Craft
2019.08.23

職人の世界、和の世界をつなぐ、清澄白河のセレクトショップ「ten」【東京】

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昨今、日本の手仕事や日本のモノに惹かれる人が増えてきました。しかし、そのつくり手や職人の背景を直接知る機会はほとんどないのが現状です。そんな中、シンプルにわかりやすくつくり手の物語を伝えてくれているのが、清澄白河(きよすみしらかわ)にあるセレクトショップ「ten」です。2019年2月にオープンしたこちらの店主、山本沙枝さんにお店のコンセプトやこだわりをうかがってみました。

職人が身近な、工場を併設するセレクトショップ「ten」

清澄白河から歩いて15分ほど、地図を見ながら探しても、お店らしいものは見当たりません。それもそのはず。セレクトショップ「ten」は工場に併設されていて、通り側にあるのは工場の入り口。お店に入るには、建物横の細い道を通り、裏側にまわらなければならなかったのです。

建物とフェンスの間の細い道を通り、裏側にまわると…。

隅田川沿いにひっそりとお店を構える「ten」の入り口が。

店内には、日本の作家や職人がつくったうつわ、雑貨、アパレル商品、そしてオリジナルプロダクトもディスプレイされています。白を基調とした落ち着いた空間の隣に、工場があるとは驚きですが、「セレクトショップとして、ものだけでなく、実際にものづくりが見える環境で職人を紹介したいと思い、はじめからこのコンセプトで決めていました」と山本さん。

工場には金物職人の河合広大さんが常駐し内装、店舗什器の製作を手がけながら、店内にある大きなスロープやドア、什器なども製作(購入可能なものもあり)。お店と工場は扉ひとつで繋がって行き来できるようになっているため、普段見ることのできない職人の世界に触れることができるようになっています。
(河合さんのインタビュー記事はこちら

"/お店の試着室の扉を開けると、その奥に工場が繋がっている。

店内にある什器やオリジナルプロダクトは、河合さんだけでなくいろんな職人が携わっているのだとか。

「父と兄は神社仏閣の部材をつくる仕事をしているので、実家の工場にたくさん木があります。お寺では綺麗な白木が好まれ、節が入っていたりするものは燃やされ処分されてしまうのです。それがもったいなくて、何かに使いたいと思っていたのですが、なかなか自分がつくれる手段も、売る手段もありませんでした。ですが、お店をやる環境が整って、河合さんの影響で周りには職人も大工もたくさんいたので、そういった方たちと内装に使えるものを選びつくりました。」

檜の壁は、山本さんの兄(宮大工)がつくったもの。商品が置いてあるテーブルはイチョウの木で、木に詳しい父親からどういった木が割れないか、大きいものを作るにはどんな木が最適か教えてもらったのだとか。

「オリジナルプロダクトも同様です。桜の木のカッティングボードは、父に材料を頼み、什器を作った時の端材を大工さんに削ってもらったのです。ほかにも、檜のお皿や額などもあります」

山本さんがデザインのイメージを伝え、普段内装業をしている大工や職人がつくるオリジナルプロダクトは他にない唯一無二のもの。「やっぱりものづくりをする方が1番すごい」と職人をリスペクトする山本さんだからこそ、その魅力をいろんな形で伝えることができるのでしょう。

生活に取り入れやすい日本のもの

「セレクト商品は生活に取り入れやすい日本のモノを柔軟に選んでいます」と商品の紹介をしてくださった山本さん。

自宅で楽しめるお香のセットから、仏教儀式に用いられる塗香(ずこう)も。

「こちらのお香は東京香堂さんのもの。もともとは寺社に卸す、80年続いている老舗のお香屋さんですが、あとを継いだ娘さんがフランスでのアロマの勉強を経て、お香をより身近に感じてもらえるようにと、日本と西洋の伝統を掛け合わせた、香水のようにまとうことができるお香をつくっています。茶道のように、お香にも作法があるのだと思いますが、気難しくならずにまずは自分で楽しんでほしいというオーナーさんの心意気に私も共感しました」

そう話す山本さんは、大学で染物や織物を学んだ後、草木染めの染織家に弟子入り。そこで厳しいプロの世界を知り職人の道を断念し、その後岡山のジーンズメーカーに9年勤務。現在は日本のつくり手やモノを紹介するお店を開いていらっしゃいますが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

「父と兄は寺社建築をつくる宮大工の仕事、母は着物好き、日本の心みたいなものは自分の根底にあったのだと思います。でも、20代の頃は海外のブランドや思考に目が向いていました。日本のものに惹かれるようになったのは、5年前に始めた茶道とその先生のおかげだと思います。茶道は総合芸術ともいわれますが、書道もお花もうつわも実際に行いながら覚えていくとどんどん面白くなって、うつわは特に現代作家さんがつくっているものに注目するようになりました」

黒いカッティングボードは、山本さんが鉄媒染(てつばいせん)で染めたもの。上に置いてあるのは名刺入れで西川はるえさん作。

店内には、吉田直嗣さんや久保田由貴さんといった作家のうつわや、染織家・西川はるえさんの懐紙入れや古帛紗(こぶくさ)といった茶道まわりの商品も。これからお茶を始めるという方も足を運んでくれるのだとか。

「まだまだですが、お茶もいつかここで教えられたら」と話す山本さん。

「茶道もそうですけど、いろんな和の世界も、職人の世界もなかなか第一歩が踏み出せない方が多いと思います。なので、身近に思ってもらえるように、ラフに楽しんでもらえるように、こちらはその橋渡し役になれれば。古くからあるものは守りながら、若い人にも取り入れやすいように、日本のものを伝えていきたいと思います」

染織家に弟子入りしていた時は、主に染料作りを任されていた山本さん。「その頃が忘れられなくて。プロの人には敵いませんが、染めたりするのは好きなので、ショップバッグは自分で草木染めしています」。

店内にある商品について質問すると、「アパレル商品は『TALK TO ME』。女性の体がいかに美しく見えるかを追求しているようなブランドで、服飾デザイナーの池邉祥子さんが作る既製服ラインです。池邉さんが日常の中で感じた様々な事柄を衣服に落とし込んでいて、“TALK TO ME”という名前は『私と話す』という意味通り、自分自身の内面と向き合いながら生きていく姿勢を表しています。」と、ブランドの背景をわかりやすく説明してくれました。

山本さんとゆっくり会話を楽しみながら日本のつくり手を知り、背景を知り、心惹かれ好きになっていく。tenはそんな、買い物をするだけでなく、ものや人との出会いが生まれる楽しい空間で、ものの見方まで変わっていた私にそう気づかせてくれました。

撮影/とま子・白方はるか

「ten」 DATA

営業時間:13時〜19時/不定休(オープン日はInstagram@10_tokyoにて)
住所:東京都江東区佐賀2-1-17
アクセス:東京メトロ半蔵門線 水天宮前駅2番出口から徒歩5分,​東京メトロ半蔵門線 清澄白河駅A3出口から徒歩14分
※入り口正面は工場です。店舗へは工場横通路を通り裏へまわってください。
公式サイト

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書いた人

1995年、埼玉県出身。地元の特産品がトマトだからと無理矢理「とま子」と名付けられたが、まあまあ気に入っている。雑誌『和樂』編集部でアルバイトしていたところある日編集長に収穫される。趣味は筋トレ、スポーツ観戦。