鑑賞して、自然&アートの美の世界を心ゆくまで堪能してみてはいかがでしょうか。

Ⅱ期(2019年11月20日~2020年1月13日)には、重要文化財の渡辺崋山「于公高門図(うこうこうもんず)」や初公開の狩野探幽筆「雲龍図」、本展ポスターに使用されている木島櫻谷「駅路之春(うまやじのはる)」も登場。Ⅰ期に負けず劣らずの豪華なラインナップがそろっています。Ⅰ期・Ⅱ期のチケットがセットになったお得な「Ⅰ期・Ⅱ期通し券」2,000円(税込)もホームページで2019年11月18日まで販売。

Ⅱ期に出展する、木島櫻谷「駅路之春」(1913年)

また、来年は、上村松園とその周辺の画家たちの美人画にクローズアップした企画展や江戸時代の奇才・伊藤若冲の企画展を開催予定。1,000点以上のコレクションがいまだ目覚めの時を待つ、京都の新たなアートの発信地から目が離せません。

福田美術館概要

施設名:福田美術館
住所:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3-16
開館時間:10:00-17:00(最終入館は16:30)
休館日:火曜日(祝日の場合は翌日休)、展示替え期間、年末年始
※緊急事態宣言の期間中、美術館は臨時休館となります。詳細・最新情報は、美術館のHPをご確認ください。
アクセス:JR山陰本線(嵯峨野線)嵯峨嵐山駅徒歩12分、阪急嵐山線嵐山駅徒歩11分、嵐電(京福電鉄)嵐山駅徒歩4分
料金:一般1,300円、高校生700円、小・中学生400円
公式webサイト:https://fukuda-art-museum.jp/

書いた人

大阪府出身。学生時代は京都で過ごし、大学卒業後東京へ。分冊百科や旅行誌の編集に携わったのち、故郷の関西に出戻る。好きなものは温泉、旅行、茶道。好きな言葉は「思い立ったが吉日」。和樂webでは魅力的な関西の文化を発信します。