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Culture
2021.01.29

100年に1度の大発見?関東最大級の環状集落「デーノタメ遺跡」は縄文のタイムカプセルだ!【埼玉】

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「縄文のタイムカプセル」。そんな異名を持つ遺跡があります。しかも、都心から電車で1時間足らずの場所にあるのです。それが「100年に1度の発見」と学者をうならせた、埼玉県北本市の「デーノタメ遺跡」。
デーノタメという言葉から、縄文のタイムカプセルと呼ばれる遺跡の不思議をひもといてみませんか。

埼玉県北本市で発掘された、縄文1500年のタイムカプセル

古代、埼玉にも海があった

デーノタメ遺跡について詳しく紹介する前に、イメージしてみてください。縄文時代には温暖化で氷河期の氷が溶けだし、埼玉まで海が広がっていたということを。
北本から大宮、浦和、そして川口あたりまで広がる大宮台地はいわば当時の湾岸エリア。台地には入り組んだ谷が刻まれていて、中小の河川がいくつも流れています。また、湧水も豊富でした。
わたしたちの暮らしに欠かせない水。古代文明が大河のほとりで生まれたように、縄文人も水辺に集落をつくりました。水の豊かな大宮台地には、たくさんの集落が密集していたのです。

縄文中期~後期に1500年続いたムラ、デーノタメ遺跡

北本市にはいくつもの縄文遺跡がありますが、なかでも大規模なのが江川の支流に面していたデーノタメ遺跡。ユニークな名前は、かつてそこにデーノタメと呼ばれた溜池があったことに由来します。
約5000年前の縄文中期、デーノタメ遺跡には南北に約210メートル、東西に約140メートルの「関東最大規模」といえる環状集落がありました。ムラの人々が水場として利用していたのが、水辺の低湿地。そこから土器や装身具、縄文人が食べていた植物の種実といった有機物までが、驚くほどきれいなまま出土したのです。

江川上流域の縄文時代の遺跡の分布 北本市教育委員会「デーノタメ遺跡の世界」より

デーノタメの集落は小さくなったり大きくなったり、位置を変えたりしながら、約5000年前の縄文中期から約3500年前の縄文後期まで続きました。つまりデーノタメ遺跡からは、縄文中期の遺跡と縄文後期の遺跡の2つが見つかっています。
1500年という長期にわたって人が住みつき、ムラが営まれていたのですから、きっと暮らしやすい土地だったに違いありません。
その秘密がデーノタメ遺跡に現在も残る、雑木林にありました。
地層の調査から、まるで時計の針を巻き戻すように、雑木林の変化と人々の暮らしぶりが見えてきたのです。

クルミ塚から見えてきた、雑木林の真実

デーノタメ遺跡の低湿地からは、貝殻を捨てた貝塚ならぬ、クルミの殻を捨てたクルミ塚が見つかっています。森でクルミを拾って食べたあとでしょうか。どうやら、それだけではないのです。
地層の花粉を解析してみると、集落に人が暮らし始めた当初、低湿地にはハンノキが生えていました。それがある時期、急にクルミに変わっているのです。つまり、食料を確保するためにハンノキを伐採し、意図的にクルミに植え替えたということ。クルミ塚とその付近からは儀礼用のクルミ形土製品やヒスイの大珠なども出土していて、豊作を祈って儀式を行っていたこともわかります。

デーノタメ遺跡の低湿地から出土したクルミ 北本市公式サイトより

直径5センチほどもあるクルミ形土製品 北本市教育委員会「デーノタメ通信 vol.3」より

証拠は土器にあり? デーノタメの食と農

もしも縄文土器を見る機会があったら、目を凝らしてみてください。土器の表面に小さな穴が見つかるかもしれません。土器を焼く前の粘土に石や植物の種、虫などがくっついたあと。圧痕(あっこん)レプリカ法といって、穴にシリコンを注入して型取りをし、それが何のあとかを調べる方法があります。デーノタメ遺跡の土器からも、大豆や小豆のあとが見つかっているそう。

