Culture
2020.11.24

笑って開運!浅草・伝法院通りの江戸ダジャレ「地口」の行灯ってなんだ?

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露店や土産物店が連なる伝法院通り。店で売っている雑貨などに目がいきがちですが、ふと上を見ると、街灯代わりのダジャレの行灯があるじゃないですか。

調べると、江戸から明治にかけて流行した言葉遊び「地口」を行灯にしたものらしい。伝法院通りの老舗天ぷら屋「大黒家」主人の丸山眞司さんが詳しいと教わり、お話を聞いてきました。

庶民のうっぷんは洒落で解決!?

「大黒家」は伝法院通りに立派な看板を掲げ、ごま油のいい香りを漂わせます。博識な丸山眞司さんがお話を聞かせてくださいました。さっそく地口行灯の話を聞くはずが、

「台東区のお寺に、どれぐらいのお骨が埋まってると思う?」

と、不意打ちクイズ。そんなのわかりません!

丸山さん:台東区内には、上野の寛永寺、浅草の浅草寺をはじめ、たくさんのお寺があります。1つのお寺にあるお墓の数と、1つのお墓に入っているお骨の数を想定して計算すると、全部で70万ほど。台東区の人口が約20万として、お骨が70万。私は冗談で「幽霊人口」なんて言ってるけど、台東区は生きてる人間より死んでる幽霊人口のほうが多いの。だから、東京中に「おじいさんのお墓が上野や浅草にある」という人がたくさんいるわけ。

――つまり、浅草はお正月だけにぎわう街でなく、多くの東京人にとっての墓のある街。すごい数の人が命日や法要などのためにやってくるというわけですね。

丸山さん:台東区は23区で一番狭い区ながら、すごい数の人が法事などで訪れる街なの。歴史をさかのぼると、江戸の町の7割以上が武家地、寺社地で、その間に人口の7割を超える庶民が住んでいました。火事が多い江戸では、延焼を防ぐために壊しやすい簡単な造りの長屋がほとんど。そんな暮らしで生まれた暮らしや政治に対する皮肉や風刺を、誰ともなく洒落や言葉遊びに込めるようになり、地口行灯が生まれたとされています。江戸っ子は突っ張るからね!

――伝法院通りの地口行灯は、いつごろ設置されたんですか?

丸山さん:今から約30年前ぐらいでしょうか。文章は、昔から言い慣わされたものです。荒川区の泪橋に、「大嶋屋」というちょうちん屋があって、そこをたずねると詳しいことがわかると思うよ。

地口の語源は似口(にぐち)がなまったもの

取材の数日後、丸山さんから地口行灯についての資料が送られてきました。それには、

「地口行灯のルーツは、享保年間(1716~36)までさかのぼる。地口という洒落や言葉遊びが流行し、それに合わせた滑稽な絵を描いて箱型の行灯に仕立てたものが「地口行灯」として作られるようになった。地口とは、似口(にぐち)がなまったものとされている」

「旧暦で新年に当たる2月の最初の午の日は、稲荷神社の縁日で初午と呼ばれる。江戸では初午の祭礼のときに、参道の両側に地口行灯を吊るし、人々を楽しませていた」

といったことが記されていました。ところで、なんで初午と地口行灯が結びつくのでしょうか。泪橋の大嶋屋へ行って、聞いてみましょう。

祭りの行灯にダジャレを入れたのがはじまり?

荒川区・南千住。泪橋と呼ばれる一角に、「泪橋大嶋屋」は位置しています。創業は、大正2年(1913)年で、現在の頭首・村田修一氏は三代目。年末は酉の市、年始は初午と、ちょうちん店は年末年始が繁忙期なので、さくっとお話を聞きました。

行灯の光できれいに透けるよう、布地などに使う染料で着色される

――浅草の地口行灯は、村田さんが手がけられたのですか?

