近年の急速なグローバル化に東京五輪も追い風となり、いま日本中で多くの方が、外国の方々と接する機会が増えていると思います。仕事で、海外からのお客様を接待する方もいるでしょう。せっかくなら、日本ならではのおもてなしがしたいと思うもの。渋谷や秋葉原をご案内したり、居酒屋に一緒に行ったり……海外からのお客様は、きっと”I love JAPAN!”と喜んでくれることでしょう。
でも、もう一歩踏み込んで、これから一緒にプロジェクトを進めていく相手の好みや考えを知りたいとき、どうすれば良いでしょうか。できることなら、ちょっと気の利いた(自分の株が上がるような)トークネタで相手との親睦を深めたい。そんな方におすすめしたいのが、世界に誇る日本のアート「浮世絵」の話。「え!? アートなんて全然わかんないよ」という方も、ご安心を。本コラムは、忙しい日本のビジネスパーソンに贈る、一夜漬け浮世絵講座です。
東洲斎写楽「市川鰕蔵の竹村定之進」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
1章 ビジネスに浮世絵の知識が有用な3つの理由
まず最初に、ビジネスの場に浮世絵トークを提案する理由を3つの観点からご説明いたします。
① 心配ご無用! 浮世絵はアートではない、プロダクトである
② 庶民的なネタの宝庫
③ 浮世絵ファンは世界中にいる(という言い訳)
① 心配ご無用! 浮世絵はアートではない、プロダクトである
昨今、ビジネスパーソンにアートの教養が必要だと言われているのに、いきなりすみません。日本が世界に誇るアート「浮世絵」、制作された当時、つまり江戸時代は、実はアートではなかったんです。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
じゃあ、「浮世絵」とはなんだったのか。それを一言で説明するのは難しいのですが、写真もラジオもテレビもなかった時代の、庶民のエンターテインメント。流行を追い、ときに先駆ける、マスメディアだったと言えば良いでしょうか。江戸の人々は、ファッション誌を買うように、あるいは旅行先で絵葉書を買うような感覚で、浮世絵を買って、日常的に楽しんでいました。よもや200年後に、額装されて美術館の展示ケースの中に並ぶとは誰も予想だにしなかったでしょう。
浮世絵には、絵師が紙や絹に直接描いた一点物の肉筆画と、版をおこして大量に和紙に摺った木版画の2種類があります。本稿で扱うのは、主に後者の「浮世絵版画」。北斎の大波も、広重の夕立も、皆さまがご存知の作品の大半は「浮世絵版画」です。「浮世絵版画」は、基本的に、版元が企画し、絵師・彫師・摺師の三者が協力して制作し、店頭で販売され、広く流通したプロダクトでした。
浮世絵の版木制作の様子。(画像提供:アダチ版画研究所)
だから、アートの話、と身構える必要はありません。浮世絵は、ビジネスパーソンの皆さまがふだんから日常的に考えている、商品開発やプロモーション、あるいはマーケティングという観点から、十分に楽しめるものなんです。
② 庶民的なネタの宝庫
浮世絵には、本当にいろんなものが描かれています。人物、風景、花鳥……。浮世絵に描かれている何に興味を持つかで、相手の好みや考え方を知ることができるはず。(具体例は後述します。)ディープな浮世絵談義をする必要はありません。浮世絵から、いろんな会話のきっかけを拾い、ご自身の業種や得意分野のお話にすり替えていけば良いのです。
着物の柄の話から、相手のファッションセンスに話題を拡げることも可能でしょう。相手の住む地域によっては、夕立や雪という日本の気象が珍しいかも知れません。日本全国津々浦々、さまざまな土地が描かれていますので、本社や支社の所在地の浮世絵を探してみても楽しいかも。どんな浮世絵に興味を持つかで、猫派か犬派か、インドア派かアウトドア派か、わかったりするものです。相手がフジヤマ・ゲイシャのイメージを持っていたら、そのルーツを浮世絵の中で探してみましょう。
喜多川歌麿「歌撰恋之部 物思恋」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
また浮世絵は、当時の社会風俗を描いていて、あまり宗教的な要素がないのもリスクヘッジになります。浮世絵に描かれているのは、大半が庶民の生活風俗。現代に通じるものも多く、フランクな会話のネタを提供してくれます。
③ 浮世絵ファンは世界中にいる(という言い訳)
日本の企業と仕事をする外国人の中には、日本人顔負けの日本文化通がいたりするものです。一夜漬けの皆さまでは到底太刀打ちできない熱心な浮世絵ファンも相当数いるはず。でも大丈夫、相手の方が一枚上手だったとき、恥じる必要はありません。
「いや〜、ジョンさん、僕よりお詳しいんですね! やっぱり浮世絵の感動は万国共通なんですね。そういえば、アメリカのボストン美術館には、すばらしい日本美術のコレクションがあるとか。え、ボストン美術館のアジア美術部門の最初の部長って、日本人だったんですか? ぜひいろいろ教えてください」
そう、木版画(印刷物)であった浮世絵は、19世紀の終わりには、大量にヨーロッパに持ち込まれており、現在は世界中の美術館に所蔵されています。もともと日本文化に興味がある方であれば、母国の美術館・博物館で浮世絵の名品に触れている可能性も高いのです。浮世絵は日本発のアートだけれど、日本だけのアートではない。そこは大いに開き直って、相手の知識やセンスを褒め称えましょう!
