「何をつくっても開化堂なんだから、と自信がもてるようになったのはここ数年のことです。実演販売で地方のデパートを回ったりすると、お客様から『開化堂のお茶筒には特別な茶葉しか入れられない』って言われることが多くて。僕は毎日飲む茶葉でいいので、毎日うちの茶筒を使ってほしいですけれど、その話はまた置いといて(笑)。それほどに”開化堂といえば確かな品質の茶筒”というイメージが浸透しているなら、茶筒だけにとらわれなくてもいいんじゃないかと」。
6代目隆裕さんは稀代のヒットメーカー。すべてのネタ元は代々の当主にあった
日本茶専売店に茶筒の卸売りが長年の商いの中心であったこの店。隆裕さんが6代目を引き継いだところから、国内外の家庭用茶筒販売に方向転換しています。開化堂の認知度が京都を超えて、国内外に高く広まったのは、隆裕さんが茶筒を「日本茶」以外にも転用させたこと。具体的には「紅茶の茶葉」「コーヒー豆」を収納する缶が若い世代の心をつかみ、大ブレイクに。
写真右から2つがコーヒー豆用に発売されたものだが、今ではシリアルや昆布・鰹節といった乾物を入れたりと自由な発想で使われているとか。「珈琲缶 銅200g」(直径11高さ16cm)23,500円(税抜)、「珈琲缶 ブリキ300g)直径11高さ21.5cm)21,500円(税抜)。*中ふた、スプーン付き、高さは取っ手含む
写真向かって右が「珈琲缶」。取手を付けて、直径や高さを変えることで茶筒のイメージを一新。取手がつくだけで洋風なたたずまいに見えるところが不思議です。左は開化堂の海外進出のきっかけとなったロンドンのお茶専門店「Postcard Teas」のオリジナル紅茶缶(現在は開化堂でも販売中)。この紅茶缶の画期的なところは2点あります。もうちょっと寄ってみてみましょうか。
「Postcard Teas缶 銅120g」(直径7.8高さ8.1cm)14,000円(
税抜)、「Postcard Teas缶 真鍮200g」(直径9.2高さ13.6cm)16,500円(税抜)。*押し込み中ふた付。
ひとつめは、店名の刻印とともに、ティーポットのイラストが刻まれていること。無地一辺倒と思いきや、こんな柄もつけられるのか、と発売当時は新鮮な驚きがありました。ふたを閉めるとぴったり絵柄を合わせられるのは、これぞ職人技。ふたつめには、紅茶缶に「押込み中蓋」が採用されていること。茶葉が減るのに合わせてふたが下がって、自然と密封されるデザインになっています。こんな「中ぶた」があったなんて、知らなかった!
「いやいや、どちらも新しいものではありません。実は柄を入れた茶筒は、これまでにもつくられていたんですよ。おじいちゃんがデザインした青海波の柄は僕の代で復刻しましたが、ほかにも社名をあしらったものも残っています。押込み中蓋も、昔からあったものなんです。僕の発想のヒントはすべて先代以降が残してくれた茶筒にあるんです」。
と聞けば、先達が残した茶筒も気になります。現在も発売中のものをご紹介しましょう。こちらは4代目が考案した携帯用抹茶缶。銅製の茶筒に加えて抹茶をこすための「ふるい」が収められた缶(左)を付けたところが、当時も今も画期的です!
「御抹茶用 銅40g(フルイアミ付セット)」(直径6.5・高さ6.5㎝)16,000円(税抜)。*ふるいにはヘラが、茶筒には中ふた・茶さじ・巾着つき。
5代目は携帯用茶筒を創案。これは、、、Tea Bag缶の前身の姿ともいえますね。
「携帯用 銅30g」(直径8高さ3.3cm)14,000円(税抜)*中ふた、茶さじ、巾着つき。写真の茶筒は経年変化によって色が変わっています。
「新商品を生み出す苦労はもちろんあるし、ストンとできたときの喜びもある」と言いつつも、これだけのヒット商品に囲まれながらも「自分がやりました!」という主張を押し出さない八木さん。
そこには、八木さんの開化堂の歴代当主に対しての思いがありました。「代々の当主は何もしていないわけではなく、新しいことには挑戦しているんです。売りたかったけれど、材料難の時代もあったし、時流に乗れなかったときもあるんでしょう。それを僕が今の時代に焼き直ししているといいますか。自分の代で売れるものがつくれたことは喜ばしいことですが、それは自分のもの、という感覚はありません。過去のものをつくり続けているうえでできた、という認識なんだと思います」。
驚愕! 6代目になって茶筒製作の工程がさらに増えました
新商品の「Tea Bag缶」しかり、茶筒という枠を超えたものが開化堂からどんどんと生まれているように感じます。八木さんの「海外では Food Container と説明した方が理解が早い」という言葉がまさにそうで、収納缶が今後は増えそうですね。
どんなものをつくるにしても、ブレないのは”昔ながらの手づくりで全工程つくる”という開化堂の姿勢。ひとつの茶筒におよそ130以上の工程があるといいますが、ここで最後の質問。
「技術進歩がめまぐるしいなか、省略できる工程ができたりしました?」
「それが、実は手数はさらに増えているんです(笑)。ふたの内側の継ぎ目の部分を見てください」と八木さん。
「つなぎ目のところ、角が丸くなっているでしょう? お客様に指が引っかかると言われることがあって、叩いて丸くしているんです。昔はここまで気を使ってなかった、というよりも一般の方と直接の取引がなかったので、こういった声は届いてこなかった。丁寧に仕上げるために、以前よりさらに工程が増えました」。
そしてもうひとつ、時代だなぁと思うエピソードも。
「若い子だけ限りませんが、生活空間に茶筒がなく育ってきた人は茶筒の開け方がわからないんです。ふつうは、手を上からふたにかぶせて、垂直に引き上げますよね? それを知らない人は、横から手をかけてふたを上に引き上げようとする。そうすると、うちの茶筒の場合は硬くて開けにくく感じるんです。なので、ふたの気密性はこれまで通りを保ちつつも、その開け方でもスッと開けられるように最近は仕上げています」
そこまでしても、開化堂の茶筒を使って欲しい理由があるんですね?
「ふたを開けたとき、閉めたときの心地よさ。これを知ってもらったら、大げさでなく意識が変わると思うんです。自分が気もちがいいと思うものが少しずつ増えていけば、暮らしも変わります。そのお手伝いができたらと願っているんです」。
わたしが手仕事に惹かれる理由も同じです。気もちよく使える道具は生活を変えてくれる! ティーバッグにしたって開化堂の茶筒に保存しておいたものは、お茶の味が違います。わざわざハードルを上げる必要もなし、自分の心地よいところから開化堂とのおつきあい、始めてみてはいかがですか?
開化堂
京都市下京区河原町六条東入る
075-351-5788
*開化堂が発信するカフェ「Kaikado Café」の記事と情報はこちらに。
*9月10日〜16日まで松屋銀座にて開催される「銀座・手仕事直売所」に開化堂が出店。実演販売を行います。13日〜16日は「Kaikado Café」も出店。どうぞ足をお運びください。
撮影/石井宏明
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