村田さん:十数年前に、依頼を受けて制作しました。地口の絵紙は退色しやすいので、描き替えの依頼がありましたがタイミングが合わず、別の職人が描き直したと聞いています。地口の絵紙には通常、和紙を使いますが、街灯用なので、ガラス繊維を配合した用紙に描きました。文章や絵柄は昔から続くものです。

――ずいぶんお上手ですが、厳しい修業をなさったのですか?

村田さん:大嶋屋はちょうちん製作が中心で、地口絵なども手がけています。ちょうちん屋は、字は書いても絵は描けないので、凧絵師の今井鉄蔵さんに3年ほど教わり地口絵を習得しました。ちょうちんの字や家紋、地口の絵は決まったものを数十枚、何百枚と描くので、誰でもできるようになると思いますよ(笑)。

――ところで、なんで稲荷神社の祭礼である初午祭に地口行灯を飾るようになったのでしょうか。お稲荷さん、お狐さんをダジャレで笑わすとご利益があるとか……!?

村田さん:江戸の町には町会ごとに祀っているほどに、稲荷神社が多くあり、お稲荷さんの縁日である初午祭も活発でした。祭りの日は夜道を照らすために行灯を掲げ、それだけじゃつまらないとダジャレを描き、字だけじゃ殺風景と絵も添え、町会ごとにどこがおもしろいかを競ったそうです。日本人は言葉遊びが好きですからね。

おまけ:伝法院通りの地口行灯全紹介!

ちょうちん店の村田さんは、「バカバカしいほどおもしろい」と言いますが、本当にその通り。次に浅草に出かけたときは、クスっとおかしい地口行灯を探して歩いてくださいね。一気に全部紹介します!

大かぶ 小かぶ 山から 小僧が ぬいてきた(大寒小寒山から小僧が泣いて来た)

はだかで 田つぽれ(裸でかっぽれ)

玉から 小僧が ないて 出た(山から小僧が泣いて来た)

たらいに 見かわす かおと かお(互いに見交わす顔と顔)

板きり むすめ(舌切り雀)

わらう顔には ふぐ きたる(笑う門には福来る)

あとの 号外 先に たたず(後の後悔先にたたず)

おやおや うず ばっかり(おやおやうそばかり)

ねた もの ふうふ(にたもの夫婦)

恵びす だいこ くう(恵比寿大黒)

目刺は 物を おこらざりけり(昔はものをおもわざりけり)

狸へ かえす 観音経(魂返す、反魂香) ※反魂香(はんごんこう)は焚くと煙の中に死者が現れるお香

大竹 のみ(大酒飲み)

えんま したの 力持(縁の下の力持)

本より 上うご(論より証拠) ※「上うご」は「じょうご」と読む。液体などを移し替える円錐状器具

はけに つづみ(竹に雀)

おかめ はちまき(傍目八目)

はねが はたきの 世の中じゃ(金がかたきの世の中)

大かめ もちだ(大金持ちだ)

はんぺん もらって たばこにしょ(三遍回って煙草にしょ)

とんで ゆに入る 夏の ぶし(飛んで火に入る夏の虫)

唐人に つりがね(提灯につり鐘)

ひまの 大工に 五十両(縞の財布に五十両)

井戸の 渕には 戸は 立られぬ(人の口には戸は立てられぬ)

ほうずきの こうべに かにやどる(正直の頭に神宿る)

余談ですが、泪橋の大嶋屋で地口絵を購入できました。神社などに納めるもので小売りを目的としていませんが、タイミングがよければ買えるそうです。ちなみに、小売単価は1,250円+税(枚数により割り引きあり)。安いものだから張り切って売っているわけではないですが」と、村田さん。でも、こちらとしては買えるとうれしい。自宅に貼って笑って開運したいよね!

■取材協力・お出かけデータ

大黒家(天ぷら)
東京都台東区浅草1-38-10
http://www.tempura.co.jp/

泪橋大嶋屋
東京都荒川区南千住2-29−6

伝法院通り
http://denbouin-dori.com/