2022年夏、冬に、それぞれ東京・観世能楽堂GINZASIXと、大阪・大槻能楽堂で、「能 狂言『鬼滅の刃』」が、上演されます。夏開催の東京公演は、チケットの予約販売を行ったところ、即完売! 今、大きな話題を集めています。
原作の吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)による『鬼滅の刃』は、人気の漫画作品。アニメ化もされて、幅広い世代から支持を受けています。主人公の少年が、鬼と化した妹を人間に戻すために鬼たちと戦う物語は、日本国内だけでなく海外にも多くのファンを獲得しています。
強力布陣で挑む!能 狂言『鬼滅の刃』が話題
この公演の演出は、狂言方和泉流の野村萬斎が担当し、また演者としても登場します。補綴(ほてつ・脚本制作)は、木ノ下歌舞伎を主宰する木ノ下裕一。歌舞伎演目を、歴史的な文脈を踏まえつつ、現代演劇としての可能性を追求する活動を日々行っています。監修はシテ方観世流で人間国宝の大槻文藏が担当。また、竈門炭治郎と竈門禰󠄀豆子をシテ方観世流の大槻裕一が務めます。
チラシのメインビジュアルは、原作者・吾峠呼世晴が、この公演のために描き下ろしたものです。キャッチコピーの「人も鬼、鬼も人」は、萬斎が考案。単純な勧善懲悪ではない原作の魅力が、能狂言でどんな風に表現されるのか? 期待が高まります。
『鬼滅の刃』ブームは、希望を感じる
木ノ下裕一さんと、大槻裕一さんに、大阪公演の会場である大槻能楽堂で、作品への思いをお聞きしました。
ーー原作の『鬼滅の刃』を読まれた感想は?
木ノ下:まず鬼の全てが悪という訳では無いという描き方が意外でした。鬼にも鬼の事情があって、悲しみがあるといった背景が、丁寧に描かれています。炭治郎がはじめに鬼を倒した後に、「生まれ変わっても、鬼にはなりませんように」と、その先を祈りますよね。敗れて消えていくものに祈る姿は、能と似ていると思いました。このような善と悪が分かち難い作品が多くの人に受け入れられている現実に希望を感じました。
大槻:キャラクターが、皆それぞれ弱い部分を持っていて。戦っているなかでも、悲しさ、弱さ、寂しさなどの表情が印象に残りました。これは、能が一番得意としている感情の表現でもあります。
能は、あうんの呼吸で舞台を作る
ーー原作では、『全集中の呼吸』など、呼吸の技が大きなポイントを占めていますが。
木ノ下:技の表現の仕方は、お客様のイマジネーションに訴えかけるような形で、演者の言葉と、お囃子の音楽で、想像して頂く感じでしょうか。
大槻:登場人物たちは、呼吸という見えないものを技にしていますが、能楽師はその場の気配を察するのが必要なので、少し似ているかもしれません。
ーーと言いますと?
大槻:通常の舞台では、公演の前に一回合わせて、そして本番を迎えます。個人での稽古は、もちろん行いますが。能舞台でお囃子や演者と一緒に演じてみて気づくことがあるんです。でも、お互いにディスカッションする訳ではないので。自分で気づくこと、空気を読むことが重要なんです。
ーーなるほど、言葉ではなくて、その場で習得していくのですね。
どうやって『鬼滅の刃』の世界観を伝えるか
ーー原作から補綴する上で苦労した点はありますか?
木ノ下:原作はスピーディーに物語が展開していくし、炭治郎のドラマだけではなく群像劇的な面白さもありますよね。そこをどう表現するか悩みました。能には五番立(ごばんだて)という上演方法があって、修羅物(しゅらもの)※1など様々なタイプの演目を、一日かけて行っていた歴史があるんですね。この五番立をぐっと圧縮して、今回の公演に取り入れることを、思いつきました。演者が複数の役を務めて、シテ方※2が変わり、炭治郎の成長や、鬼殺隊や、鬼たちの群像劇として楽しめる内容になっています。能を初めて見る人にも楽しんで頂けると思います。
ーー心がけたことは、どんなことでしょうか。
木ノ下:まず、世阿弥の『三道(さんどう)』という能作の指南書を読んで、能の作り方を学ぶところから始めました。それから、原作を全巻読んで、制作ノートを作って、ポイントになるところを書き出しました。古典作品の原作者をリスペクトして書くことは、いつも心がけているので。今回も原作を尊重して、能のスタイルで上演できるようにと書き上げました。
ーー炭治郎と禰󠄀豆子の二役を演じられますが、役作りはどのように?
大槻:能の『船弁慶(ふなべんけい)』※3では、前半を静御前、後半に平知盛を演じます。このように古典の作品で演じているので、男女の二役を演じるプレシャーは、特にないですね。どうやって二つの役柄を切り替えるかだと思います。また、能の場合は、役作りはしないんです。違和感がないようにシンプルに存在するように心がけるというか。『鬼滅の刃』の世界観を、どうやって伝えるか、そこを大事にしたいと思います。
最強の鬼・累と無惨も登場!
ーー下弦の伍・累(るい)を大槻文藏さんが演じ、鬼舞辻󠄀無惨(きぶつじむざん)を萬斎さんが演じられますね。
木ノ下:原作から感じた鬼の悲しみは、このお二人を見て、感情移入してもらえたらいいなと思っています。
ーーどちらも人気のあるキャラクターですが、どんなビジュアルになりそうですか?
木ノ下:面(おもて)はつけるのか、装束(しょうぞく)はどんなものかなど、いろいろと議論したり、実験している最中です。演出の萬斎さんは、「コスプレになってしまってはいけないので、バランスが大切」とおっしゃっていましたね。原作のイメージを尊重しつつ、能狂言として成立するようにと、試行錯誤が続くと思います。
原作ファンに、能の魅力を感じて欲しい
ーーこの公演で、初めて能楽堂へ足を運んで、能狂言を見る人もいるかもしれません。何かメッセージはありますか?
大槻:お囃子の迫力だとか、装束がきれいだなとか、能面は、こういうのを使うんだとか、何か一つでもいいので、つかんで持って帰って頂きたいですね。『鬼滅の刃』のストーリーが、能狂言になると、こういう風になるんだとか。キャラクターの個性と、演じている役者の個性が入り交じって生み出されるものも、面白いと感じて頂けるんじゃないかなと思います。
木ノ下:能には平家物語などの原作があって、それを知ってから見ると楽しめる芸能なんです。今回の公演は、『鬼滅の刃』が好きな方は、その原作をすでに知っておられるので、すごく楽しめると思います。あの漫画のシーンがこうなっているとか、色々発見があると思います。いつか能を見たいと思っていたという方は、是非この機会にお越し下さい。
能 狂言『鬼滅の刃』公演情報
東京(観世能楽堂GINZASIX):2022年7月26日(火)~7月31日(日)(完売)
大阪(大槻能楽堂):2022年12月9日(金)~12月11日(日)
チケット:全席指定11000円
購入方法:ローソンチケットでのみ販売
◎大阪会場チケットの最速抽選受付
抽選受付期間 2022年7月19日(火)12:00~7月31日(日)23:59
詳しい情報は、公式ツイッターhttps://twitter.com/kimetsu_nohkyoから