葛飾北斎「あやめにきりぎりす」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
ご参考までに、浮世絵を所蔵している有名な美術館のいくつかを列挙しておきます。
アメリカ→ ボストン美術館、シカゴ美術館、ホノルル美術館、メトロポリタン美術館、ミネアポリス美術館
イギリス→ 大英博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館
フランス→ ギメ東洋美術館
ドイツ→ ベルリン国立アジア美術館
オランダ→ アムステルダム国立美術館、ゴッホ美術館
ベルギー→ ベルギー王立美術歴史博物館
ここに挙げているのはほんの一部ですが、これだけ世界中に浮世絵は存在するのです。
ちなみに、海外の浮世絵ファンは、どうやって浮世絵というものに興味をもち、知識を得ているのでしょう。一例として、大英博物館のミュージアムショップで販売されている浮世絵の本『FLOATING WORLD』を開いてみましょう。
なんと冒頭から、浅井了意という、江戸時代前期の浄土真宗のお坊さんが書いた「浮世」論を引用してくるのです! 英検2級どまりの筆者が強引に要約すると……「『浮世』とは、日本の風土に根ざした無常感から生まれた、日本人の現世享楽主義を体現する言葉です。」(この要約に疑問を覚えた方は、ぜひちゃんと原書を読んでください!)
大英博物館のミュージアムショップで販売されていた浮世絵に関する書籍『FLAOTING WORLD』(British Museum Press/ISBN 978-0-7141-2434-6)
われわれ日本人の多くが、「日本史の教科書で太文字になっていた言葉(テストに出る)」としか認識していない「浮世絵」を、彼らは上記の通り、思想的背景から学んでいるんです。日本文化に興味のある外国人が、日本人より浮世絵に関する造詣が深くても当たり前!
「でも、日本人として自国の文化である浮世絵のこと知らないのは、ちょっと恥ずかしいかも〜」と思った方は、このまま次章を読み進めるか、ルース・ベネディクトの『菊と刀』を読みましょう!
2章 浮世絵で日本の技術力と民度の高さを語ろう
ところで、なぜこんなにも浮世絵が世界中で評価され、各国の美術館・博物館に収蔵されているのでしょうか。
19世紀、浮世絵が大量に輸出されたきっかけは、こう伝えられています。「日本から輸入した陶磁器の梱包材に、浮世絵が使われていたのを西欧人が発見した」と。真偽のほどはわかりませんが、このエピソードが物語っているのは、それほどに、浮世絵は日本ではありふれたものだったということです。
歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
極東の島国では、こんな高精細のフルカラーの印刷物が、梱包材に使用されている! 当時のヨーロッパの人たちは、日本の文化レベルに度肝を抜かれたわけです。もちろん、同時代に欧米諸国に印刷技術がなかったわけではありません。けれど、色彩豊かな絵画や高精細の印刷物を楽しむことは、ごく限られた一握りの王侯貴族と富裕層にのみ許されたものでした。
この色鮮やかな印刷物を、庶民が蕎麦一杯の値段で買えた国、ニッポン。(※時期・作品によって価格は変動しています。)浮世絵は、印象派の画家たちが愛し、ジャポニスムという流行を生んだことからも、美術工芸史上の評価で語られがちですが、実は、産業技術史、あるいは流通経済史の面から、もっと語られてしかるべきものなのです。
現代の日本社会を支えるビジネスパーソンの皆さまには、江戸時代から続くニッポンの技術力、そして民度の高さに、大いに誇りをもっていただき、海外の方と熱い浮世絵トーク、そして日本のテクノロジー談義を楽しんでいただければと思います。
3章 浮世絵師別攻略法 クライアントの好みを知ろう!