小豆の圧痕が残る縄文土器 北本市教育委員会「デーノタメ通信 vol.4」より

最近の研究で、縄文時代にはすでに大豆や小豆を食べていただけでなく、栽培もしていたらしいとわかってきました。デーノタメ遺跡の大豆も長さが1㎝以上と野生の豆より大きく、栽培されたものと思われます。
また、低湿地からはコウゾ、ニワトコ、クワなどのベリー類も見つかっています。土器で煮てジャムにしたり、果汁を絞って発酵させて、お酒を作ったりしていたのかも。縄文人って意外と豊かな食生活を送っていたみたいですね。

漆塗りの土器と、泥のタイムカプセル

デーノタメ遺跡の低湿地から見つかったものは、まだまだあります。黒や赤の色が鮮やかな漆塗りの土器も、ぜひ見てもらいたいもののひとつ。煮炊きをする深鉢形土器ではなくて、ものを盛り付ける浅鉢形土器に塗られていたようです。
漆はたしかに日本の伝統工芸ですが、縄文人がすでにウルシの木から樹液を採取して、土器に使っていたとは驚くばかり。

漆塗土器 北本市公式サイトより

それに何千年もの時を超えて、まるで昨日塗ったように鮮やかな色の土器が見つかるなんて、不思議ではありませんか? 実はそこに、デーノタメ遺跡が縄文のタイムカプセルと呼ばれる秘密があります。ヒントは低湿地の水、そして泥。
木の実や漆のような有機物は、通常であれば時間とともに土の中のバクテリアによって分解されてしまいます。それが低湿地の泥炭層(でいたんそう)で空気から遮断されていたために、きれいな状態のまま悠久の時を超え、現代まで残ったのです。タイムカプセルにしまわれていたメッセージのように。

遺跡は語る。それは、わたしたちのルーツを探る会話です。
デーノタメ遺跡はわたしたちに知られざる縄文時代の暮らし、とくに食と植物利用の実態を教えてくれる貴重な遺跡です。

【連載 全11回】縄文と雑木林のまち、北本

自然とともに暮らすまち、埼玉県北本市。独自の縄文文化と豊かな自然を入り口に北本の暮らしの魅力を考えてみました。
第1回 都心から50分!人に一番近い自然ってなんだ?を埼玉県北本で考えた
第2回 感度の高い縄文人が集う、埼玉県北本。1万年前からずっと住みやすいまち「縄文銀座」で銀ぶらしてみた
第3回 100年に1度の大発見?関東最大級の環状集落「デーノタメ遺跡」は縄文のタイムカプセルだ!【埼玉】
第4回 縄文界に新アイドル誕生?北本土偶「きたもっちゃん(仮)」愛用の呪術アイテムも紹介!
第5回 デーノタメ遺跡で貴重な発見!なぜ北本縄文人たちは「オニグルミの土製品」を作ったのだろう?
第6回 縄文VS現代!災害リスクの低いまち、埼玉県北本市「どっちが住みやすいの?」対決
第7回 艶やかな七宝ジュエリーにドキドキ!作家・近藤健一さんが北本にアトリエを構える理由【埼玉】
第8回 埼玉県北本市に、今こそ行きたい店がある。日々の小さな幸せが見つかるgallery&cafe yaichi
第9回 人も、自然を構成する一部。縄文文化の根付く埼玉県北本市に聞いた「雑木林」の今
第10回 貴重な動植物の楽園!埼玉のまほろば、北本雑木林散歩が楽しい
第11回 ここは地上の楽園か?鷹やキツネ、希少な植物も育つ「トンボ公園」が教えてくれること【埼玉】
アイキャッチ画像:広報きたもと 2017年2月号特集「デーノタメ遺跡が拓く縄文の世界」より

書いた人

岩手生まれ、埼玉在住。書店アルバイト、足袋靴下メーカー営業事務、小学校の通知表ソフトのユーザー対応などを経て、Web編集&ライター業へ。趣味は茶の湯と少女マンガ、好きな言葉は「くう ねる あそぶ」。30代は子育てに身も心も捧げたが、40代はもう捧げきれないと自分自身へIターンを計画中。