Culture
2021.06.05

サンゴの危機を救え!美ら海を愛する人々によってつくられた恩納村の海中サンゴ畑

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海の中には色がある。

ゆらゆらと流れるように泳ぐ青いルリスズメダイ。キラキラと輝くエメラルドグリーンに、鮮やかな黄色の斑点をもつテングカワハギ。そして生き物を守るように、どっしりと存在する色とりどりのサンゴたち。透明度の高い水中では、陸上と同じようにすべてのものがクリアに見える。力強く、そして色鮮やかな景色。自分の息の音しか聞こえない水中世界で見る色からは、「命の鮮やかさ」がよりダイレクトに伝わってくる。

しかしそんな美しき海の世界は、全世界的にゆっくりと、でも確実に「死」へと向かっていっているという。国連環境計画(UNEP)によれば、温暖化によって今世紀中に世界中の全サンゴ礁が消失するおそれがあるというのだ。サンゴ礁は海の生き物たちの大切な住み家であり、海洋生物の約4分の1がそこで生活をしている。つまりサンゴ礁が消失するということは、多くの魚たちがその住処を失うことを意味するのだ。

命の色をなくし、真っ白に死んだサンゴの世界

1998年、世界的にサンゴの白化現象が起こった。白化現象とはその言葉通り、サンゴが真っ白になってしまうこと。この現象はサンゴの体内に共生している「褐虫藻」という藻類が、海水温の上昇などのストレスによりサンゴ体内で縮小あるいは透明になり白色の骨格が透けて見える状態である。サンゴは動物であり、触手によってプランクトンを捕まえて食べるのだが、それだけでは自身に必要なエネルギーをほぼほぼ得ることができない。そこで褐虫藻を共生させ、その光合成エネルギーを得ることで生きているのだ。

白化している状態は褐虫藻が正常に光合成が出来ない状態なので、サンゴは重要なエネルギー源を失うことになる。つまり白化してしまったサンゴは、ゆっくりゆっくりと死に向かっていくことになるのだ。

沖縄県の恩納村にあるサンゴ礁も同年、大きなダメージを受けた。カラフルで美しかったサンゴは白化し、死んだ個体には藻がつきガラクタのようになった。どこまでもどこまでも続く白の世界。人々ははじめ、その光景を見て「きれいだな」と言ったいう。

浜辺に打ち上げられた白いサンゴ、死という目で見たことがなかったな……


その「白」がなにを意味しているのかに気づいた時、人々は衝撃を受けた。サンゴ礁は海で生活をする者にとって重要な存在だ。豊かな漁場であり、天然の防波堤であり、観光資源。そしてなによりも愛すべき、大切なふるさとの風景だった。

サンゴを守れ!立ち上がった海人たち

そんな悲惨な現状を目にし、恩納村漁協の海人たちが立ち上がった。
「子や孫の世代に美ら海を残したい」そんな想いの下、彼らは恩納村と協力しながらサンゴの研究、そして養殖をはじめたのだ。

まず彼らが行ったのは、沖縄県から許可を得て「親サンゴ」となる天然サンゴを恩納村海域から採取することだった。サンゴは有性生殖と無性生殖の2つの方法で増える特殊な生き物だ。サンゴは産卵をしてその子孫を増やす一方で、自身が分裂することでクローンを作りながらその身体を増殖させていく。彼らはこの性質を利用し、まずは親サンゴを増やす「畑」を作ることをはじめた。

恩納村はもずくの養殖が盛んな地。恩納村漁協の人たちはもずくの養殖方法である「ひび建て式養殖」をサンゴに活用することに決めた。ひび建て式養殖とは、砂地に鉄筋を打ち込み、その上にサンゴを乗せ養殖する方法。文字にすると一見簡単そうに見えるが、実際にはとんでもなく過酷な作業だ。鉄筋を重いハンマーで何度も打ち込んでいく。水中ではすべての動作に負荷がかかる。恩納村漁協の人たちは、そんな重労働を朝から晩まで行い、「サンゴ畑」を作り上げていった。