さて、ここからは、浮世絵や絵師のことを知ると、こんな会話ができます、というトーク例を。(さすがに一夜漬けでは厳しいかもしれませんが。)今回は、江戸東京博物館で開催中の「大浮世絵展」(2020年1月19日まで)でもピックアップされている5人の人気浮世絵師を取り上げ、彼らの作品に触れつつ、やや無理矢理ながら「ちょっと意識の高い自分」の演出にかこつけてみました。個性豊かな浮世絵師たちの特徴をつかめば、クライアントの興味対象やビジネスに対する姿勢について、会話を引き出せる、かもしれません!(本章はちょっと長いので、お時間ない方は、先に4章へお進みください。)
①ダントツ人気No.1! 世界を魅了する天才・北斎の世紀をこえたグローバリズム
【北斎の特徴】
□「神奈川沖浪裏(通称:Great Wave)」や「赤富士」を描いた、世界的知名度No.1の浮世絵師。
□ 幾何学的な構図。西洋の絵画も含め、さまざまな画派を研究し、森羅万象なんでも描いた。
□ 90歳まで生きた長寿。改名30回、引越し90回の変わり者。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(復刻版・アダチ版画研究所制作)
「え、ケンさんも北斎がお好きなんですか? 僕もなんですよ。いやあ、やっぱり北斎は日本でも海外でもダントツの人気ですね。ちょっと前の話になりますけど、『LIFE』誌のミレニアム特集号(※)でも「世界の偉人100人」の一人として取り上げられていましたし。
北斎の浮世絵は、構図がダイナミックで、画面構成が計算され尽くしていますよね。北斎って、鎖国体制下の日本にありながら、輸入された中国や西洋の絵画からも積極的に学習していたそうなんです。いろんな画風がミックスされた、この無国籍な感じが、いま世界で受け入れられてるのかも、なんて思いますね。国境を越える探究心が、180年後の今日、グローバルな評価に結びついているのは素晴らしいことだと思います。
あ、これだけ作品はロジカルなのに、北斎って整理整頓ができなくて、部屋が汚れるたびに引越しして、93回も転居したってご存知でした?」
※『THE LIFE MILLENNIUM : The 100 Most Important Events and People of the Past, 1000 Year』(ISBN 978-0821225578)
②日本の風土を愛した「THE 和風」絵師・広重の強固なチームプレー
【広重の特徴】
□「東海道五拾三次」を描いた風景画の大家。「名所江戸百景」はゴッホも模写。
□ 作品にただよう四季折々の情緒、わびさびの精神。
□ 社会性・協調性のある苦労人。ときどき旅行でエスケープ。
歌川広重「東海道五拾三次之内 蒲原 夜之雪」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
「ああ、広重のこの雪の表現、良いですよね。雪の日の夜の空気って、本当にこんな感じなんですよね。え、パリってあんまり雪が積もらないんですか? 寒そうなイメージなのに。広重の作品って、すごく日本らしい季節感があるし、雨や雪の情景を、とてもドラマティックに描くなあって思います。ゴッホが模写した夕立の作品も、広重でしたね。
ちなみに、この雪の部分は、白い絵具で摺っているんじゃなくて、和紙の紙肌そのままなんです。素材の特性を活かした表現ですよね。
広重の作品って、これ木版画なのかな、ってびっくりするぐらい、表現が多彩なんです。版画を彫る職人、摺る職人との信頼関係が築けていたんだろうなって思います。いつの時代もいいものづくりに、チームワークは不可欠なんですよね」
③市井に生きる人々に光を当てた美人画の名手・歌麿のブランディング
【歌麿の特徴】
□ 個々の女性の美を描き分けた美人画で一世を風靡。
□ 歌麿美人はセクシーアイコンでありファッションアイコン。
□ 繊細な心の持ち主で、プライドが非常に高かったと推測されている。
