年末になると、次の年への期待が高まってきませんか?
今回は正月について3分でご説明します。いい正月を迎えて、幸先のよいスタートを切りましょう。
大正月と小正月
正月とは1年の最初の月のことですが、特に年始の行事をイメージする人も多いのではないでしょうか。
新年を迎える行事には、大正月(おおしょうがつ)と小正月(こしょうがつ)があります。
大正月は、大晦日の夜から1月7日までの期間で、新年に歳神(としがみ/毎年正月に各家にやってくる来訪神)を迎えることが主な行事です。
一方、小正月はその年の豊作祈願の儀式を中心としたもので、1月15日前後に行われます。
現在、「正月」と言えば大正月を意味することが多く、松の内(正月の門松が立っている期間)も1月7日までとされます(かつては小正月までの期間を松の内と呼び、今もそうしている地域はあります)。
本記事でも、大正月にまつわることを中心にご紹介いたします。
「1年の計は元旦にあり」……そもそも元日と元旦の違いは?
1月1日にまつわる言葉、元日と元旦。「日」と「旦」、この1本の線が示す違いは何だと思いますか?
旦の字は地平線から太陽がのぼる様子を表しており、元旦は1月1日の朝を意味します。つまり元旦は、1月1日全体を表している元日よりも限定的な言葉なのです。
正月にみんなで一斉に歳をとる「数え年」
数え年とは年齢の表し方の一種で、その人が生まれた年を1歳とし、新年を迎えたときにみんなで一斉にひとつ歳をとる方式です。
数え年は江戸時代まで一般的なものでしたが、明治6(1873)年、国の方針で満年齢を使用することになりました。しかし、多くの庶民はその後もしばらく数え年を使っていました。
新年に来る歳神は、新しい1年の命(年齢)と運気を与えてくれる存在と考えられていました。だからこそ、数え年は人々の暮らしに深く根ざしたものだったのでしょう。
初詣はわりと近代的な文化
初詣は、江戸時代中期から行われるようになった「恵方(えほう)参り」が由来となっています。恵方とは、歳神が来る方角で、明(あ)きの方とも言います。
農村地域では家で静かに正月を過ごす人々が多かったようですが、江戸には住まいから見て恵方にある寺社に参詣する文化がありました。
明治維新後、交通が発達して、少し離れた有名スポットへ出かけやすくなります。それを機に、恵方にこだわらない人が増え、好きな寺社に出かけて年始のお参りをする初詣が根づいていきました。
正月飾りと門松
玄関に飾りものをする家があちこちに見られるのも正月らしい風景です。
門松や注連縄(しめなわ)など、正月に向けて飾られるものを「正月飾り」と言います。特に門松は神の依代(よりしろ)であり、歳神が迷わずにやってくるための目印となりました。
正月飾りは、縁起のいい12月28日までに用意するものでした。
ここで大事な存在が、年男(としおとこ)です。この場合の年男とは、新年と同じ干支の年に生まれた男性ではなく、一家の代表者として年末年始の行事を取り仕切る人を意味します。
門松や松飾りに使う松を用意するのも年男の役目でした。神々や精霊が住まうとされる山へ行き、切り出した松の木を正月飾りに使いました。
新年を彩った飾りは、1月15日前後の小正月に、左義長(さぎちょう/どんど焼きとも)と呼ばれる火祭りで焼かれて役目を終えます。
日本人の生活様式が変化するにつれ、正月飾りは次第に簡略化・縮小化されていきました。それでも、今も正月に多くの家の玄関が飾られるのは、新年を祝う人々の心が変わらない証かもしれません。
おせち料理とお屠蘇
正月の食卓に並ぶものといえば、おせち料理。
「おせち」は、漢字で書けば「御節」、節供(せちく/節目の日にお供えする食べ物)を略した言い方です。
本来はいろいろな年中行事で供される料理でしたが、次第に1年で最も大事な行事である正月の料理を指すようになります。
おせち料理の内容は、地域によってさまざまです。
子孫繁栄につながる数の子、豊作祈願の田作り、健康を意味する黒豆、喜ぶに通じる昆布巻きなど縁起のいい食べ物が代表的でしょうか。
日持ちするものが多い印象ですね。この理由に、以下の説が挙げられています。
・正月の火は神聖なものとして扱われており、煮炊きに使うのを控えていた。
・神様を迎える正月の間、台所で騒々しく物音を立てるのを慎んでいた。
・女性を家事から解放するため。
いずれにせよ、普段のような炊事は行われなかったようです。ハレ(特別な日、非日常)とケ(日常)をしっかり区別していたのかもしれません。
屠蘇(とそ)も正月の縁起物で、中国から伝来した薬酒です。邪気を払い長寿をもたらすと言われ、数種類の生薬を清酒や味醂に浸して作ります。
屠蘇の名の由来も諸説あり、「『蘇』という悪鬼を殺す」「死者を蘇らせる」など言われています。
他にも縁起のいい飲み物としては、福茶(ふくちゃ)があります。これは黒豆や梅干しなどの縁起物を入れたお茶で、元日に若水(わかみず/元旦に初めてくむ水)を沸かして淹れます。
新年を祝う正月は、古くから大切な行事でした。だからこそ、いろいろな風物詩があり、時代の変化に合わせて受け継がれているのではないでしょうか。
年越しを前にこの記事を読んだみなさんにとって、新年がよい年になりますようお祈りします。
アイキャッチ画像:国立国会図書館デジタルコレクションより『新版引札見本帖. 第1』
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主な参考文献
『日本人の春夏秋冬 季節の行事と祝いごと』 新谷尚紀/著 小学館 2007年
『年中行事大辞典』 山田邦明・長沢利明・高埜利彦・加藤友康/編 吉川弘文館 2009年
『日本文化事典』 神崎宣武・白幡洋三郎・井上章一/編 丸善出版 2016年
『暦と行事の民俗誌:増補改訂版』 佐藤健一郎・田村善次郎/著 工藤員功/写真 八坂書房 2019年