水中ってかなり動きにくいから大変だったろうな。

養殖サンゴを海へ

時は流れて2003年。養殖したサンゴを自然の姿に戻すべく、サンゴの植えつけプロジェクトが始動した。前例がなく、試行錯誤を続けたこの取り組み。無性生殖で増やしたサンゴを海の中に植え付けすることに対し、遺伝的に問題が生じるのではないかなどと危惧する声があがる中での手探りのスタートだった。

そして2004年には「チーム美らサンゴ」が発足。一般参加者にサンゴ礁保全の一端を担ってもらうことを目的としたこのプログラムは、沖縄県内外の企業がサンゴの植えつけに対し支援を行い、恩納村漁協や地元ダイビングショップなどが現場の運営を行った。後援には環境省や沖縄県、そして恩納村。

「子や孫の世代に美ら海を残したい」そんな想いから始まった活動は、同じ志を持つ人たちによって少しずつ、でも確実に大きな動きになっていったのだ。ここからは「チーム美らサンゴ」の現地協力企業であり、沖縄ダイビングショップLagoonのインストラクターである大嶋 紗織さん(以下大嶋さん)にサンゴの植え付けについてお話をお伺いした。

–大嶋さんはいつからサンゴの植え付けに関わっているのでしょうか

大嶋さん:2006年から「チーム美らサンゴ」のメンバーとして植え付けに関わっています。初めは奄美大島でインストラクターとして働いていたのですが、ダイビングを重ねていく中でサンゴについてもっと知りたいと思うようになり、サンゴの植え付けを行っていた恩納村のショップに転職しました。

–サンゴの植え付けでは試行錯誤があったと聞きました。どのような苦労があったのでしょうか?

大嶋さん:恩納村のサンゴ畑で養殖したサンゴを漁師さんが植え付け用に採捕し、細かく分けるのですが、そのサンゴをどうやって岩に固着させるのか、ということが難しいポイントでした。水中ボンドで固定することも検討されましたが、ボンドでは接着時に熱が発生してしまい、接着面のサンゴは窒息して死んでしまいます。ではまず何かしらにサンゴを固着させ、それから植え付けをしようと考えました。そこでハマサンゴの死骸を切断し使用していたのですが、ハマサンゴの死骸がそんなにあるわけでもありません。試行錯誤した末、石灰岩に近い成分で出来た小さなプレートに針金で固定するという方法にたどり着きました。

わたしたちはこれを「サンゴの苗」と呼んでいるのですが、この苗を一定期間海中施設で成長させてから、自然の岩場に受け付けるという方法を生み出しました。

–サンゴの苗はどうやって岩場に固着するのでしょうか?

大嶋さん:サンゴは分裂しながら群体を形成していきます。岩場に穴を開け、そこにサンゴの苗を差し込むことで、サンゴは成長しながらしっかりと岩場に固着していきます。

–サンゴ自身が自然に固着するのを待つのですね。

大嶋さん:そうですね。植え付けをした後は、サンゴの持つ力に任せます。
サンゴの植え付けは、サンゴを植えていっぱいに増やそうという活動ではありません。自然の力を信じながら、人の手でできるサポートをしていこうという動きです。サンゴのことを知り、そして自然の力を信じて守る。そうやって恩納村の海がサンゴでいっぱいになっていけばと考えています。

–植え付けの活動をする中で印象的だった出来事を教えてください

大嶋さん:一番心に残っている出来事は、植え付けしたサンゴの産卵にはじめて立ち会うことができたことです。それまで恩納村において、養殖サンゴが産卵するシーンをだれも見たことがありませんでした。無性生殖によって増えた養殖サンゴが岩場に固着し、自然界の中で産卵するということは大きな意味を持ちます。

サンゴの産卵は1年に1度だけ。5月から6月にかけての夜に産卵することが多いのですが、正確な時期はだれにもわかりません。わたしは植え付けしたサンゴたちが産卵する瞬間をみるべく、毎晩海に潜り続けました。夕暮れ時から22時くらいまで。期間にしてみれば1か月近く毎日潜り続けたと思います。

一般的に産卵と呼ばれますが、実際は卵ではなくバンドルと呼ばれる球状のカプセルみたいなものです。そのバンドルの中は卵(らん)と精子が入っており、このバンドルが海面に浮かび上がりはじけ、別のサンゴ由来の卵と精子に出会い受精するのです。