喜多川歌麿「婦女人相十品 ビードロ(ポッピン)を吹く娘」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
「以前、マカオの支社に出張したとき、夜の街を歩いていたら、ポン引きの兄ちゃんの口からウタマロの名前が出てきてビックリしたことが(笑)。ええ、そうなんですよね、歌麿って遊女の作品のイメージが強いですけれど、実際には、こういう愛らしい少女の絵もたくさんあるんですよね。
正直、浮世絵の美人画って、みんな似たような顔なんですけれど、歌麿の美人画は、いくつか見ていくと「この娘は気が強そう」とか「上品な感じの女性だな」みたいに、けっこう印象が異なるんですよ。なんていうか、人間くさいんですよね。
おそらく歌麿が、ひとりひとりの女性のキャラクター設定をすごく細かく行っていたからなんだと思うんです。作品ごとに世界観を丹念に作り込んでる。量産された大衆の娯楽なのに、熱意を絶やさず仕事をやっていた人なんだなって思います。それが結果的に、「歌麿」というブランドを作り上げたんでしょうね。」
④大コケしたけど歴史にのこった謎の絵師・写楽のプロモーション
【写楽の特徴】
□ 歌舞伎役者の顔の美醜までをリアルに描き出した役者絵が話題に。
□ 異例の特別待遇で浮世絵師デビューするも10ヶ月で消える。
□ 浮世絵史上最大のミステリー。現在は徳島の能役者・斎藤十郎兵衛の副業説が有力。
東洲斎写楽「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
「エレンさん、昨日は歌舞伎をご覧になられたとか。はい、そうです。この写楽の絵に描かれているのも、今から225年前の歌舞伎役者です。
写楽って、すごく不思議な絵師なんですよ。まったく無名だったのに、いきなり28図の役者絵を一挙にリリースする異例のデビューだったんです。
この絵、背景がグレーですよね。ちょっと金属っぽい光沢があるの、わかりますか? 絵具に鉱物性の物質を混ぜてあって、要は特殊加工が施されてるんです。それで当時、話題にはなったけれど、あんまり人気は出なかったそうで10ヶ月で消えちゃう。
写楽プロジェクトは大コケしちゃったけれど、ミステリアスに歴史に名を残したという意味で、超長期的なプロモーションは大成功だったわけですよね。正直、われわれの今回のプロジェクトも、かなりチャレンジングだと思いますが、どうせやるなら、これくらいインパクトのあるものにしたいなって思いますね」
⑤潜在需要を掘り起こし、浮世絵の裾野を広げたストリート系・国芳の発想力
【国芳の特徴】
□『水滸伝』のブームに乗じた武者絵で一躍人気絵師に。
□ 幕末の改革による様々な出版規制に対して、機知に富んだ作品で対抗し、庶民の支持を得た。
□ 猫と火事場が大好きな職人気質。総勢70名の弟子がいた親分肌。
歌川国芳「相馬の古内裏」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
「サムライの描かれた浮世絵が見たいんですか? そうですね、じゃあ、これとかどうでしょう。19世紀の半ば、徳川将軍家の治世が終わる、少し前に活躍した浮世絵師、国芳の作品です。
江戸時代は、戦争のない時代が250年以上続いたので、刀を振り回している侍が描かれている浮世絵って、思いの外、少ないんですよ。でも国芳の生きた時代は、天変地異や流行病、幕府の圧政や諸外国の侵出に、みんな憤りや不安を募らせていくんです。
そこに絶好のタイミングで、スーパーヒーローのイメージを、つまり武者絵を発表したのが国芳だったんです。人々の価値観がゆらいだ時期に、新しいニーズをしっかりとらえていたんですよね。現代は非常に目まぐるしい変化の時代ですけれど、そんな時代だからこそ、お客様が本当に求めているサービスを提案することが、私たちに求められているんだと思います」
4章 浮世絵に見る東西の文化交流を学ぶことは、明日の成約への第一歩?
