ドラマ『半沢直樹』がついに2020年9月27日(日)に千穐楽、もとい最終回が放送! 待望の続編は新型コロナウイルスなどの影響でドラマの外でもさまざまな苦難を乗り越えることとなりました。ツイッターをはじめSNSは常に大盛りあがり。中でも注目されていたのが片岡愛之助、市川猿之助、香川照之(市川中車)といった歌舞伎役者たちです。「顔芸」のおじさんたちが舞台でどうなるのか……と気になっている人も多いことでしょう。いや多いと信じています。半沢ロスに陥った皆様に猛烈にオススメしたいのが2020年10月2日(金)に全国公開となる『三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』(以下、『風雲児たち』)。2019年6月に歌舞伎座夜の部で上演され、高麗屋三代はじめ、豪華なメンバーを揃え連日満員御礼となっていた舞台が、満を持してシネマ歌舞伎に登場です! 私は劇場でも観ているのですが、歌舞伎が気になる方に、これ以上の入門はないのでは? と思うほどおすすめの演目です。今回はその魅力をたっぷりとご紹介します!
(あらすじ)
鎖国によって外国との交流が厳しく制限された江戸時代後期。大黒屋光太夫(だいこくやこうだゆう)率いる商船・神昌丸は伊勢から江戸へ向かう途中で激しい嵐に襲われます。8カ月もの漂流ののち、17人の乗組員たちがたどり着いたのは……なんとロシア領アリューシャン列島アムチトカ島。「日本に、伊勢に帰りたい」その一心で言葉も文化もわからないロシアで暮らし始めますが、厳しい環境に仲間たちを次々に失っていきます。なぜかロシアを奥に奥に進んでいく光太夫たちですが、ついにサンクトペテルブルクで女帝エカチェリーナに謁見することに……。
歌舞伎役者のうまさを味わう!出演者の魅力も盛りだくさん
今回の『風雲児たち』にはテレビや映画でもおなじみ、三谷幸喜作品に参加経験のある役者が多数出演。伝統を守り「型」を継承するというイメージが歌舞伎役者にはあると思います。確かに名前や家の芸を守リ続けている方々ですが、自らの技巧をもとに、さまざまな世界にチャレンジしているんですよ。今回はその腕が存分に披露されています。
ちょっと頼りない部分もあれどロシアの大地に放り出されてもけして諦めず、乗組員たちがついていく「お頭」大黒屋光太夫役は高麗屋・松本幸四郎さん。「劇団☆新感線」に長く出演されるなど、歌舞伎以外の世界でも幅広くご活躍ですね。ニューヨークで歌舞伎の扮装で踊る不動産のCMで見たことがある方も多いのでは?2020年はオンライン配信歌舞伎公演「図夢歌舞伎」(ずぅむかぶき)を実施するなど、常に革新的な挑戦をされています。
『半沢直樹』では伊佐山部長を演じていた澤瀉屋(おもだかや)の市川猿之助さん。スーパー歌舞伎Ⅱ『ワンピース』『新版 オグリ』など、新作に積極的に取り組まれていて、その芝居巧者ぶりは国内外で高く評価されています。ロシアの大地に翻弄される乗組員・庄蔵と女帝エカテリーナの二役! 女方と立役を演じ分ける猿之助さんならではの、見事で鮮やかな変化は必見です。
「国税庁の黒崎」ですっかりお茶の間でもおなじみの松嶋屋・片岡愛之助さんは口の悪い乗組員・新蔵役。部屋子として歌舞伎の世界の門をたたき、片岡秀太郎さんの養子になりました。他の乗組員のように光太夫を表立って慕うわけではなくとも、長い旅路をずっと支えている新蔵。クライマックスの猿之助さん演じる庄蔵とのやりとりは涙、涙です。重厚な人間ドラマでありながら、歌舞伎の様式美も取り入れられたこの場面。現代劇も演じる方々だからできる細やかさと歌舞伎のダイナミックさが見事に溶け合っていて、ぜひ大画面でご覧頂きたいところです。
ちなみに半沢直樹つながりですと歌舞伎座上演時「教授風の男」として物語のナビゲーターを務めていた尾上松也さんは、今回語りとして、我々をシネマ歌舞伎へといざなってくれます。作中にも一瞬(?)ご登場されるので、お見逃しなく!
幸四郎さんのお父様・松本白鸚(はくおう)さんは船親司・三五郎とエカテリーナ女帝の側近ポチョムキン役。こちらも見事な二役!出番こそ多くないものの、圧倒的な存在感です。お孫さんにあたる市川染五郎さんものちにロシア語の才を開く磯吉役で出演。若々しく、伸びやかな演技が目を引きます。スクリーンにも映えるその華やかさは「これからの歌舞伎」を楽しみにさせてくれます。若手が多数出演し、それぞれに見せ場を演じているのも歌舞伎ファンにとっても大きなみどころでした。
また、ぜひご覧頂きたいのは日頃歌舞伎の舞台中心に活躍されている歌舞伎役者の皆さん。とりわけ記憶を失い、何もかも忘れたまま日本帰国まで光太夫たちと歩む小市役の市川男女蔵さん。当時からいい役だと思っていましたが、シネマ歌舞伎になることでその姿はよりくっきりと際立ちます。他にも書ききれないほどの素敵な役者さんがご出演されていますので、ぜひチェックしてくださいね!