潜り始めて数十日目。ついにサンゴにバンドルがセットされているのを発見しました。ここまでくればサンゴの産卵が始まるのは時間の問題です。わたしは自分の子供が産卵するのを見守るような気持ちで、「がんばれがんばれ」と応援しつづけました。泣きながら震えながらその産卵の瞬間を待っていたのを今でも覚えています。

そしてその日の夜、養殖サンゴによる産卵を初めて確認しました。サンゴたちがどのように連携をとっているのか、いまだその謎は解明されていないのですが、サンゴは時を迎えると一斉に産卵をはじめます。真っ暗な海の中に漂う、雪のように美しいサンゴのバンドルたち。

その光景をしっかりとデータに残し、船の上ですぐに漁協の人に喜びの電話を入れました。自分たちが育てたサンゴの産卵、そして「よくやった!」という電話越しの声。あの日のことは本当に特別な思い出として覚えています。

–サンゴの養殖が開始してから20年以上経ちましたが、現在恩納村のサンゴ礁はどのような状況なのでしょうか

大嶋さん:恩納村のサンゴ礁は今とても元気です!これまで植えつけたサンゴの数は13,000本。当初懸念されていた無性生殖による遺伝的多様性に関しては、天然のサンゴとなんら変わらないレベルであるという研究発表がされました。「美ら海を残したい」「サンゴを守りたい」ただただその想いだけで行動してきたことが、少しずつ形になってきている状況です。2018年には恩納村がプロジェクト~世界一サンゴにやさしい村~を目指すとして「サンゴの村宣言」をし、サンゴを守る行動を地域全体で行っています。

–サンゴを守るため、植え付けの他にどのような活動をしているのでしょうか

大嶋さん:サンゴに直接的なダメージを与える赤土流出を防ぐためのグリーンベルト(ベチパーの苗)植え付けや、ビーチクリーン活動を行っています。ペットボトルやプラスチック製品は、長時間放置されることで細かく砕け、マイクロプラスチックになってしまいます。

海に漂っているマイクロプラスチックは、魚やサンゴが餌と間違えて食べてしまうので、そういったことを防ぐためゴミ拾いを行っています。

もうひとつ。わたしたちは「伝える」ということも行っています。環境問題を考えるにあたり、必要なのは「想像力」。現状を知り、そこからどのようなことが起こるのかを想像してもらえるよう、サンゴの話だけでなく気候変動や環境問題についてもお伝えしています。

知ることによって見えるもの 知ることによって守ることができるもの

今回実際にLagoonでサンゴの植え付けダビングに参加させてもらった。水中に潜ると、一面に広がる恩納村の色とりどりのサンゴ畑に思わず目を奪われた。「生」に溢れた、多くの人々の想いにがつまったサンゴ畑。そこには海の生き物たちのいきいきとした生活があった。

サンゴの植え付けに際し、環境問題やそれによる海の生物への影響を聞いたからだろうか。その日から海に行くたびにゴミが見えるようになった。言い換えれば今まではそこにあったであろうゴミが見えなかったのだ。

「知る」ことは、その問題に対し意識を向けることにつながっていく。サンゴの植え付けは、直接的にサンゴを守るだけではなく、海全体そして環境を考えるきっかけになるのだ。

1本の小さなサンゴの苗を植えるところから始まった、恩納村のサンゴの養殖。その活動はどんどんとその枝葉を伸ばし、いまや多くの人々の環境に対する意識へと根付いていっている。今後もその幹がさらに太くなり、そして広がっていくことを願ってやまない。

沖縄ダイビングサービス lagoon(ラグーン)

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お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター(ただの転勤族)。アルコールはきっちり毎日摂取します。 お酒全般大好物ですが、特に好きなのはクラフトビール。ビール愛が強すぎて、飲み終わったビールラベルを剥がしてアクセサリーを作ったり、その日飲む銘柄を筆文字でメニュー表にしています。 居酒屋の店長、知的財産関係の経歴あり。お酒関係の記事のほか、小説も書いています。

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編集長から「先入観に支配された女」というリングネームをもらうくらい頭がかっちかち。頭だけじゃなく体も硬く、一番欲しいのは柔軟性。音声コンテンツ『日本文化はロックだぜ!ベイベ』『藝大アートプラザラヂオ』担当。ポテチと噛みごたえのあるグミが好きです。