2章で書いた通り、浮世絵は19世紀にヨーロッパに渡り、美術界に大きな衝撃を与えました。ヨーロッパを席巻したジャポニスムという大きな潮流も含め、日本人にとっては、日本文化が世界史を揺るがした一大事件です。が、誤解してはならないのは、こうした文化の影響関係は決して一方通行ではないということ。そもそも浮世絵は純日本産アートかというと、そうでもないのです。
マスメディアであった浮世絵版画の担い手たちの大半は、海外からもたらされる情報や文化、技術に敏感でした。浮世絵版画は、その歴史の始まりから、中国絵画を模倣し、西洋絵画の構図や陰影描写を盗み、舶来の品々を最先端のファッションとともに描いています。歌麿の作品には異国情緒漂うガラス器や染織品が描かれていますし、国芳は中国の長編小説『水滸伝』の絵画化で大成功を収めます。
さらに、技術や素材の面でも、浮世絵は海外からの影響が濃厚です。版画を摺るのに使用する、あの円盤状の「バレン」という道具。これまで中国や朝鮮半島にルーツがあると考えられてきましたが、最近、その語源がドイツ語のBallenである可能性も指摘されています。私たちが思っている以上に、浮世絵という文化はミックスカルチャーなのです。
浮世絵版画の摺りの様子。円盤状の道具がバレン。(画像提供:アダチ版画研究所)
そして浮世絵版画の制作に使用する絵具も、江戸時代後期にはヨーロッパからの輸入品が使用されました。特に浮世絵版画の風景を刷新したのは、「ベロ藍」と呼ばれたプルシャンブルーの絵具。ヨーロッパの人々は、版画となって逆輸入したプルシャンブルーの鮮やかな発色を、「広重ブルー」と称賛するのです。海外のマテリアルに、日本のテクノロジーが新たな価値を生んだ瞬間でした。
こうした浮世絵というメディアそのものが持つ進取の気質に、保守的な美術界に反旗を翻した印象派の画家たちの心が共鳴したのは、必然だったと言えるでしょう。そして私たち現代の日本人は、浮世絵を愛した印象派が大好きです。浮世絵は、洋の東西の文化交流の産物であり、また今なお促進剤であり続けます。
歌川国芳「宮本武蔵の鯨退治」(復刻版・アダチ版画研究所制作)
浮世絵の歴史について知るほどに見えてくるのは、インターネットも飛行機も無かった時代に、国や言語のボーダーを軽々と飛び越えて、異文化に学び、発信してきた人々の、ものづくりの物語。この物語は、海外の方々と一緒に仕事をするあなたを、必ずや勇気づけてくれることと思います。そして自国の文化への理解は、自然と他国の文化へのリスペクトにもつながるでしょう。
以上、本コラムでは、ビジネスパーソンのコミュニケーションツールとしての浮世絵の可能性を提案しました。ややこじつけた感は否めませんが、今後ますます多国籍化していくであろうビジネスの現場に求められる多様な価値観を養う上で、浮世絵は多くの人にとってアクセシブルな「日本文化の入り口」、そして「世界標準の文化への入り口」なのではないでしょうか。
5章「UKIYO-Eが見たい!」海外からのお客様と一緒に行こう
最後に、浮世絵が好きな海外のお客様に喜ばれる東京都内の接待スポット(?)をいくつかご紹介します。
江戸東京博物館(両国)
浅草など、隅田川沿いの下町観光ルートで外せないのが、江戸東京博物館。現在、浮世絵の人気作ばかりを集めた特別展「大浮世絵展」を開催中。江戸の街並みを再現した常設展とあわせて、タイムトリップしてみては。
所在地:東京都墨田区横網1-4-1
博物館公式サイト
◆大浮世絵展 -歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演
会期:2019年11月19日〜2020年1月19日
会場:1階 特別展示室
「大浮世絵展」公式サイト
古書店街(神保町)
浮世絵って、実はお店で買えるんです。神保町の古書店街には、浮世絵を専門的に扱っているお店も。和樂のこちらの記事を参考に、一日古書店街散策はいかがですか? 画集や写真集をお土産にするのも良いですね。
【和樂】500円からOK、浮世絵を買うなら神保町へ。初めての浮世絵購入案内
アダチ版画研究所(目白)
浮世絵は買える、とは言え、さすがに誰もが知っている名作は、ちょっと桁が違います。でもポスターじゃ味気ないし……そんな方には復刻版。江戸時代と同じ技法で、現代の職人さんがつくるリプロダクションです。外資系企業の法人向けギフトも多いそうですよ。
所在地:東京都新宿区下落合3-13-7
公式サイト