三谷幸喜、13年ぶりの歌舞伎作品! 大長編漫画を歌舞伎に
三谷幸喜さんと言えば、日本で最も有名な脚本・演出家のひとりと言っていいでしょう。映画や舞台、ドラマ『古畑任三郎』『真田丸』など、数々のフィールドで名作を多数生み出してきました。意外にも歌舞伎は13年前にPARCO劇場『決闘!高田馬場』で手掛けたきり。今回初の歌舞伎座上演となりました。テーマとして選ばれたのがみなもと太郎さんの長編漫画『風雲児たち』の一部、大黒屋光大夫らが繰り広げる「ロシア編」。漂流民としてロシアにたどり着いた伊勢の漁師たちの物語です。
「これだけの俳優の皆さんが集まって、何をやっても歌舞伎になるので、逆に自由にやらせてもらおうと思った」とのコメントの通り、三谷節とも言える軽妙でわかりやすい台詞を気鋭の歌舞伎役者が口にし、歌舞伎でおなじみの見得、義太夫、鳴り物(生演奏)がふんだんに取り入れられています。それに加えて豪華なセットや仕掛けが舞台を彩るという贅沢さ。
今回は映画の尺に合わせて新たに編集されることとなったそうですが、三谷さん自ら監修。スクリーンでしか観られない作品となっています。「(自分が関わった歌舞伎がシネマになるなんて)夢のような話で、ワクワクを通り越してガクガクしています」とのこと。
シネマ歌舞伎だからこその作品! 映画館で至高の贅沢を
編集されたものを観ると、たしかに上演時とは変わっていて、その違いに驚きました。大黒屋光太夫たちの旅は交通手段もろくにない時代、日本人が誰も知らないロシアの広大な大地を巡るという壮大なものです。イルクーツクにカムチャッカに……あちこち行くだけに、距離や位置などが少し把握しにくかったのですね。シネマ歌舞伎では地図が登場し、まず、尾上松也さんの声で解説をしてくれます。その旅の過程、想像を絶する大変さがイメージできますよ。
こだわりのカメラワークも必見! 松本幸四郎さんの憎めないお頭ぶり、市川猿之助さんの1秒ごとに変化する表情、片岡愛之助さんの抑えた中ににじむ熱など、出演者それぞれの表情や芝居が大画面でたっぷりと楽しめます。見せ場のアングルにはスタッフの職人魂を感じました。松本白鸚さんなど、兼役も多いのですが、クローズアップで見るその違いにも驚かれることでしょう。豪華な舞台セットや衣裳のディテール(エカテリーナのドレスはまるで宝塚のような豪華さ!)、作中登場する犬ぞりのワンちゃんたちのもふもふ感。オペラグラスをレンタルしなくてもアップで見られる、これもシネマ歌舞伎ならでは醍醐味ですね。吹雪の表現の美しさもみどころです!
このワンちゃん(シベリアンハスキー説が濃厚)達、公演で客席も大盛りあがり。実は歌舞伎のスピリットを深く受け継いだ存在なのです。歌舞伎には馬を筆頭に鳥や牛、動物がたくさん登場。その演技も楽しみのひとつです。歌舞伎座ギャラリーでは動物たちの一部も見られますよ♪ 開館になったらぜひ行ってみてくださいね。(検索 歌舞伎座ギャラリー 子どもも楽しめる歌舞伎座ギャラリーとは?アクセス・料金・楽しみ方・魅力も紹介)
今この時代だからこそ。苦難を乗り越える光太夫の言葉が刺さる
現代では定番となった『勧進帳』『仮名手本忠臣蔵』も、始まりは新作。今回の三谷かぶきはお茶の間の身近さ、歌舞伎の持つ歴史の重みとのバランスが絶妙でした。見たことない人でも気になり、歌舞伎ファンも楽しめる。今後再演が繰り返されれば、歌舞伎のレパートリー入りもあり得るでしょう!
今年は歌舞伎座も長い休演となりました。「神に祈ったってどうしようもない」ラストシーンの光太夫の独白が、昨年とは全く違う意味合いを帯びたように感じます。乗組員を次々失い、心身ともに傷つきながらそれでも伊勢に帰るのだと何度も立ち上がる光太夫たちの姿に感動すること間違いなし。存分に楽しみながら、勇気をもらえる作品です!
新作シネマ歌舞伎 『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』
公開日:2020年10月2日(金)~22日(木)※一部の劇場で延長あり。東劇・新宿ピカデリーほか全国公開。
上映館はこちら
上映時間:2時間18分
料金:当日 一般2,200円(税込) 学生・小人1,500円(税込)
予告編:新作シネマ歌舞伎 『三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち』予告編
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